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紅の嵐姫 藍の淑妃  作者: 大雪
過去編
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第十七話 知る前と知った後

 ね?と可愛らしく笑って下さっている王妃様。

 自分よりも年上で、既に成神しているが、それは悪戯っ子の様な笑顔。


 本当に可愛らしい方だーーと紅藍は自分の胸が高鳴っているのに気づいた。

 もしや、これが


 恋ーー?


 いやいや、それはマズイだろ。

 紅藍は自分で自分にツッコミを入れた。

 というか、自分には同性愛の気はない。


 そう、女の子が女の子に可愛いという、アレである。


「王妃様、無意識に子羊をたぶらかさないで下さい」

「へ? たぶらかす?」


 楓々の指摘に、王妃様が首を傾げている。

 それも可愛いがーー紅藍は慌てて頭を激しく振って我を取り戻した。


「紅藍姫も気をつけて下さいね。うちの王妃様、『美形キラーですから』」

「は? 美形キラー?」


 美形キラー。

 それは美形を堕としまくる存在を指す。

 で、王妃様は陛下と上層部を堕としまくっていて、で、王達は炎水界でも名だたる美形揃いで。


 なので、美形キラー。


 ただし、本神は完全に無意識だが。


「なんだか分からないですけど、気をつけます」

「そうしてください」

「楓々も紅藍姫も、二神で納得してずるいですっ」


 頬を膨らませる王妃様を楓々が宥める様が、またとても微笑ましい。


「で、結局美形キラーって何ですか?」

「私の口からはとても言えません」

「分かりました! 自分で調べますから良いですよっ! むぅ~~、紅藍姫、今度図書館に行く時は私と一緒に行きましょうね」

「え、あ、はい」

「ついでに一緒に勉強しましょう! というか、私ももっと勉強しないと紅藍姫にあっという間に追い越されちゃうし、あ、教えあいっこすればいいですね、その時は」

「お、教えあいっこ?」

「そうです! 聞いてますよ? 調合授業の試験、この前とても良い点数を取られたって。とても頑張ってましたもんね」


 頑張っていたーーその言葉に、紅藍は嬉しさがこみ上げる。

 結果だけでなく、過程を見てくれて、その部分も褒めてくれた。


「私はその分野が苦手だから、教えて貰いたいな~って思ってたんです」

「あ、でも、王妃様の調合の授業は貴妃では」

「貴妃にも教えて貰ってますけど、でも紅藍とも勉強したいんです」

「けど、私では大した事は教えられないです」


 いつも淑妃にまだまだだと言われている。

 確かに、以前よりは色々と覚えては来ているが。


「では、分からない所は一緒にやっていきましょう」

「お、王妃様」

「で、どっちかが分かっている部分は教えあいっこするんです。ふふ、大丈夫ですよ。言いましたよね? 紅藍姫は以前よりも沢山沢山色んな事を知るようになったって」

「あーー」


 そう、さっき言ってくれた。

 それに、自分は喜びもした。


 けれどどこかで、不安な自分が居る。

 自信が持てない自分が居る。


 昔の、自信の無い弱くて無力な自分が。


 それを覆い隠す為に、紅藍は固い殻を作ったのだ。


「それに分からない事があるのは当然ですよ」

「……」

「何でも分かってたら先生なんていらないですし、それに常に色々なものが変化してますからね、常識とか風習とか文化とか、もうあげたら切りがないですし! そしてそれに対応していく為には、常に勉強です。分からない事なんてそれこそリアルタイムに出てきますからね」

「王妃様……」


 ぎゅっと、王妃様が手を握って下さる。

 でもーー。


 前よりも色々な事を知っていると言われて、確かに喜んだ。

 勉強していると、出来る事が増えていると言われて、確かに喜んだ。


 だが、他神に教えるだけのものがあるのかと言うと、やはり自信の無さが現れる。

 むくむくと、自信の無い自分が大きくなっていく。


 お前は何も出来ないのだと。

 何も出来ない無力な出来損ないだと。


 何も知らない、ただの。


 愚かな、クズ。


「何も知らなくないです」


 ぐいっと手を引っ張られ、紅藍は我に返った。

 俯いた紅藍の顔を覗き込むように、王妃様の顔が見えた。


 どうやら、無意識に呟いてしまっていたらしい。


「クズなんて、誰が言ったんですか」

「あ」

「教えて下さい、誰が、紅藍姫の事をそんな風に言ったんですか?」

「あ、あ」


 誰?

 誰。

 誰ーー。


 強い眼差しに射貫かれ、唇が動く。

 けれどそれは声にならず、ただヒュウヒュウと息の音だけを吐く。


 それを見た王妃様が、溜め息をつくのが見えた。

 まるで氷を飲み下した様に、体が冷える。

 冷たい恐れがこみ上げ、過去が蘇る。


 最後には誰だって、そうやってため息をついて、そしてーー。


「ーーえ?」


 泣きそうになった紅藍の体が、ぎゅっと抱き締められる。


「お、王妃様?」


 王妃様が、紅藍の体を抱き締める。

 まるで母が子にするように。


「誰が言ったか知らないですけど、その神はとんだ大馬鹿です、バカです、最低です」

「お、王妃、様」

「何度も言います。確かに最初は紅藍姫は色んな事を知りませんでした」


 その言葉が、ぐさりと紅藍を突き刺す。


「それこそ、ごく一般的な誰もが予想する『貴族の我が儘娘』、『高慢で無知で贅沢する事しか頭に無い典型的な貴族のバカ娘』と言われても、殆ど否定出来ないぐらいには」

「ーー……」


 ぐさ、ぐさ、と貫かれる。

 だが、それは全て真実で、だからこそ図星をさされて苦しいと思うのだ。


「それに、淑妃の迷惑も考えずに勝負を挑みまくりましたし、何よりも限られた者しか入れない後宮に飛び込んで来るとか、下手したらご両親や親類縁者が罰せられてもおかしくないような事を平然としてて、これはもう『貴族として、いや、一般常識すらも知らないバカ娘』決定だという淑妃の言葉にも頷けました」

「は、はは」

「何から何まで考え方も貴族そのものでしたからね。それも悪い意味でが大半」

「そう、で、す」


 何かも言われた通りと、紅藍が頷こうとした時だった。


「でも、あなたは『学んだ』、『知った』、『変わった』」

「……え?」


 紅藍が王妃様の顔を覗き込む。

 そのキョトンとした眼差しに、王妃は微笑む。


「誰もかれもが、最初から全てを知っているわけではないです。それに、平民には平民の常識があるように、貴族には貴族の常識があります。だから貴族として生きてきた者が貴族の常識しか知らないのも悪い事ではありません。でも、民達の上に立って仕事をするには、それだけでは駄目。民達の事も知らなければならない」


 そう、自分達の常識だけでなく、相手側に立ち、相手側の常識を尊重し、それを知らなければならない。


「紅藍姫は学んだでしょう?」

「学んだ?」

「もちろん、全てではないです。でも、淑妃達に怒られて、自分で考えて、教えられて、調べて、沢山学んだわ」

「……」

「自分の目で見て、耳で聞いて、感じてーーだから、あの時も嬉しかった」

「あの時?」

「そう、奴隷を虐げる貴族に真っ向から立ち向かった紅藍姫。この国では奴隷制度が廃止されているけれど、それでも平然と奴隷を使用する者達は多いです。そしてそれを王都で公然と行う相手に、あなたは正面切ってそれが『間違っている』と言い放った」

「だ、だって、それは」

「でも、貴族達の中にはそれが当然と言う者達が居る。残念ながらあなたのご両親も。でも、あなたはそのご両親の元で育ちながら、自分で考えて『間違い』と言ってくれた」


 奴隷を虐げるのが間違い。

 奴隷にするのが間違い。


 当たり前だ。

 楓々が奴隷として酷い目に遭った事を知り、何よりもあんな場面を見せられて。

 ーー悪い事をすれば、罰せられるのは当然だ。

 けれど、あの男は不必要なまでに、痛めつけた。

 そしてどこかの村から拉致され、奴隷商神に売り飛ばされて奴隷とされた少女を保護するどころか買い取り、思うがままにいたぶった。


 後宮に来てから、紅藍は沢山の事を学んだ。


 奴隷制度もその一つだ。

 海国では、奴隷制度が廃止されている事実。

 そして、貴族を初めとして、奴隷とされた者達を『手厚く保護』する義務がある事実。


 にも関わらず、それをしなかった、あの男。

 そしてそれを知らなかった自分、その時点で理解出来ても納得出来なかった自分。


 奴隷は替えのきく道具。

 奴隷は居て当然。

 奴隷は貴族の生活を支える糧であり、その為だけに存在する。


 そう教えられてきた。


 でも、それは間違いだった。


 最初は陛下や王妃様が言っていた。

 上層部が言っていた。


 でも、奴隷は当然として教えられていたから、上手く理解出来なかった。

 ただ『悪い事なんだ』ぐらいの認識がなくて。


 それが紅藍自身にとっても『奴隷制度』が間違っている、許せないと思う様になったのは、大切な共が奴隷として虐げられていた事実を知ったから。

 あのお忍びで、実際に虐げられていた奴隷の少女を見たから。


 だから、紅藍は自分の意思で、自分の考えた末に『奴隷制度はおかしい』と思える様になった。


「だから、紅藍姫は凄いんです」

「す、凄い?」

「そうですよ。そうやって、沢山学んで、実際に見て、聞いて、考えてーー。私も、紅藍姫を見てて思ったんですよ」


 王妃様が、微笑む。


「私も、紅藍姫みたいに頑張りたいって」

「ーーっ」

「どうか誇りに思って下さい。今の自分を」

「で、でも」

「それに……結構ボロくそに言いましたけど、紅藍姫にも最初から良い所はあったんですからね」

「え?」

「『自分の力で頑張る事』、『他者の力に頼り過ぎない所』、『諦めない事』」


 上げられていく良い所に、紅藍は目を丸くする。


「まだまだありますよ」

「ちょっ! は、恥ずかしいです」


 慌てて王妃様を止めると、クスクスと笑われた。


「自信を持って下さい、紅藍姫」

「……」

「誇って良いんですよ」

「……」


 誇っても良い。

 本当だろうか?


 こんな自分にも良い所があった。

 知識とかも、前よりは確かに知る事が出来た。


 でも、でも……。


 紅藍は王妃様を見る。

 その瞳が、優しい光を灯して自分を見詰めている。


 誇って、良いのだろうか?


 こんな自分が。


 確かに、前よりも色々な事を知れたけど。


『そうよっ! 私だって色々と勉強してるんだからっ』


 そう、言ってしまったけど、本当は心の中で「本当かな? 大丈夫かな? こんな私が」と思っていた。


 でも、でもーー。


 大丈夫。

 そう言ってくれる王妃様に、紅藍は困惑し、戸惑い、考えて考えて。


 頷いた。


「ありがとうございます」


 そんな言葉と共に。


 そうして咲いた笑顔の花が二つ。

 王妃様と、楓々の笑顔はそれはそれは美しかった。 

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