δ’能力者と家族と組織《ゾーイ》
「あ、組織の事を話すの忘れてた。えっと組織っていうのはまあ、化け物関連の事件が持ち込まれる所と思ってくれればそれでとりあえず十分だよ。具体的に、となるとまあ守秘義務とかあるんだけどえーつまり」
「化け物の事なら任せろ!!って感じか?」
言ってて思う。それならこんな状況起こらねー、と。
「んーまあ、そんな所だね。組織の中にもいろいろあって、僕の所属はTADTO、ってこれは通称なんだけど正式名称」
「ストップ、ストップ!!それ守秘義務とかいうのに引っ掛からないのか?つかむしろまずいんじゃないか?」
俺はさっきのに何回も関わるなんてごめんだ!
なのにこのままだと積極的に関わることになりそうだ。
「正式名称くらいなんてことないよ。他の所のとなると権限とか絡んでくるけど、僕の所は能力者には存在を教えることが推奨されているから大歓迎ってとこかな?」
こいつ、どこか面白がってる気がする。
てか、これあれだろ?
それで関わらせる気だろ?
それでも途中まで聞いた以上、最後まで聞くしかない。
「で、正式名称だけど、Τέρας Αρχηγείο Δυνατότητα Τμήμα Ομάδα παραγωγής」
「は?」
なんかめちゃくちゃわけわからん。
思わず目が点になる。
「意味は、化け物対策本部能力科実働隊…意味わからないとでも言いたげな顔してるね。でもそれ以上にぴったりな言葉が見つからないんだ。……でも、うん、僕もさっぱり理解できなかったしね。当然だよね。」
俺の目が点になっているのに気が付いたのかやや疲れたような声をかけてきた。
「えっと化け物、対策本部、能力科、実働隊、でわかれてるのか?」
「付け加えるなら化け物対策本部、能力科、実働隊、かな?化け物対策本部って組織の中の能力科の中の実働隊。所属人数は一番少ない。あと…ああ、一番危険。」
「そんなとこに入ってんのか?」
「まあね。でも君もその『そんなとこ』か研究隊かどっちかの所属になると思うよ。」
「いや、なんで俺が組織に入ること前提に考えてるんだよ!!俺の意思は尊重されないのかよ!!」
「申し訳ないけど能力者は未だ数少ない。特に君の能力と思われるものは今までに見つかった能力の特徴が当てはまらない。詳しく調べたいんだ。もちろんとりあえず組織に入っていて普段はいつも通り生活。研究には協力する。みたいな形でも構わない。」
φはどうしても俺を組織に入れたいらしい。
ふと、気になることがあったので聞いてみる。
「なんでお前はそんなに必死なんだ?それにその組織の人達が家族ってどういうことだ?」
φは少し躊躇したようだったが、ゆっくりと話し始めた。
「……さっき僕の集落は化け物に襲われたって言っただろう?その時助けてくれたのが実働隊の人達だった。その後、帰る所もない僕を育ててくれてね、僕にとって幼い頃に別れた血の繋がった家族より組織の方が家族って感じがするんだよね。今までの恩も返したいから必死に勧誘してる。組織にとって君を入れた方が絶対得だと思うからね。」
「『帰る所もない』って化け物は集落を壊滅させたのか?……あ、また悪い事聞いたな忘れてくれ。」
皆に言わせると俺は一言多いし、デリカシーとやらもないらしい。
…皆結構失礼だ。
確かに事実かもしれないけど。
φはうつむいたまま、黙っている。
めちゃくちゃ気まずい。
「……あの、ね。」
俺が困っていると、気が付いたらφが顔を上げていた。
「僕は、化け物がくる前に追い出されたんだ。」
聞き捨てならない話だ。
「…化け物がくるより先に僕は能力が使えるようになった。それで大人達は怖かったのか、僕が集落から外に出たらもう入れてくれなかった。」
「それは…」
言葉が見つからない。
ふと嫌な予感がした。
「なあ、能力って無意識の内に使っていることあるのか?」
「え?ああ、そういう事もあるよ。」
「じゃあ俺も無意識に使ったりするかもしれないのか。」
「うん、そうだね。ゾーイ君は能力を使えるようになってすぐだろうし…。今まで自分の周りで変な事が起きていないならだけど。」
やっぱりだ。
「じゃあ俺の事よく思ってない奴らが能力の事知ったらそれを口実に皆に言って追い出そうとしてくるかもしれない。」
結局、どう考えても結論はひとつしかない。
「俺、その組織に入る。」
「え?」
「家族みたいな人達を守るためだからな。勘違いするなよ。」
「…じゃあ、明日の昼前にはここを出る事になるから。挨拶を済ませておいてくれ。いきなりいなくなったら驚かれるよ。」
さっきまでより口数が少ない。
やっぱり気まずいままだった。
「あ、えと、狭いけど泊まっていけよ。」
「いいのかい?……うん、お言葉に甘えさせてもらうよ。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
明日この集落を出るのか。
そもそもどこまで行くんだろう。
どちらにしても、森を抜けるのだろう、同じ事だ。
組織になんて関わる気なかったのにいつの間にか俺は入る事になったし、俺もそれでいいと思っている。
多分、嫌われたくないんだ。
今まで世話になった皆に。
そんな事を考えている内にいつの間にか俺は眠っていた。