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祝と呪
一
始めに「無」が生まれた。
実体は知覚に及ばず、ただ虚ろに在る。
音を立てず、漂い、馴染んで、満ちている。
然らばそれが在るとわかったのは、我々に二つの理が生じたためだ。
「祝」と「呪」である。
背反した両者は決して交わることなく、互いの存在を主張する。
そして、いつからか、二つは人間に宿り、拡大する。
これに寄生された人間達は意志を植え付けられたかのように、高く壁を隔てて反発し合うようになった。
――祝は無を祝い、呪は無を呪う。
無を根源として、渇望する。
これこそ古くからの因習であり、発生こそ不明であるが、両者はこれに倣い、これを勿論としてきた。
そのため、両者の血族は抗争を繰り返し、凡そ幾百年過ぎた現代においても、数多くの犠牲を払う死闘が続けられている。
どちらか一方を絶やさなければならない。
全ては、根源を得るために。