ς’組織と人間関係とコードネーム《ゾーイ》
あのあと、しばらく歩き続けて日も落ちそうな時間になってようやくφが口を開いた。
「そろそろつくよ。」
「もうすぐなのか?」
「ああ、もうすぐみえるはずさ。」
そう言われて俺は前に目を凝らした。
なんか空気がゆらいでいるのが見えた。
「なんだ?あれ。」
「やっぱり見えるんだね。化け物が見える人なら見えるらしいけど、ここまで簡単に見れるのは能力者くらいらしいから。」
「じゃあ、やっぱ俺も能力者なんだな。」
「ああ。さ、ちょっと待っててね。」
そう言うがいなやφは走り出した。
すると、すぐにその姿がみえなくなった。
速く走っていったとかじゃなく、空気のゆらいでいる所を越えたとたんに消えた。
驚いた俺がφの姿を探すと、φが戻ってきた。
「驚いたかい?」
どこかおどけたようなその声におもわず力がぬけた。
「ああ。なんだったんだ?いまの。」
「能力を応用した結界が張ってあってね。何せあんなのが見えたらそれはそれで大パニックだから。ゾーイ君でも入れるようにしてきた、行こうか。」
φの後についていくとその"結界"を越えたとき変な音がした気がした。
こう、静電気のようなバチッという感じの音だ。
でも問題なく入ることはできた。
「さ、ようこそゾーイ君。僕らの組織へ!」
「えーと、お邪魔します?」
「その正面左手に見えているのが僕らの実働隊だ。」
「さっきまでは何も無かったのに…」
まさしく"変"な建物が建っていた。
「結界を越えたからね。まずは実働隊のボスに会いに行こう。こっちから行けば直接会える。任務の報告なんかがあるとき使えるんだ。ここに立って。」
「?わかった。」
言われたところに立つとφが俺の手をとって何かを呟いた。
すると、目の前が真っ白になった。
光が収まると違う場所にいた。
混乱している俺を無視して、慣れたようすでφが話しはじめた。
「ただいま帰りました。ボス。」
「おかえりφ。間に合ったか?」
「被害はせいぜい森が荒らされた程度です。」
「ふむ。それはよかった。となりの彼は?」
「化け物が見え、かつ能力者のようです。」
「それは良い!確証はあるんだね?」
「はい。結界の揺らぎも見えてました。それに件の化け物はおそらく彼が倒したとおもわれます。」
「彼が?どんな能力か分かるかい?」
「いえ、それが僕が着いたときにはすでに倒れた化け物と彼のみで、彼本人も倒れたその瞬間は見ていないようで…」
「そうか…。まあ、能力者もしくはそれに準ずる者だということは確か。歓迎しよう。…えー、君の名前は?」
ぽんぽんと進んでいく会話の中で質問された。
偉い人らしいから敬語のほうがいいだろう。
……苦手だけど。
「あ、ゾーイです。」
「彼のコードネームは決まってないね?」
「決まっていたら大問題ですよ。」
「それもそうだ。ふむ、ゾーイ君といったね?」
いきなり問いかけられた俺は驚いて返事が少し遅れてしまった。
「あ、はい。」
「つまりΖωήという訳か。確か"Ζ"はまだ欠番扱いだったかな?本名にちなむ、という組織の規則に反していないから大丈夫だろう。よし、ゾーイ君。君に暫定的とはいえ"Ζ"のコードネームを与えよう。」
いつのまにか俺のコードネームが決まっていた。
というか、
「暫定的……ですか?」
やっぱり敬語って苦手だ。
うまく話せない。
「まあ、まず皆に認めてもらうのが先決だろう。それから、ここには任務中以外は本名で呼ぶという風習があるのでね。」
「僕のφもコードネームだからね。」
え?