RPG~そして俺はゲームキャラクターになった~
ゲーム好きなら誰でも思ったことがあるだろう。このままこの世界の中にいれたらいいと・・・
ある日、俺は一通のメールを受け取る。
「目標をクリアしてゲームのキャラクターになろう!」そんなタイトルが目についた。
俺が今ハマっているRPGのキャラクターに、あるレベルに達すればなれるとかいう企画らしい。
キャラクターになるなんて、どうせもっともらしいグッズが当たるか、ゲーム内でなにかイベント的なことがある程度だろうと思いつつ、ただフツーにやるよりおもしろいかと思って企画に参加登録をした。
どうせゲームしかやることがない。ほぼ一日中部屋に閉じこもってゲームをしている生活だ。
現実のどこにも、俺にとって居心地のいい場所なんてないから。
最近はもう、親すら俺にまともに声をかけてこない・・・
もともと高レベルだった俺はすぐに目標を達成した。するとまたメールが届く。
「おめてでとうございます!これであなたはゲームのキャラクターに!さあクリックしてゲームの世界へ行きましょう!」
あおり文句の下に「ゲームの住人になる」というボタンがある。
迷わずクリックした瞬間、画面からまぶしい光が飛び出し、俺は気を失った────
─────俺は瞑っていた目をゆっくりと開いてみた。
そこは見覚えのある景色。そう、最初にモンスターと出会うあの森の景色だ。
よく見ると、一番初期設定のものだが、装備も主人公キャラのものだ。
「俺、本当にゲームのキャラクターになった・・・のか??!」
半信半疑だった不安は次第に大きな喜びへと変わっていく。そうだ、本当に俺はゲームの世界に来たんだ。これでもう、煩わしい現実に悩まされることはないんだ!
高レベルまで行った俺だ。この世界でならやっていける。俺は勇者だ!
早速、一番レベルの低いモンスターが目の前に現れた。
「お前なんて一撃で倒してやるよ!」
そうして武器を抜こうとした時、自分の体が動かないことに気がついた。
手だけじゃない、足も、一歩もうごかない。
なぜだ?俺はゲームのキャラクターになったんだ。こいつらを倒してどんどん成長して、この世界で生きていくんだ!それなのに!
その時、俺はとんでもないことに気がついた。
そう、いないのだ。
『俺というキャラクターを動かしてくれるプレイヤー』が・・・
この画面の向こうの、どこにもいない。
モンスターがじりじりと俺に近づいてくる。
俺は身動きひとつできないまま、その場で凍りついていた・・・
* * * *
母親が息子の部屋をノックした。
「ねえ・・・いいかげん、ご飯済ましてほしいんだけど・・・」
遠慮気味に声をかけながらそっとドアを開ける。
そこに息子の姿はなかった。
「外出なんて・・・めずらしいわね」
少しほっとして部屋を見回すとパソコンの電源が入ったままになっている。
困った子ねえ・・・そんな風に思いながら、母親はゲーム画面になっていたパソコンの電源を切った。
<完>