5.おでかけ
俺は今グレン王国の商店街にマシューと2人で、手を繋ぎながら突っ立っている。。
本来ならば俺とマシューは仲睦まじい親子として温かい目で見られるはずなのだが、まぁ、あの、アレですね。主にあの現場を見ていた噂好きの奥様の所為で「変態兄貴と可哀想な妹」という目で見られています!
なぜ、さっきまでヤンキィと楽しいレスリングをしていた俺がこんな所にいるのか?
それはギルドの中でのマリーさんとの会話から始まる。
「あなた、この街のどこにも出かけたことないでしょう?」
「ま、まぁこの街に来たのは初めてですからね……」
「丁度いいじゃない!今すぐにはこの時計台修理のクエストは受けれないわ。こっちにも色々準備があるのよ。だから、その間にマシューちゃんとお出かけしてくれば?」
「お、お出かけ?」
「そうよ!この街には面白いところがたっくさんあるんだから!そうだわ!私が案内してあげる!今すぐ行くわよちょっと待ってなさい!」
「え、あの、ちょ……」
「おでかけしたーい!!!」
「よし、俺達も支度をしよう」
はい。これが理由です。
その後、ギルドの受付の時の服から3分で出かける支度を済ませてきたマリーさんに、流されるように俺とマシューは拉致られた。
今日のファッションは控えめなベージュカラーのキャップ、デニムジャケットに白の無地のシンプルトップスとボトムにはダークカラーの膝下の丈のスカート。まさに大人の女性!という感じで、すごいオシャレである。マリーさんは容姿も整っているため既に通る男は皆見蕩れて通っている。
尚、受付の仕事は他の新人に任せたそうで。
「……マリーさん、綺麗っす………」
「そう?……ふふ、ありがと」
うん、マリーさん小悪魔。
そして「この街を語るならやっぱりここよ!」ということで最初に連れてこられたのが商店街なのである。
今、マリーさんはオススメという食べ物を買いに行っていて俺たちはそれを待っている形になる。
「ふふ、お待たせ二人とも。ここのコロッケはすっごく美味しいのよ!さぁ、食べてみなさい!今日は私が全部奢ってあげるわ!」
最初にマリーさんが買ってきてくれたのはコロッケ。丁度お昼時で、お腹が空いていた俺にとってはありがたい。でも、あんなに並んでいるお店なのに買うのがやけに早い気が……
「いや、まぁその、無一文でスミマセン………んっ!?う、美味いっ!!」
「お、おいちぃ!!」
外はサクッ!中はホックホク!ポテトとお肉のバランスが神がかり!口の中でお肉の旨みとポテトの甘味が混ざりあってこれは、もう……
「宝石箱やぁぁぁ!!!」
「でしょ!?これはもう癖になるのよ!!」
「マリーさん、初っ端からやばいもの持ってきましたね……このあと、大丈夫なんですか?」
「ふふ……私の顔の広さを舐めてもらっては困るわ!今だって、店主さんに『これはこれはマリーさん!どうぞどうぞお代なんて結構ですから………』なんて言ってくれて、助かっちゃうわ!」
「わぁ………」
顔が広いっていうかもはや有名人扱いだぞそれ。だから早かったのか。
「さぁ!次は宿屋さんに行くわよ!」
「宿か……確かに今一番欲しいかもしれない……」
「ふふ、私の顔でなんとかしてあげるから見てなさい!」
と言うと、俺達の手を引っ張って宿屋へ入っていった。てか宿屋ってかこれホテルじゃね!?クソデケェんだけど!?
「いらっしゃいませ、お客さ────マリー様!!?」
受付の女性の人の反応から、察せれる部分があるなこれ。
受付なだけあって綺麗な人だが、マリーさんと並べるのは可哀想としか言えない。
「えぇ、お邪魔するわ。ロダンは居るかしら?」
「あ、少々お待ち下さ……」
「私は此処ですマリー様っ!!たとえ火の中水の中世界の反対側にいたとしても、貴女に呼ばれれば私はすぐに参ります!!」
わーお、すっげぇ人きた。ロダンと呼ばれた男は宿屋の受付の奥の壁のドアからバーン!と出てきた。ムッキムキな彼ははっきり言わなくても宿屋さんの受付に向いていない。
「ふふ、それは頼れるわね」
「ありがたきお言葉っ!!一生貴女に忠義を尽くしますっ!!!」
「ありがとう。なら一つ頼み事をするわね」
「なんっなりと!!!」
「ここにいる2人を無期限で無償宿泊させてあげてほしいのだけれど?」
「御身仰せのままに!!!」
「うふふ、ありがとう。ではよろしくね?」
「わかりましたっ!!!」
「あ、あの、お世話になります………」
「よろちくなの!」
若干引くまである。
マリーさんやばいわ。なんでそんなに強いんだよ。
怖いわーということで宿屋を後にしようとした時、ガシッと後ろから掴まれた。
「うわ────」
「おい糞ガキ……どうやってマリーさんと親しくなったのかは知らんが、少しでも手ェ出したらこの街の男全員でお前を一生××出来ない身体にしてやるから覚悟しておけ……?」
「断じてしません!!わっかりましたぁぁぁ!!」
いやいやいやいやなにが「怖いわー」だよ!めっちゃ恐ろしいわ!!
マリーさんやばいよアレもはやストーカーレベルだよ!!
「ま、まりーさぁん……怖いよここの人たち…」
「空くん良かったわね!無料でこの宿にお泊まりできるわよ!この国の中で一番の高級ホテルなんだから!」
「あ、やっぱり!?」
嬉しいけどこえぇぇ!!!夜に襲われるかもしれん。
次に向かったのは服屋。
今俺が着ているのは簡単な冒険者っぽい服とマントのみ。
剣以外に装備をつけているわけでもなくそこまで格好はついていない。
それを見たマリーさんが「男の子なんだからおしゃれしなさい!」と服屋さんに連れてきてくれたのである。
因みにマシューはギルドにあった適当な服を着せているだけであるため、それもマリーさんのオシャレ心に火をつけた理由なようだ。
そして、俺達2人は今、マリーさんの着せ替え人形と化している。
「はい!空くん次はこれを着る! 」
「わ、わかりました!」
「あら!マシューちゃん、それとっても可愛いわ!!次はこれを着てちょうだい!」
「わかった!」
マシューは大喜びである。感謝しますマリーさん。
最終的に20回ほど着替えさせられた俺とマシューの服たちは全てマリーさんによって購入(という名のプレゼント)され、俺達の荷物入れに入れられた。
今更だが、荷物はコマンドウィンドウに保管されており、大きさなど関係なく持ち運びが出来る。ただし個数制限があるため無限に入る訳ではないようだ。その為結局この世界にも収納が見られるのだ。
その後も俺達はマリーさんによって色々なところに連れていかれた。
オススメのバー、アイテム屋、武器屋、防具屋………それはもう色々な所へ連れていってもらった。
その度にマリーさんが怖かったのだが……
バーでは、入った瞬間に恐らく全従業員であろう人数が入口に整列し、「おかえりなさいませ、マリー様!」と出迎える。さらにマリーが何か言わずともマスターが一瞬で酒を用意し、
「大変お待たせいたしました……いつものです」
と膝をつきながらお酒を出していたり、マリーさんがそれを見ながらお酒を口にしたり、マリーさんが俺のことを口に出した瞬間俺の前にも酒が用意されたり、前から店にいた人達が「やべぇ、マリーさんだ!こんな所でお会い出来るなんて光栄だぁ…」とか言ってたり、マシューの前にはオレンジジュースが出されていたり……
とにかく、バーでは凄かった。
アイテム屋。
俺は暫く状態異常に困らなくなりそうだ、とだけ言いたい。
武器屋、防具屋も恐らくこの街でお金を出すことは無いだろうと痛感した。
途中から俺の方から「いえ、いいです!これ以上はいいですっ!」と奢ってもらうのを拒むようになるくらいである。
……本当に何者なんだマリーさんは………
マリーさん曰く、
「私は何もしてないのよ?でも、みんながチヤホヤしてくれるからなんか、それにノッてあげないのもだめかなぁ?と思って……」
だとか。
恐らくこの人は周りからチヤホヤされる体質なんだろうな羨ましい。
そして今は、レストランのテーブルについている。
取り敢えず高級そうだな。ていうか高級だよここ。この世界にもこんな所があるんだな……
因みに、ここに入る時も「ようこそ、マリー様」って名指しだった。もう何も言わない。
俺たちの前には料理が運ばれてきている。マリーさんが入った瞬間に厨房っぽいところからすごい音がしだしたから多分この人が来たらコレ!みたいなものがあるんだろうな。
俺の前にも同じ料理が、そしてマシューの前にもしっかりと別の料理が用意されているのがプロの技である。
「さぁ、頂きましょう?空くん、マシューちゃん」
「は、はぁ……頂きます…」
「いただきましゅ!」
マリーさんの食事作法は完璧で、とても綺麗だった。
俺も、そこら辺は弁えているが、マシューもしっかりとしたテーブルマナーで食事しているのがびっくりだ。
「空くんならともかく、マシューちゃんもテーブルマナーを弁えているなんて、凄いわね……あなた達、どこかいいところの子供なの?言わなかったけど、あなた達2人とも顔立ちがすごく整っているから……」
「いえ、俺は至って普通の家庭に生まれましたよ」
「まちゅーも!」
「そ、そうなの?……こんな完璧な兄妹、なかなか見ることないわよ?あなた達の御両親は立派な方なのね!」
「は?」
「私も一目会いたいわ!」
「いや、あの、兄妹……?」
「え?違うの?近所の奥さんから兄妹と聞いたのだけれど……?」
「近所の奥さんって……なんでそんなエセ情報が回ってるんすか……」
でも、よくよく考えてみると俺は自分のこと話してないし、マシューは話せないし、意外と俺たちのことを知っている人はいない。
「すごい言われてるわよ?なんでも、妹を裸にさせる趣味を持った兄………あれ?」
「ちがぁぁぁぁぁぁぁう!!!」
「調教までしてるとか…」
「してねぇ!断じて違う!誰ですかそんなくそ情報流した奥様は!!」
「奥さん、この目ではっきり見たっていってたんだけれど……」
「マリーさんの力でこの噂をすぐにでも断ち切ってください!!!」
「すぐって、私にそこまでの力は無いわよ……早くても2時間はかかるわよ?」
「やべぇなアンタ!」
人の噂も七十五日というけれど、この人の場合は2時間らしい。
「ま、まぁ、マシューも俺のことお兄ちゃんって呼んでますし、今まで話したこともなかったっていうか話す時間が無かったから誤解してても仕方ない部分はありますけどね……」
「おにいちゃんってよんじゃだめ?」
「全然呼んでむしろ呼んで」
「こうやって見ているとやっぱり兄妹に見しか見えないわね……」
「まちゅーはきょうだいでもいいよ?」
「マリーさん、これからは兄妹として生きていきます」
「その覚悟はすごいと思うわ……」
無事にマリーさんの誤解が解かれ、俺の社会的地位が約束された俺は、レストランを出た後、マリーさんと別れホテルへと向かった。
会計?ナニソレオイシイノ?
「あのーすみません、昼間にお邪魔した神木ですけども……」
「あ、はい!神木さん!お部屋は用意出来ています!早速ご案内いたしますね!」
対応してくれたのは先ほど受付を行っていた女性だった。
「あの、大変申し訳ないのですが、只今エレベーターの点検中でして、階段ということでもよろしいでしょうか……?」
「え?ええ、もちろん構いませんよ?」
「ああああ、あの、ありがとうございます!」
女性はめっちゃ慌てながら階段を登り始めた。
何故あんなに慌てているのかは分からないが。
俺達の部屋は3階に用意されていた。
「ごゆっくりどうぞ……」
女性は顔を赤くしながら受付の方へと戻って行った。
「なんであんなに赤面してるんだ……?」
「おにいちゃんがかっこいいからだよ!」
「……は?」
「まちあるいてたときも、すれちがったおんなのひとみーんなふりむいてたよ!」
「あ、まじか」
「おとこのひとがね、『まりーさんにつりあうにはあれだけのおとこじゃなければいけないのか……』とかいってた!」
「それは忘れなさい」
あ、うん。あの、つまりそういうことね……
「めんどくさ………」
俺は昔から結構モテてきた。正直顔がいいのは自覚している。
でも、まさかこっちの世界でもそんな事になるとは……
「おにいちゃんはまちゅーのじまんだね!」
「マシュー超可愛い天使」
ギューッと抱き上げるとマシューは嬉しそうな顔で笑う。
今日1日、色々なことがあった俺は、そのままベッドに倒れ込むとあっという間に眠りに落ちてしまった。