邂逅 甲
『二つの瞳が映すのは飢えた世界と消えた境界
二つの掌が握るのは壊れた時計と止めた時間
二つの脚が歩むのは廃れた道路と塞いだ隘路』
おじいちゃんが言っていた。
文明はとうの昔に滅んだと。
戦争が起きて、世界は汚れて遠くには出ていけないみたい。
都市のみんなは知らないらしいけど、おじいちゃんがなんでこれを知っていたのかは今の僕にはわからない。
おじいちゃんももういない。
「シンヤ、もう起きないと間に合わないぞ」
眠りと覚醒の間。うとうとする一番気持ちいい中、それを妨げる声の主である親友のショウへと顔を向ける。
「眠そうな顔しているけど、わかっているのか。今から誰に会うか」
寝るために組んでいた腕枕を解き、あくび交じりに僕は答える。
「知ってる知ってる。この都市で一番えらいひとでしょ」
「軽いなお前は。だから起きろって言ってたんだ。遅れてもみろ。どうなるかわかったもんじゃない」
「一番えらいひと何だから多少待たせてもだいじょうぶでしょ」
彼の心配を無下にする最悪の認識。
ボクの言葉に頭を抱え、ため息を漏らしている。
「俺はそんなお前が心配だよ。軽い認識でとんでもない間違えを起こしそうでな。まあ、俺に迷惑をかけるのはいいけれど、宗の上の人たちには通じないのだからしっかりしてくれ」
「お前の立場が悪くなったら俺が駄々をこねるよ。僕の立場なら通るでしょ」
心配顔な彼に無責任なフォローを行う。
「そりゃあ、職人階級最高位である『巧』の称号を持ち、シンヤくんのフォローがあれば、俺の立場は問題ないさ。でも、絶対に角が立つだろ。今でさえ立ってないとは言えないのに」
嫌味っぽく僕の立場を言い並べる。
「なんか角が立つことしたのか、僕」
「うちみたいな小規模な宗にいることに大手の宗がいい顔すると思っているのか。引き抜き工作の一環か知らないが、嫌がらせもたまにくるぞ。それも宗に直接」
ああ、そうなのと正装に着替えなら適当に相づちをうつ。
「おまえは俺が直接ここに来るからいいものの他の職人が怖がってさ、辞めた奴も中にはいるよ。本当に嫌な話だ」
「なら、僕も出ていこうか。被害は消えるぞ。たちまちにね」
正装に着替え終わり、サイズを確かめながら軽口をたたく。
「それはやめろ。うちは破産だ。
話は変わるが、似合わないな、正装。あとオーダーメイドだから袖の長さとか見直さなくていいからね」
「わかってるよ、似合ってないって。別にボクはね、作務衣でいっても別にいいんだが」
「そりゃあ、お前が良くても、向こうや宗のみんなが困惑するから止めてくれ。とにかくさっさといってくれ」
右手で払いのける動作をするショウ。
わかったわかったと、適当に返しながら青緑の風呂敷に包まれた荷物を腕に持つ。
戸締り頼むと振り返らずに扉を開けた。
一面の荒野に、冴えない空色。いつも通りの見慣れた光景が広がっている。
冒頭を山吹君が担当しています。