1.どうやら死んだようです
闇砂糖の新しい小説、その第一歩です!
少しでも多くの方に読んでいただければ幸いです……
正直に言おう。俺という人間、神木空は人生の勝ち組だ。いや、マジな方で。痛いやつとかじゃなくて。そんな目で見ないで。
勉強。余裕だった。この年まで分からなくなったことは、全教科通して一度もない。これからもない。必ず。
スポーツ。どの競技でもプロになれると言われた。負けたことは一度もない。負ける気もしない。
ずーっと、俺の人生は輝いているもんだと思っていた。全世界の人が、俺を敬って尊い慕う。
そんなもんだと思っていた。
……現実とは厳しいものだ。
只今負け犬人生を歩み中。初めて就職した会社で社会の裏を知り、上司にこき使われた。本来なら敬われなければならないはずの俺の能力が1ミリも使われる事なく、上司のミスをなすりつけられ退職を余儀なくされた。
それで経歴に傷のついた俺は、結局どこにも就職できずに、今日も落ちた面接から帰ってきていた。
「はぁ、俺の人生いつから狂っちまったんだろうな……」
道に落ちている石を蹴りながら1人悲しげに呟く。誰が聞いているわけでもないが、もう口に出さずには言われなかった。学生時代から「お前は大物になるぜ(真剣)」をされ続けただけに、そのギャップはすごい。
親からの仕送りは既に止まっており、1日食べるためにバイトをする、みたいな状況。
当然だが心身ともに疲れ果て「これ、盗っちゃおっかな」なんてお店で考えた事も少なくない。
「辛ぇな。死んじゃおっかな、もう…」
フラフラと石よりも硬い足を動かし家に帰る俺。ビュンビュンと音を立て、横を車が通っていく。
その時だった。
カツッ
「へ?………ドワァァァアアアア!!!」
落ちていたのはどーでもいい小さな石。俺はそれに躓き転んだ。それも道路の方向に。
更に俺はクッソ運の悪い男。
其処にはブレーキ音を轟かせながら突っ込んでくるトラックがいて…
「あ、まじ?」
俺はその短く儚いつまらない悲しげな23年間の人生をあっけなく終えた。
……ハズだった。
トラックに轢かれたのは多分間違いない。道端に落ちている小石に気付かずこけてしまい、タイミング良く(悪くというべきか)そこにトラックが、突っ込んできたのだから。
痛くなかった。どころかトラックの感触すらなかった。でも本能的に、「あ、死ぬなこれ」と感じ取った。
そして、視界が真っ暗になった。
暫く経ち、思わずつぶってしまっていた目を開いたらこの何にもない空間にいた。
そう、何にもない。
世界を照らす太陽も、月も、音も空も木も猫も犬も鳥も魚も水も電気もガスもゲーム機も隣に住んでるクソジジイも建物もトラックも壁も。
そして床も。
というわけで俺は今、絶賛自由落下中である。
いや、正確には落ちているかどうかもからない。風圧も何にもないのだから。もしかしたら空気自体が存在していないのかもしれない。
実際何も聞こえないし。
床の感触がないから何となく「落ちてるんかなぁ?」と思うだけでもしかしたら浮いているのかもしれない。周りを見渡しても白一色だからそれを判断する材料すらない。あ、自分の体は見ることができる。自分の手は見える。あと足も。
ということで特にすることもないから自分の体を観察していた。
体に何ヶ所も擦り傷がついているのは、事故の時に負ったものだろうか。
この謎の世界での俺の体は生前の俺の体なのだろう。おかげさまでずっと体が重くてだるい。
というかここは本当にどこなんだろ?死後の世界か何か?あ、だとしたら他の人もいるのかな?ド○ゴン○ー○とかの影響で死んだら閻魔大王に会わなきゃいけないみたいな感じなのかと思っていたけど。閻魔様いねぇし。つーかなんもねぇし。
うーん、考えても仕方のないことかもしれない。
どんな世界でも重力という絶対的な法則には抗えないのだろうが、やはりずっと落ちっぱなしというのは(確証ねぇけど)気分が落ち着かない。まだ死んでいない時は特に落ちることもない平社員もどきだったため、そっちの落ちるは経験したことないのだが。まぁそっちはそっちで落ち着かないのだろう。そんなことすら経験できずに死んだ俺は本当に可哀想なんだなぁと自分でも慰めたくなってきた。可哀想なぼく。よく頑張ったよ!
「本当に大変な一生を送られてきたのですね」
「あぁ、ホントホントってうわぁぁぁぁ!!?」
突然話しかけてきたのは羽の生えた女性。
まるで天使のような格好をしていて、事実容姿もそれに近く美しい。
「こんにちは。いえ、こんばんわ?おはようございます?夜分遅くに申し訳ありません?まぁなんでもいいのですが」
「いいのっ⁉︎」
「時間軸なんてここにはないですから。その時の気分次第で挨拶は変わります。你好」
「言語の壁すら超えるんだねっ!」
「そんなことはどうでもいいのです。そんな小さいことを気にするなんて…全く、これだからニートは」
「ハグうっ!」
「社会のゴミが。そんなんだから碌に就職も出来ないのです、社会不適合者が」
「うぐっ!」
「とっととこの世界から消えてなくなりなさい。死になさい」
「もうやめて!これ以上俺を傷つけないで!昔からお母さんに優しく育てられてたの!」
この暴言天使(仮)は俺の悪口を散々言ったあとに、それに飽きたのか真顔に戻って話を始めた。
「いいですか社会不適合者、略してゴミは正確には死んではいません」
「おいそれやめろ………って、え?そうなの?」
「はい。私は死を司る神、Thanatos様の忠実なる僕……名前は特に無いのでご自由にお呼び下さい」
「いや待てや、自己紹介の前に死んで無いってどういうことか教えてくんね?」
「とは言っても、やはり貴方のような人に名前を決められるのは嫌悪感を抱かざるを得ないですね。どうしましょう、どんな名前にしようか……」
「聞いてる?ねぇ?華麗にスルーするの止めてくれない?」
「可愛くエマなんてどうでしょう?エミリーとか、あとシャーロットなんて可愛らしいじゃないですか」
「ごめん泣いていい?」
「冗談です」
まるで冗談を言っていないような真顔で言い切りやがった。流石の俺もキレるところだった。言い切るだけに。
「死んでいないとはどういうことか?でしたよね、確か。あれ?違かったかもしれませんね…私はなんの話をしようとしていたのでしょうか?」
「本気で聞くなよ!」
「冗談は置いておいてお話をしましょう。まずここは死人が来るところではありません。正確には"死にかけた"人がくるところ。通称"生と死の狭間"」
ふむ、成る程。死にかけた人…ん?
「え、じゃあ俺はまだ死んでないのか?」
「さっきからそう言っています。理解力まで低いのですね。まぁ正しくは"もうすぐ死ぬ"なんですけどね」
「…へ?」
「第5世界の貴方…いえ、現実世界の貴方は現在トラックに轢かれて病院へ運ばれています」
「あ、やっぱり轢かれたのか俺」
「現在の貴方の状態は"意識不明の重体"と言ったところです。さらに詳しく言えば轢過による内臓破裂、脳坐滅となっておりますね」
「なるほど…だからもうすぐ死ぬって訳ね……あとその付け足した怪我の度合いを言った後に『まぁどうせあなたには理解できないでしょうが』って顔をするのを止めてくれ。マジうざいから」
おれにだって分かるぞそれ位。
要はあれだ。内蔵がパーンしてて、脳が坐滅な感じなんだよ。
「もうすぐ死ぬことに関して理解できましたね?」
「おい、スルーすんなこら」
「この空間は"生と死の狭間"と呼ばれています。私の仕事はどこかの世界で"即死"以外の死に方で確実に助からない人を見つけ、それを別の世界へ転移させて生き延びさせるということです」
「へぇ〜……転移!?」
「はい。貴方はトラックに轢かれて病院へこそ運ばれましたが、あと1時間ほどで死にます」
「え、1時間っ⁉︎短っ!もうちょっと耐えよ?俺!」
「なので、この空間へ魂を連れてきて、別の世界へ転移させる事を選んだのです」
「な、なるほど…サッパリ理解できねぇが言いたいことは納得できた」
つまり俺はもうすぐ死ぬけど即死ではなかったから「死んだ貴方に第二の人生を!」みたいなサービスを受けることができてるみたいなことでいいのかな。
「という訳で早速転移の準備に入らせて頂きます。貴方に転移してもらうのは…そうですね、生物のバランス的にも第8世界でしょうか」
「第8世界…?そこは一体どんなところなんだ?」
「簡単に言うとRPGの世界です」
「え?マジで⁉︎当たりじゃね?これ!」
RPGと言えば、レベルみたいなのがあって魔物と戦えるみたいなやつのこと!子供の頃から結構そういうのに憧れてたりしたんだよなぁ。
確か幼馴染の女の子がよくディスクを持ってきてくれて、一緒にやったりした時から好きだった気がするな。あいつ、生まれつき体が弱いとかで中学の途中で転校しちゃって、それっきりだった。確か、あいつの名前は────
「逆に言えば転移3秒後に強い魔物に食い殺される危険性がありますが」
「場所を選んでクレェェ!!」
やめろよ?本当やめろよ?死んだあとにもっかい死ぬとかトラウマもんだからね?毎日夢で見るよそれ?死ぬけど。
「次は種族ですが…そうですね、カエルとプランクトン、どちらが良いですか?」
「うーん、だったらカエルが…ホントにやめろよっ⁉︎」
「それでは今と変わらず人間で宜しいですか?」
「あぁ!いい!寧ろそれだけがいい!」
「そうですか。では早速転移を…」
「待って待って待て!」
「煩いですね。なんですか?カエル?」
「誰がカエルだ!…そうじゃなくて、転移したらどうなるのかを教えて欲しいんだよ!」
「転移したら…そうですね、まず体格等はこのまま引き継がれます。記憶に関しては消すことになりますが、引き継ぐこともできますよ?」
「おい、選択するとこあるじゃねえか!なんで聞かずに転移させようとした⁉︎」
「いや、貴方は下らない記憶しかなさそうだったので消しちゃおっかなぁ、と」
「消しちゃおっかなぁ、で人の大事な記憶に手を出すんじゃねえよ!」
「あと…あぁ、転移特典で1つスキルをプレゼントします」
「だからなんでスルーしようとする⁉︎そこも大事じゃん!それないと喰い殺されるかもじゃん!」
「テキトーに[自動回復(極小)]でも与えようかと」
「なんだ(極小)って!どこのポッ○ーだよ!勘弁してくれよ!本当に死んじゃうよ!」
「スキルあげるので許して下さい。…あ、そうそう、この箱の中から1つ引いて下さい」
「ん?じゃあこれにしようかなっと…ところでこれは何だ?」
「スキル選びです」
「何故にクジ引きで選ばせたァァ⁉︎」
「貴方にはこんな所がお似合いです」
「もう生きられない!死ぬ!転移なんてしたくねぇ!!」
「さっきから煩いですね…このまま私が転移させなければ貴方この場で消えて無くなりますからね。激痛の特典付きで」
「転移するの楽しみだなぁ!!」
「それは良かったです。さて、貴方が選んだスキルでも確認しましょう…」
「はいはい、どんなスキルですか?」
「………」
「はい出ましたスルー!」
「コマンドウィンドウ…」
「は?なんて?」
「コマンドウィンドウを開きなさい」
「開きなさいって…どやって?」
「利き手を前に出して"コマンドオープン"と言えば開きます」
「んーと、コマンドオープン!」
「そうです、そしてご自分のステータスをご覧下さい」
「ステータス?えーと、ここ?じゃなくて、こっちかな?あ、ちげぇwこっちかな?何処だそれ?」
「貴方って機械音痴なのですか?」
「これ機械じゃねえし!別に音痴じゃねえし!」
「右上に表示されているでしょう?一応第5世界の貴方はかなりハイスペックだったと思うのですが?なのに残念な人生を歩んで…」
「あぁ、自分でもそう思うよ!右上か、これだな!」
「そこにご自分のステータスが出ているかと思われますが?」
「うんまあ出てるね。どうやってみんの?」
「機械音痴が」
「だから機械じゃねぇだろ!」
「兎に角ご自分のステータスを私に見せて下さい。ご説明して差し上げます」
「お、助かるわさんきゅ」
────status────
神木 空 人間 23歳 男 Lv.1
ー魔法一覧ー
ヒール・・・適度な回復。
エアーリフト・・・空中で少し浮ける。
存在消去〈エグジステンス・イレイス〉・・・???
ースキルー
自動回復(極小)・・・常に自動で極少量回復する。体感できないくらい。
<<<<end>>>>
「あ、自動回復付いてる」
「間違えて付けてしまっただけです気になさらず。それではまず上からやっていきましょう。名前、種族、年齢、性別はよろしいですね?続いて魔法ですが、貴方に行っていただく第8世界では魔法が使用できます。体力の消費を感じると思うので無駄遣いはやめて下さい。スキルは基本的に常時発動しているものです」
「成る程ねぇ。1つ質問なんだけどさ、こういうのであるあるな「HP」とか「MP」とか……
攻撃力みたいなヤツはないの?」
「はい。ありません。そちらの世界ではご自分で体力を管理することとなります。攻撃を受けても、魔法を使っても減るのは体力になります。攻撃力とかも、まぁヒキコモリのニートはそういうゲーム好きそうですから憧れてるのかも知れませんが第8世界にはそんな概念存在してませんよ。まぁ実際にやればわかりますがね」
「ふぅん、そういうことなのか」
「そういう事です。話を戻しましょう…それで、あなたの問題点はその魔法なのです」
「魔法?…存在消去ってやつか?」
「それ以外のわけないでしょう。…貴方が引き当てたその魔法はですね・・・第8世界での前魔王、ディアボロスの持っていた魔法なのです」
「へぇ」
「その様に、この世界の概念そのものである"存在"を司る魔法、及びスキルは[禁断]と呼ばれます」
「禁断…」
「貴方の存在消去はその名の通りの魔法です。まぁ恐らく体力の消費が激しいので最初は打つことすらままならないでしょうが……」
「ってことはこれやばいもん手に入れたって訳だよね?」
「当たり前です。と言うわけで神木空」
「はい?なんですか?」
「神木空…第8世界での貴方には監視役1名をつけさせて頂きます」
「へぇ…ふぇ?監視役?」
「第8世界で最初に会った者を監視役とします。そのおつもりで」
「いや、そのおつもりで、じゃねえわ!何だよ?いきなり!理由くらい教えろ…」
「理由なんて貴方が手に入れてしまった魔法以外に何があるのですか⁉︎…全く、500個も他に弱い物を入れていたのに、まさかあれを当ててしまうなんて…」
「やべぇ俺すげぇ!」
「他にも[寧ろ弱体効果]ってやつまで200個は入れていたのに…」
「お前は何か俺に対して恨みがあるのかな⁉︎」
「兎に角!貴方の力は危険すぎる!一番危ないのはその事を貴方が理解していないことです!」
「理解してないって言われても…そりゃまあ、どんな力なのかイマイチわからないけどさぁ」
「いいですか?貴方の持つそのスキル、[存在消去]とは、先程も言った通り元魔王の持っていたスキルなのです」
「うん聞いたね」
「その魔王、ディアボロスのやり方は恐怖政治、彼は世界を力で支配したのです」
「へぇ〜魔王らしいっちゃらしいね」
「そして更にですよ?その魔王の、世界を力で支配した魔王の持っていた最強最悪のスキルがこの存在消去なのです」
「やばぁ。そんな強いんだぁ」
「つまり、貴方は世界を支配できる力を手に入れた訳で……って貴方は真面目に聞く気あるんですか?さっきから軽い返事で流して…これ結構大事な話なんですよ?見ている人に重要って思わせなきゃいけないのんですよ?なのにどうしてそんなに軽いんですか?勘違いされたらどうするんです?」
「いやぁ違う違う、違うのよ。なんだこんなの手に入れちゃったんだぁ。世界を支配できるんだぁ。うわぁ、死にてえ。ってなって現実逃避してるだけなのよ」
「死にたい…?だったらあちらの世界に飛んだあとに自分に[存在消去]を使えば済みますけど?」
「こっわ!どうなるんだよそれ!」
「即死扱いなので生き返ることはできなくなりますね」
「やめようっ!自殺、だめぜったい!」
「あ、もうそろそろ逝っていただき…基、行っていただきますね」
「え?なに?俺逝くの?やだよ?変なとこに落とすなよ絶対に」
「大いなる神よ!この者に新たなる道を授けよう!」
「うわっ!な、なんだ?」
「気を付けて逝ってらっしゃい。あ、くれぐれも魔法は使っちゃダメですからね。使い方わからないんですから、世界ごと吹き飛ばすことだって有り得ますし」
「そりゃそうだろうね!なんとかしてくれよぉ!せめて教えて?ね?」
「大丈夫ですよ!なんてったって、[自動回復(極小)]がありますから!」
「嫌だぁぁぁ!!」
なんか死刑宣告受けた瞬間に俺の視界は真っ暗になった。あの糞天使、マジキチガイ。
暫くすると視界が明るくなっていった。
「ん、うわ!眩し…」
急に差し込んでくる光に目を瞑りながらも、少しずつ、目を開けていく俺。そして、自分の今の状態を確認していく。
まず、周りは木に囲まれているようだ。上を見上げると空が。下は、地面が遠くに見える。つまりここは木の上なのか?
取り敢えずよく分からないから右腕をぶんぶん振って周りを確認する。
ブンブンブンブン バシッ ピキピキ
なんかに当たった。
薄目でその"なにか"の方に目を向ける。
「うわーお、えくせれんと……」
そこに居たのは、卵の殻に入っている小さなドラゴンと、その親と思われるちょーデカイ(あとカッチョいい)ドラゴン。
親ドラゴンは、鋭い目を俺に向けて、口を大きく開けた。
「ギシャァァァァァァァアアアアアア!!!」
はっはっは。冗談よしてよ。
「こんの糞天使がぁぁぁぁぁぁ!!」
出来ればスタートダッシュをしたいのですが、次の投稿は1週間後とさせていただきます……
基本的に日曜日の7時頃に投稿できればと…
ですが、私、ただ今大変Realが忙しく、その日曜更新も守れるかわかりません……
尚、闇砂糖の名前でTwitterをやっているので、宜しければご覧下さいm(*_ _)m