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紅の嵐姫 藍の淑妃  作者: 大雪
過去編
14/35

第十一話 早口言葉

注意)文中に出てくる早口言葉は、決して人前では言わないでください(笑)

「ふ~ん、これがその問題の手紙か」

「なんという事でしょう、海国の風紀がこれほど乱れているとは」

「いえ、主に乱れているのはーー」


 瑪瑙、瑯玕、天河が見詰める先に居るのはーー。


「ハァハァ、じょ、女王様」


 明燐ファンクラブ、奴隷№150879の会員カードを持つ海国の高速船船長。

 今も褌一丁で悶絶している、その物体に瑪瑙達の気分はどん底まで落ちていた。

 なんでこれを自分達に押し付けるのか。


 王がどこぞに投げ込んでいたというのに、それを引きずり出して自分達にこの危険物指定のトップに名を連ねる様なものを押し付けてきたーー藍銅。


 そうまでして押し付けてきた理由はただ一つ。


『その穢らわしい物体を調教しろっ』


 始末するには余りにも腕が良すぎて。

 周囲に慕われる神柄とか、諸々が良すぎて。


 いわば失えない、神材。

 この神材不足の時代には貴重な逸材である。

 だからこそーー。


 始末するよりも修理しろと言う藍銅の言い分は解る。

 解るがーー。


「なんで、僕達に押し付けるのさ」

「瑪瑙の言うとおりですねぇ」

「私達は調教師ではないのですが」


 調教するぐらいなら始末する。

 それが男妃達の合い言葉。


 むしろ調教なんていう言葉なんぞ聞きたくも無い。

 この身をかきむしりたくなるほど、おぞましく穢らわしかった。


 だが、しなければ『コレ』はいつまでも『コノママ』。


「ってかさ、僕、あの明燐女王様の調教を越えるなんて無理だけど」

「私もですよ。あの方の影響を無くすなんて、とてもとても」

「一度明燐様の奴隷と化せば、どんな拷問を受けても耐え抜きますからねぇ」


 出来るなら、一生関わりたくなかった。


「ハァハァ、じょ、女王様、こ、この我に仕置きをっ」


 うぉぉぉぉぉぉ! お仕置き切れじゃああぁぁぁっ!


 そんな叫びと共に跳ねる、ロープでぐるぐる巻きの高速船船長。


 瑪瑙達はその難解過ぎる依頼に、本気で困り果てたのだったーー。



「淑妃の鬼いいぃぃぃっ!」

「五月蠅い! とっととやれっ!」

「しゅ、淑妃、そろそろお昼の時間だから少し休憩を」

「お、王妃様!」


 顔を輝かせ、椅子を蹴飛ばし王妃様に抱きつく紅藍に藍銅は怒鳴った。


「まだ終わってないぞ!」

「知らないわよ!」


 王妃様に抱きついたまま、紅藍はあっかんべ~と藍銅に舌を出した。

 ぶちぶちっと何かがひっぱらさる音を、王妃はこわごわと聞いた。


 紅藍の姿が見えず心配を口にすれば、楓々から淑妃の宮に居る事を知った。

 なんでも、最近は朝から調香の授業を受けにいっていると聞き、様子を見に行く事にした。

 そうして淑妃の部屋を覗いてみれば、そこには鬼教師となった藍銅と泣きながら授業を受けさせられる紅藍が居てーー。


 一体何事?!と片足を部屋に突っ込んだまま凍り付いてしまった。

 けれど、紅藍の泣き声に我に返り、何とか休憩時間をと提案しーー余計に火に油を注いでしまったらしい。


「べぇ~~っ!」

「こ、んのっ」


 怒り狂ってもなお美しい藍銅の美貌から、冷たすぎるブリザードが吹き荒れる。


「そ、そうだっ! お、お昼は外で食べましょうっ」

「そう王妃様っ! こんな辛気くさい場所からは逃げるに限りますっ」

「どこが辛気くさいだっ! 神の部屋にケチつけてんじゃねぇぞっ」

「ふんっ! なら『陛下との愛の巣』に言い直してあげるわ」


 ぶちん、と、今度こそ何かがはじけ飛んだ。

 王妃は慌てて紅藍の腕を掴み、そのまま部屋を飛び出す。

 直後に起きた大絶叫に、王妃はそれを宥めにかかる侍女や女官、そして取り巻きの男妃達の苦労を思い涙した。




 ーーそれから一時間後、中庭で食事をとっていた王妃と紅藍、そして楓々の下に藍銅がやってきた。

 取り巻きの男妃達も居たが、藍銅から滲み出る怒気に怯えて少し離れた四阿で待機する。

 近づけないが、それでも逃げ出さないその男気。

 もしまた爆発した時の為に、自らを犠牲にしてでもという気迫を感じ、楓々は男妃達の『男』を感じ取った。


「真の男ですね」

「は?」


 王妃の手作りお握りをほおばりながら、紅藍は友神の言葉に首を傾げた。


「あ、淑妃、遅かったわね」

「誰の、せいだと」

「おにぎり食べる?」


 ふつふつと怒りをぶちまけようとした藍銅の口に、紅藍がおにぎりを押し込む。


「もぐっ! ーーお、お前」

「それ私の大好きな鮭なんだから、美味しく食べなさいよ」

「作り手の王妃様に言われるならまだしも、なんでお前に言われなきゃならない」

「そのおにぎりの所有権が私だから。そう、最初に食べようと手に取った事で私に所有権が移ったのを淑妃に渡したんだから、つまり私が言うのが普通なのよ」

「この、へりくつっ」


 しかし、紅藍は無視してもぐもぐとおにぎりをほおばり続けた。

 そんな相手に、藍銅はもはや何も言えず、諦めてシートに腰を下ろした。

 まるで遠足の様に広げられたシートの上には、これまた沢山の食事が並んでいる。

 そこに座る王妃様と楓々、紅藍、藍銅。


 ーーと、四阿をちらりと見た王妃に言葉をかけられ、楓々が素早く料理を別の器に詰め、お茶と共に四阿に居る男妃達へとお裾分けする。

 与えられた優しさに、男妃達の胸キュン率が鰻登りする。


「お、美味しい」

「ああ、上手いな、ちくしょうっ」

「まさか手作りのお握りを食べられるなんて」

「天使だーー」

「これも王妃様からです」


 そうしてお菓子まで差し入れされ、男妃達は歓声を上げた。

 王妃様万歳。

 更に王妃様の傾倒は進み、楓々への好意も進んだ。


「そういえば、あの方は今どうしているのかしらね?」

「あの、方?」


 王妃様がお茶を注ぐ手を止め、寂しげな表情を浮かべる。

 もしかして、凪国のーー。


「明燐様ファンクラブ、奴隷№150879の会員カードを持つ海国の高速船船長さん」

「ぶっはぁっ!」

「ちょっ! 汚い淑妃っ」


 王妃様手ずから入れてくれたお茶を口に含んだ瞬間の暴発に、藍銅は思い切り茶を噴射した。

 それは、温泉の間欠泉なみの威力だっただろう。

 しかも逆流した分が気管に入り、鼻に入り、大きくムセこんだ。

 鼻の痛みには涙すら滲むほどで、慌てた王妃様にしばらく背中をさすられる始末。


「淑妃、どうしたの?!」

「王妃様の言い方が間違ってるからですよ」

「え?」


 王妃様が紅藍の言葉にキョトンとした、その時。


「奴隷№150879(いちまんごせんはっぴゃくななじゅうきゅう)ではなく、ヒトゴーマルハチナナキュウです!」


 え?何それちょっとカッコイイーー。


 一瞬ムセる事すら忘れ、ちょっとだけそのカッコよさに胸キュンした藍銅。

 カッコよさの前には、鼻の痛みもムセの苦しみもふっとーー。


「ゲホゴボゲホゲホっ!」


 そんな事は全くなかった。

 所詮、ムセと鼻の痛みを越えるカッコよさなどないのだ。


「ってか、藍銅も落ち着いて飲み食いしなさいよ」

「げほげほげほっ」

「そんなんじゃ、年取った時にどうするのよ。年取ったら余計にムセやすくなるのよ? 誤嚥性肺炎は老人の死亡率の第4位なのよ?」

「か、神に、人の、基準を、あて、はめ、んなっ」


 しかも、どうしてそういう知識だけは持っている!!


「どうしよう、王妃様。このままじゃ淑妃は若年性嚥下能力低下症に陥るわ」

「予防方法とかあるの?」

「嚥下体操が良いらしいわ。はい、口の体操! 『叩き売り中の大根抱き締めだぢづでど』を百回繰り返すっ」

「言、える、かっ!」


 なんだ嚥下体操って!


「じゃあ、これにする? 『男色家が男色サウナで男色行為中に男色行為をのぞき見する男色家団体本部が男色行為をマジ推進中』を千回」

「誰が作ったあぁぁっ!」

「明燐様、因みに女性バージョンもあるわ」


 古の人間界の書物を見て、ご自身で作ったとか作らなかったとか。

 もはや、藍銅にはどちらでも良かった。


「はい、凪国王妃様が贈ってきた『大根ジュース』」

「いや、それ、大根の絞り汁だろ」

「一本三百円」

「高っ」


 そして藍銅は、途中からなんでか大根フルコースを食べさせられる羽目となる。

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