花と刃
ジャキリ。刃と刃が擦れ合う音が、冷たく響いた。
金属で造形されたそれを手に取ると、ヒヤリと冷たい感触が伝わってくる。
私は、今からどうしようもない罪を犯す。
何という事はない。嫉妬にかられた。それだけだ。
ああ、何て可哀相なのだろう。醜く歪んだ私の手によって、彼の愛する彼女は失われてしまうのだ。
きっと彼は寂しがるだろう。嘆き悲しむだろう。
だけど大丈夫。その時は私がそばにいてあげて、彼を優しく慰めてあげるもの。
私の代わりは、何もいらない。彼には、私さえいればいいの。
だから、
「さようなら」
――――ジャキン
ほんの少し力を込めてハサミを握ると、それはボトリと首を落とした。
私はそれを優しく拾う。せめてもの情け。最後は、優しく優しく、握りつぶしてあげる。
可哀相。本当に可哀相。私がこんな事をしなければ、あなたは最期まで美しく咲き誇っていたはずなのに。
でも、ごめんなさいね。私、あなたが落ちるのを待てなかったの。
彼がいつも愛おしそうにあなたに話しかけるから。
彼が愛おしそうにあなたに笑いかけるから。
彼が愛おしそうにあなたに触れるから。
彼の手が触れたあなた。憎くて忌まわしいあなたを、どうせなら私の手で落としたかったの。
世間は、世界は、きっと私を罰することはない。誰もこの罪を咎められない。
ただ、人々の中には「心無い奴だ」と冷たい目を向ける人もいるだろう。
そうね。私は、心無い人間かもしれない。
でも、これでやっと彼の心は私だけのものになる。私はとても満足しているから、いいの。
首を落とされた彼女を見つめながら、達成感に満たされて静かに笑っていると、彼がドアノブを回す音が響いた。
【一応補足】ここで切り落とされた花は、椿のことです。