おさななじみ
「理恵が良平に告白するんだって」
放課後、いつもの4人で集まっているときに詩織が突然言った。
いつもの四人といっても、結成されてからまだ2週間程しかたっていないメンバーだ。
私佐藤由佳とさっき突然の発表をした白石詩織とその隣で、驚いた様子も見せずに私のほうを見ている佐々木かおりは去年中学一年の時に同じクラスになって意気投合して、いつでもだいたい一緒に行動をしていた三人組。
二年に上がるときのクラス替えで私だけクラスが変わり二人は小学校の頃仲の良かったという清水理恵とクラスメートとなり、彼女を放課後の集まりに呼んできた。
それから私たちは何をするにも4人集まっている。
私は理恵の事をまだ余り知らない。
そんな理恵は詩織の隣で顔を真っ赤にしてうなずいた。
「えっ?」
私は聞き返す。
‥‥‥良平って?
「去年まで同じクラスでずっと好きだったんだって。
クラスはなれて接点がなくなって、寂しいから告白するんだって」
またも詩織が話し、理恵がうなずく。
「安藤、良平?」
私の出した名前に、理恵はうなずく。
「由佳、幼馴染なんだよね?
‥‥‥協力してほしいんだけど」
安藤良平。家はお向かい。
私が小学校1年に上がるときに引越ししてきた。
サッカー少年で、小学校の間、私のお兄ちゃんと同じサッカー倶楽部に所属していた。
お兄ちゃんつながりで私たちはよく一緒に遊んでいた。
たぶん男の子の中では一番の仲良し。
そして、私の今一番好きな男の子でもある。
そんな良平との仲を協力してくれっていきなり言われても。
‥‥‥私は驚いて言葉に詰まった。
「由佳、聞いてる?」
理恵の言葉に、私はうなずいていた。
「いいよ。がんばってね」
胸がチクッと痛むのを感じた。
「良かったの?」
詩織と里香がいなくなって、かおりはそう私に言った。
「なにが?」
私は心の中を見透かされているような気がしてなんでもない風を装ってかおりにそう言った。
「良平のこと好きなんじゃないの?」
ドキッとして、かおりを見る。
実はこの質問は2回目
一回目は一年の頃。
その時、かおりもその場にいた。
私は突然の質問にびっくりしすぎて思いっきり笑い飛ばして否定ていた。
「そんな事ないよ。良平とは仲がいいけど、別に好きとかじゃないよ~。
あいつ言葉使い悪いし、優しくないし」
私の答えに、かおりはフウッとため息をついた。
「そうならいいけど、なにか有ったら言っといで。
相談乗るから」
「・・・うん」
私は自分で自分の胸に重い重石を乗せてしまった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「由佳、今帰り?」
良平の声が後ろからする。
タッタッタッと足音が近づき私の隣に並んだ。
「またペチャクチャペチャクチャダベッてこんな時間かよ」
放課後残って遊んでいると、たまにすごく遅くなって、いつの間にか部活の終了時間になっていることがある。週に一回アルカナイカだけど、私はその日はこうやって後ろから走って来てくれることを期待している。
校門で待ったりはしない。
途中の道で待つ訳ではない。
只、偶然という形で良平に会い、話をしながら家までの道を、少しゆっくり歩く。
「うるさいなぁ」
私はいつものように、良平の少し意地悪な言葉に、ひねくれた返事をする。
「クラス、あの二人と離れて残念だったな」
優しい微笑を見せながら良平は私の顔を見る。
「ん。でも、クラスの新しい友達とも仲良く出来そうだし、あの 二人には放課後、しょっちゅう会ってるしね」
「知ってる。よくそんなに話すことがあるよな。」
あきれたというように良平は肩を少し浮かす。
「聞き飽きた、その台詞。
女の子はそんなもんなんだって言ってるでしょ?」
私の答えに、良平はクスッと笑う。
「俺も聞き飽きた。その返事」
もうっ!
「あ、お兄ちゃんがサッカーの雑誌取りにおいでって」
私たちより二つ年上のお兄ちゃんは、高校でもサッカーをやっている。
昔みたいに良平とサッカーをする事はほとんどなくなってしまったけど、使わなくなった道具とか、読み終わったサッカー雑誌を譲ったりしている。
「やった!
今日行くな。8時に行くからって言っといて」
私はにっこりうなずいた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
協力って具体的に何をどうするのかなぁ。
良平に理沙のいい所をそれとなく話すの?
う~ん。
理沙が告白する時に良平を、理沙が待ってる場所まで呼び出すの?
・・・・・・そんなの無理。
それとも良平に理沙の気持ちを伝えるの?
・・・・・・もっと無理。
そして、もしそれらをしたらどうなるの?
良平が理沙と付き合うようになったらどうなるの?
良平が私にしてくれる全ての事以上の事を、理沙は彼女の特権で手に入れるの?
かおりに言った言葉が思い出される。
良平が、優しくない。
そんな事はまったく無い。
テストの点が悪くて再試になったときにも、はじめ馬鹿にされたけど、内心落ち込んでる私の気持ちに気が付いて“気にするな”と言ってくれて、再試まで私の勉強を見てくれた。(見た目と違って頭がいいんだよね。サッカーばっかりやってるくせに!)
他にも、お兄ちゃんとけんかした時は必ず慰めて、時には優しく叱ってくれる。
二人とクラスが離れて寂しかった私に、クラスでチョコチョコ話しかけてくれた。
今日の帰りも、家の近くの公園に不審者が出たらしいから、今日みたいに遅くなるなよって注意してくれる。
同級生の男の子たちは、女の子と仲良く話をするのに抵抗がある感じだけど(勿論女の子もそうだ)、良平は違う。
同級生なんだけど、同級生じゃない感じ。
小六の頃少し話しをしない時期もあったけど、半年くらいの話で、その後は、本当に“少し意地悪で、けど、優しい大好きな男の子”だった。
良平を理恵に取られたくない。
そう思った。
今までの私の心にはない独占欲だった。
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心の中に独占欲が沸いたからといって、即行動(言葉)には出来ないことを知った。
それは次の日の放課後。
理恵が二人だけで話がしたいと教室へ私を呼びに来た。
「よっ」
私が気が付く前に、良平が理恵に気づいて理恵に声を掛けた。
その声で私は理恵に気が付き、急いでクラスの入り口へ向かう。
「どうしたの?一人?」
私が声を掛けた時、通り過ぎようとしていた良平が振り返る。
「お前ら知り合いなんだ」
私が返事をする前に理恵は振り向き“そうだよ~”と軽い感じで答える。
「ふ~ん。
あ、あんまり遅くなるなよ」
一瞬だけだけど真剣な顔をして良平は私たちの前をさっと通り過ぎていった。
心配してくれている。
そう思ったら、心の中がフワッと暖かくなった。
「ちょっと相談に乗ってほしくて。」
そんな良平の背中を見送りながら理恵は私にそう言った。
その言葉で一瞬で胸がギュッと締め付けられた。
話を聞くの怖いなぁ…と感じながらも私はいつもは4人で集まる放課後の踊り場へ向かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「相談の前に、一つ確認したいんだけど。」
まじめな顔をして、理恵は話を始めた。
「うん」
そう答えながらも、私にはその内容の予想が付いていた。
「良平の事、好きだったりしない?」
ほら。
私はこの質問を小学校の1年の頃から何度と無く聞かれてきた。
昔から良平と仲の良かった私は、興味本位の子や良平を好きだという子達に。
5年生の夏頃には、否定していたのにも関わらずかなり冷やかされて、そのせいで私たちは気まずくなって、小学校卒業までの間返ってギクシャクしてしまい、話をしなくなってしまった。
中学校に上がってクラスも離れ、少し距離が出来たせいか、冷やかされる事も無くなって、私たちは昔のように良く話をするようになった。
中学校に上がって久しぶりに話をした良平は小学校の時とは比べられない程優しく男の子らしく感じられた。
勿論ちょっと乱暴な態度や意地悪な口調は相変わらずだったけれど、その中にも優しさが感じられて、私は良平が好きになった。
自覚してからも、私は良平の事を聞かれた事もあったけど、私は否定をした。
誰かに告白されて、その子と付き合ったらと思うと切なくなったりしたけど、前に良平が今は誰とも付き合う気は無いと言っていたし、私もそんな良平の幼馴染の女の子として傍にいれるだけで充分気持ちは満たされていた。
「しないよ。」
けど、うそをつく時は胸が痛む。
けど、色々噂されるて、また良平とギクシャクしてしまうのはイヤだし、それが良平に伝わって、誰とも付き合う気の無い良平に振られてしまうなんて考えられなかった。
「良かった。
詩織の言ったとおりで」
えっ、詩織が?
「うん。
4人で集まるようになる前から由佳の事は知ってたんだ。
クラスの男の子が廊下ですれ違いざまにクラスの女の子以外の子と仲良さげに話を始めたのを見たんだ。
とってもいい感じに見えて、気になったんだ。
詩織に聞いたら、詩織の友達だって言ってて。けど、本人がただの幼馴染だって言ってたって聞いたの。
それからなんだか良平が気になった。
その事を詩織に話したら、由佳を紹介してくれるって言ってくれて、それで由佳と友達になれたんだ。」
そういえば、何で理恵が私たちのグループに入ってきたかなんて知らなかった。
ってか、理由なんか考えたこと無かった。
一緒に遊ぶのはとっても楽しかったから。
なんだか少しがっかりした気がした。
詩織も勿論かおりもそんな事全然話してくれなかった。
「私も由佳みたいに良平と話をしたい。
そう思った。だからいっぱい話しかけた。
良平とは、どんどん仲良くなっていけた。けど、どうしてもたまに見る良平と理恵みたいな感じにはなれなかった。
幼馴染だしって割り切って考えてても、気になって。
クラスが離れてあんまり会えなくなって、その間も良平と理恵が同じクラスで更に仲良くしてるって思ったら、どうしても我慢できなくって。
良平と理恵以上の関係になりたい。
勝手に理恵に嫉妬してる自分も嫌だし、今の状態を変えたい。
だから私は良平に告白したいんだ。
うだうだ考えてるのは私の性に合わないしね」
真っ直ぐに私を見つめる由佳に、私は胸をギュッと締め付けられるような感じがした。
前向きな由佳。
前を向こうとしない私。
私はどうしたらいいの?
どうするべきなの?
‥‥‥私は自分の意見を何も言えず、理恵の話しに、うなずいていた。
理恵は今日、一度家に帰って着替えてからうちに来ることになった。
私の携帯から良平の携帯に理恵が電話して(最初は良平の携帯教えてって言われたけど、さすがに勝手に教えられないし・・・・・・)呼び出す事になった。
時計を見るともう良平は帰っている時間。
良平はどうするんだろう。
今は誰とも付き合う気は無いと言っていた良平。
“今は”という言葉は今も健在なのか…
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ピンポーン!
私は玄関に出る。
「どうぞ、入って」
いつもよりもかわいい理恵に、私の気持ちは更に不安になった。
「もしもし」
久しぶりにかける電話。
少し手が震える。
「よぉ、どうしたの」
良平の声が受話器から響く。
胸がきゅっと締め付けられるのを感じた。
良平が好きだと心が叫んだ。
こんなにも良平をスキだと感じたのは初めてだった。
「実は、今、部屋に…理恵がいるんだ」
言葉が詰まる。
「えっ?」
「話があるってから、代わるね」
「はっ!?」
話についていけてない様子の良平をそのままに、私は急いで電話を理恵に渡した。
これ以上話をしていられなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「私、行くね。
後で電話する。
‥‥‥ありがとね」
そう言って理恵は家を出て行った。
今、家の前で二人は会っている。
あんなにかわいい理恵に告白されて、良平はどうするんだろう。
もしOKされたら、私は良平と理恵二人が仲良くしている姿を見る事になる。
良平は私よりも理恵を大切にするんだ。
もし、NOなら理恵はとっても落ち込むだろう。
どっちにしても、気持ちはすっきりしない。
何でこんな事になったんだろう。
好きな人と友達との仲介。
私は理恵を心から応援できない。
そんな自分がとても汚く思えた。
上辺では応援していて、心のそこで、それを否定している。
そんなのだめだ。
友達を裏切りたくない。
私は良平をあきらめよう。
どうせ付き合いたいとか考えてたわけでもないし、幼馴染の関係に満足してるし。
良平とはこのままでいい。
理恵を応援しよう。
心の底から応援しよう。
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結局その日、理恵から電話は無かった。
ずっと電話を待っていたけど、来なかった。
幸せいっぱいで、私への電話をすっかり忘れてしまったのか、それとも、悲しくってそれ所ではなくなってしまったのか。
勿論良平から連絡も来なかった。
朝、詩織が教室に来て、理恵が振られたと教えてくれた。
電話できなくてごめんねという伝言ももらった。
その事を伝えている詩織は、私の顔をジッと見ながら話していた。
それはまるで様子を探っている様に思えて、思わず目をそらしてしまった。
教室の中。
朝練を終えた良平が教室に入ってきた。
良平、何か言うかなぁ。
そう思いながら良平を見る。
けれど、良平は私のほうをチラリとも見なかった。
昨日の今日で、少しは反応があってもよさそうなのに…
けれど、その日一日良平と話をする事は無かった。
なんだか私から話しかけづらかったし、良平も私の方を見ようともしなかった。
放課後になっても一度も視線を合わそうとしない。
怒ったような表情で良平は一日過ごしていた。
それが昨日の事に対しての私への反応だとその頃には確信出来た。
良平は昨日の事を怒ってるの?
なんで?
誰とも付き合う気が無いと言っていたのに仲介したから?
それとも、理恵と仲がいい私と話しづらい?
‥‥‥良平の気持ちが判らなかった。
放課後、私は理恵の所に顔を出そうか悩んだ。
良平を諦めた私は、素直に理恵をかわいそうだと思った。
慰めてあげたい。
私は理恵の教室に向かった。
理恵の教室にはかおりがいるだけだった。
理恵と詩織は先に帰ったよとかおりは言った。
「行く?」
かおりはいつも集まる屋上の踊り場を指差す。
私はかおりと二人なんて初めてだな…なんて考えながらうなずいた。
一人になりたくないと感じた。
「理恵、一日中落ち込んでた。時々涙もにじんでた。」
「そっか。」
やっぱり落ち込むよね。
あんなに勇気を振り絞って告白したのに。
「昨日は誰にも連絡できる状態じゃ無かったって。けど、由佳に電話できなかったこと気にしてた」
「気にしなくていいのに。しょうがないじゃん」
首を大きく振って私は答えた。
「私だって振られたとしたら、その報告をすぐ友達に出来ないと思うし」
そう言う私をかおりはジッと見つめた。
「誰に振られたら?」
真っ直ぐ見つめる視線が私の胸に突き刺さる。
昨日の理恵を思い出す。
「理恵は誰に振られたときの事を考えた?」
かおりの質問に、私は驚いた。
「何を聞いてるの?」
質問の意味がわからなかった。
「理恵は自分も良平に振られたときの事を考えて理恵に感情移入してるんじゃないの?」
かおりは私の気持ちに気づいてるんだ。
そう判った。
「由佳は理恵に協力なんかしちゃいけなかったんじゃないの?」
真っ直ぐな視線に、私はこれ以上嘘をつきたくないと思った。
自分を嫌いにならない為に。
私は中学に入ってから良平を意識し始めた事、小学校の時に冷やかされて良平と気間づくなってそれが寂しかった事。
そうなりたくなくて中学に入って良平との事を聞かれても嘘をついてきた事。
・・・・・・そして、理恵を裏切りたくないから良平を諦めたことを話した。
話はとても長くなったけど、かおりは黙って聞いてくれた。
けれど、話し終わった時、かおりはあきれたような顔をして私を見た。
「馬鹿だね」
ため息をつきながら、そう言った。
「理恵はそんなに簡単に諦められるの?
理恵が気持ちを隠すのには理由があったんでしょ、私はそれ、有りだと思うよ。
ま、理恵への協力は無しだったと思うけどね。
・・・・・・難しいよね。
前に詩織に良平の事ただの幼馴染だって言っちゃったんだもんね。
良平の事を好きではない詩織にそう言うのと、良平の事が好きな理恵にそう言うのとは全然嘘の質が違ってくるもんね。
あ、嘘って言うとなんか感じ悪いね。
ごまかし?
気持ちをかくす?
とにかく、今の状況は、誰にとっても良くない状況だと思うけどな」
「けど、友達に嘘を付いたんだよ。
やっぱりよくない。
心のどこかで良平を好きなままで理恵に会いたくない。」
もうあんな気持ちで理恵に会いたくないと思った。
理恵とは真っ直ぐな気持ちで付き合って行きたい。
「そう思うなら、がんばってあきらめてみる?
私は無理だと思うけどね。
けど、私の考えが正しいなんて決まってないし。
由佳がそうしたいなら見守ってることにする。
勿論理恵と詩織には黙ってる。
けど、辛かったら言っといで、力になるから」
私はこの後、かおりの言葉の正しかった事を痛感する事になる。
それはたった数時間後の事だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ごめんね、突然」
かおりと別れてすぐ、理恵から電話で学校の近くのコンビニに呼び出された。
私と会ってすぐ、理恵はそう言った。
「それに、昨日電話しなくてごめん」
そういう理恵に私は気にしないでと言った。
気持ちは判るから…と言おうとして、かおりの質問を思い出して、言葉を飲み込んだ。
「今日は、どうしても聞きたいことがあって」
えっ?
「昨日良平が言ったの。
他に好きな子がいるからって。
付き合ってるのって聞いたら、一方的な片思いだって言ってた。
理恵誰だか知ってる?」
そんな事初耳だ。
私はブンブンと首を振った。
‥‥‥私の心臓が激しく動いた。
そんな子が良平にいたなんて。
「そうだよね。
いくら幼馴染だからって、好きな子を教えあったりしないよね。
その子が誰だかわかったら。
その子を一目でも見られたら、良平を諦められるかなって思えたんだけどね。」
悲しげな微笑を残して理恵は帰っていった。
良平の好きな子って誰?
私は今までそんな事気が付かなかった。
今は誰も付き合う気は無い。
それは昔の良平の言葉。
その“今”は終わっていたの?
その好きな子は良平の事をどう思ってるの?
その子が良平をスキだったら良平は勿論その子と付き合うよね。
そしたら、私と良平の関係は?
あんまり仲良くしたら、その子に悪いよね。
って言うより、付き合っていなくても、あんまり良平と仲良くしてたら、良平とその子、うまくいくものも行かなくなるよね。
もう、全ての事が私と良平を離そうとしている様に感じた。
良平とはクラスメート以上に仲良くしない。
そうすれば理恵を裏切る事も無いし、良平に迷惑もかけない。
それに今日良平は私の存在を無視していた。
理由はすごく気になる。けど、この状態が続けば、自然に私たちの今までの関係が壊れるかも。
最近はおにいちゃんも忙しいみたいで、前みたいに良平をチョコチョコかまってないし。
時間がたてば…
けれど、涙が止まらない。
心の中でこれからの事を考える事が出来た。
けど、胸が苦しい。
涙が溢れ出て止まらない。
実行できる?
良平の好きな子の事を考えるだけでこんなにも苦しいのに。
良平の今日の怒ったような表情を思い出しただけで、こんなに悲しいのに。
良平…
心で良平を呼んだ。
その瞬間、ドアがドンドンッと強くたたかれた。
「はいるぞ」
強い口調の良平の声だった。
驚いて返事も出来ない私の前に、怒った顔のままの良平が姿を現した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「泣いてるのか!?」
ドアが閉まる。
涙で滲んだ良平の怒った表情が一瞬で消えて、驚いた表情に変わった。
私はあわててベッドに顔を伏せる。
「なんでも、ない」
そう答えた声に嗚咽が混ざってしまう。
良平が近づいてくる気配を感じた。
今、良平に会いたくない。
良平が来てくれてうれしい。
良平の事が好き。
良平の事が…
そこまで考えた時、良平の腕が私を力強く抱きしめた。
ぐるぐる頭の中をめぐっていた色々な思考が一気に消えた。
「お前が今泣いてるのは俺のせい?」
落ち着いた声が耳元で響く。
私は首を振った。
そんな事無い。
「…自分のせい…」
私はそう答える。
「理由は?
今日の俺の態度は関係してるのか?」
私は更に涙があふれて来た。
でも、良平は悪くない。
私のせいだ。
私が良平を好きなせい。
「俺、お前の事が好きだよ」
私を抱きしめた腕に更に力が入った。
えっ!?
「ずっと。お前の事が好きだった」
心臓がつかみ上げられた様にギュッとなった。
「お前が理恵の告白に協力したのを知って、俺、すごいショックだった。
お前の気持ちが全く俺に無い事を教えられたんだもんな。
‥‥‥今日一日お前の顔を見れなかった。
お前が俺のほうを気にしてるのに気づいてたのに。
けど、小学校の時みたいにずっと話が出来なくなると思ったら、いてもたってもいられなかった。
時間がたてばたつほどギクシャクしてきそうだと思ったし。
で、告る事にした。
勿論返事はわかってる。
けど、返事はしないで欲しい。
俺、もっといい男になるよ。
そしたらもう一度告らせて。
それまで返事、待ってよ。」
突然の告白。
良平の言葉はとてもゆっくりで、そして優しくて。
真剣な気持ちが伝わった。
良平も私と同じ気持ちだったんだ。
うれしかった。
‥‥‥けど、私は諦めると決めたんだ。
理恵を裏切りたくないから。
「泣いてる理由は分からないけど、俺の今日の態度だったらこういう理由だし、それ以外なら、力になりたい。」
私はうなずいた。
「ありがとう」
けれど、それ以上の言葉が続かなかった。
「一方的で、ごめん」
しばらくして抱きしめていた腕をゆっくり放した。
私は首を振った。
良平の顔を見れなかった。
「また、前みたいに付き合っていこうな」
私はうなずくことしか出来なかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
背中が寒い。
良平の暖かかった胸を思うと涙が出た。
私をスキだといってくれた良平。
私の力になりたいと言ってくれた良平。
良平と一緒にいたい。
良平に私も好きだと伝えたい。
あの暖かい腕にまた抱きしめられたい。
どうしてもその考えから離れられなかった。
けれどそれは理恵への裏切り。
詩織にも嘘を付いていた事を話さなければいけない。
もう、一緒に遊べなくなるかもしれない。
それは嫌だ。
だから、自分の気持ちをちゃんと話して分かってもらおう。
それしかない。
やっと決心した私の心は、ここ数日のごたごたの中で、一番すっきりしていた。
そして、その時、私はかおりの言葉を思い出した。
諦められない気持ち。
かおりには分かっていたんだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
朝、教室に入ったと同時に良平と目が合った。
良平は少し照れくさそうに、けれど微笑んでくれた。
私もドキドキしながらも、一生懸命笑顔を見せた。
まずかおりを昼休み呼び出して、全てを話した。
かおりはやっぱりねと微笑んでくれた。
「簡単には丸く収まらないと思うけど、これからも友達として付き合っていくなら避けられないしね。
力になるよ。」
私はかおりの言葉に勇気が湧き出てくるような気持ちになった。
「詩織も、悪いんだよね。」
別れ際にボソッとつぶやいたかおりの言葉の意味が分からなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「今日は、私、話があるんだ。」
みんなが集まった所で、私は話を始めた。
突然の切り出しに、詩織と理恵は私のほうを真っ直ぐ見た。
私はかおりの顔を見る。
力強く頷いてくれたのを見て、私は再び詩織と理恵の顔を見る。
ちゃんと話して、分かってもらいたい。
4人の関係を壊したくないから。
「私、今まで言えなかったけど、実は、良平の事が好きだったんだ。」
びっくりした顔をした二人。
「え、だってただの幼馴染だっていってたじゃん!」
詩織がすぐに口を開いた。
「うん。小学校の頃、クラスの子にうわさされて、当時は別にスキとかそんな気持ちも無かったんだけど、良平とギクシャクして話が出来なくなっちゃって。
中学になってやっと少しずつ元通りに話が出来るようになったんだ。
その頃から良平の事スキだって気が付いた。
けど、またうわさが立って良平と話が出来なくなっちゃうのが嫌で、良平の事聞かれてもただの幼馴染って答えてきたんだ。」
話を聞きながらだんだん顔を赤くして、怒った表情になっていく詩織から、視線をそらさないように、私は一生懸命顔を上げ続けた。
「私が噂を広めるって思ったの!?」
私は首を振った。
「怖かったんだ。
・・・・・・ただ、怖かった。」
詩織を軽く思ってるんじゃないって事を分かって欲しい。
「でも私に嘘を付いたって事は
信用出来なかったって事でしょ!?」
「違う!!」
思わず大きい声が出た。
と同時に涙が出た。
「もう、やめなよ」
かおりが口を挟んだ。
「一度傷ついたら臆病になるでしょ?
由佳は良平と話を出来ない期間、辛かったんだよ。
二度とそうなりたくないって思うくらい。
詩織と理恵の事をどうでもいいって思ってたら、こんな事わざわざ話さないって分かるでしょ?
それに、詩織は由佳の気持ちに気づいてたはずだ。
私より由佳と仲良かった詩織が私でも気づいてた由佳の気持ちに気づかないはず無い。
気づいてるのに、その嘘を理恵にも伝えた。
私から見れば、詩織も由佳に謝るべきだ。
たとえそれが、由佳の嘘を本当かどうか試す形の、信じたい一身からの行動だとしても。」
かおりの言葉に、私と理恵はびっくりして詩織を見た。
気づいてたの?
私の気持ちを試してたの?
私達の目の前で、詩織は悔しそうに下を向いた。
「そうだよ。私、気が付いてた。
だから力になりたくて由佳に聞いた。
けど、由佳は否定した。
嘘だと思ったけど、嘘を付かれたって思いたくなかった。
だから私はそれが本当だって信じることにした。
2年になって理恵と同じクラスになって、理恵が良平を好きだって聞いた。
理恵に良平と一緒にいる由佳の事を聞かれた。
私の友達の事として。
だから私は由佳の言った通り教えた。
そして、由佳にも会わせた。
正直由佳の事を信じたい気持ちはあったけど、どうしても信じきれていなかったから、理恵が良平に告白したいって言ったときの由佳の反応が気になった。
案の定由佳はとっても動揺してた。
そして私は待ったんだ。
由佳が私に本当のことを話すのを。
本当のことを言ったら文句を言ってやろうって。
意地悪な考えかも知れないけど、私はそれくらいショックだったんだよ。由佳が私に嘘を付いたことが。」
詩織の気持ちを知って、私は詩織をずっと傷つけてきたことを知った。
何で友達をもっと信じられなかったんだろう。
ゴメン。
「けど、理恵の話がどんどん進んで、由佳が落ち込んでくのを感じて、私、後悔した。
由佳の話が少しでも嘘だと思っていたんなら、理恵に由佳の事を紹介しちゃいけなかったんだよね。
由佳の隠したい気持ちももう少し汲むべきだった。
結局、大好きな由佳も理恵も傷つけちゃった。
由佳、理恵、ゴメンネ。
私、由佳と良平がただの幼馴染で、由佳とかおりと三人で理恵の力になりたいって、本当に思ってたんだよ。」
私は首を振る。
私も詩織の気持ちを分かってなかった。
私のほうこそ、本当にゴメンネ。
そして、私の目の前の理恵が詩織と私を見ながら優しく微笑んだ。
「私、由佳を紹介してもらって本当に良かったと思う。
良平の好きな人がたとえ由佳だとしても、これからも友達でいたい。
昨日そう思った。
その気持ちは今も変わらない。」
ドキッとした。
良平の気持ち。
「その事だけど、それも話したい。」
びっくりした表情の詩織が私にグイッと顔を近づけた。
「告られたの!?」
えっ、何で解るの!?
驚く私の前でかおりが笑い出した。
「私と詩織が解らないわけ無いでしょ?」
詩織はため息をついてうなずいた。
「そうじゃないかと思った。」
「私、なんだか気持ちがすっきりした気がする」
理恵がつぶやく。
「由佳に話しかける良平を見て私、良平を好きになったんだもん。
私も良平にあんな風に話しかけられたいって思ったんだ。
けど、私は無理だった。
だから、私は私だけにあんな風に優しくしてくれる男の子捜す事にするよ。
すぐには無理かも知れないけど、今後の参考に恋話とかきかせてよね」
私は辛いはずの理恵の優しさに胸がジンとした。
この仲間を大切にしていきたいと思った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
早く良平に会いたかった。
会って自分の気持ちを伝えたかった。
私は部活の子達よりもすっかり遅くなってしまった帰り道、急いで良平の家へ向かった。
最近はあまり行かなくなった良平の家だったが、良平のお母さんは何の抵抗も無く家へあげてくれた。
私は真っ直ぐ2階の良平の部屋の前に立ちドアをたたいた。
「なに?」
そう言ってドアを開けた良平の驚いた顔が、とても愛しく感じた。
「入って、いい?」
私の問いかけに、良平は黙って手を引いてくれた。
「もしかして、今帰ってきたの?」
私の鞄を見て、良平は少し怒った顔をする。
「…うん」
「危ないから遅くなるなって言っただろ」
「うん。詩織たちと話が長くなって」
「それでもおそくなるなよ」
怒った顔のままの良平。
けど、良平が心配して怒ってくれるのがうれしかった。
「ありがとう、心配してくれて」
私の返答に、良平はふーっとため息をついて、表情を和らげた。
「心配かけてるって解ってるなら、気をつけてくれ」
優しい口調。
「うん」
私も素直にそう答えられた。
「何か、相談?」
椅子を指差し聞く良平に、私は首を振る。
「相談じゃないの?」
不思議そうにそう聞く良平に私は首を振った。
「違う。告白しに来たの」
私の言葉にびっくりした表情をした良平に、私は更に一歩近づいた。
「私も良平が好き。
ずっとスキだった。」
びっくりした表情のままの良平を私はジッと見つめた。
もう誰にもごまかしたりしない私の気持ち。
良平にわかってほしかった。
「本当、に?」
良平の声がかすれていた。
私はうなずいた。
その瞬間、私は良平の胸の中にいた。
痛いほど強く抱きしめられた私は、幸せにめまいがした。
「色々話したかったけど、頭の中が真っ白になっちゃった。」
良平の胸の中で私がそう言うと、良平は私を抱きしめたまま、小さく笑った。
「・・・・・・俺も、今、頭の中、真っ白かも。」
自然と視線が合って、二人で小さく笑う。
「大好きだよ」
そして、私を抱きしめる腕に更に力を入れて、良平はそう言った。
「私も・・・・・・大好き。」
私も良平の背中に腕を回し、ギュッと抱きしめる。
やっと言えた私の気持ち。
この気持ちを、大切にしよう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私を抱きしめていた良平が、最後にギュッと力を入れて私を抱きしめ、そして私から体を離した。
どうしよう。
ドキドキが止まらない。
私は良平の顔を見ることが出来ず、うつむいて立っていた。
言葉が出ない。
何を話していいのか、何をしたらいいのか解らない。
「……ねぇ、顔、見せてよ」
ドキッ!!
そんなこと言われて、すんなり顔なんて見せられない。
今、良平の目の前にこうして立っている事が、私の限界。
「ねぇ。」
少し低めの。そして、少し甘えるような声。
私はもう、立っていることすら限界に近い状態にっ!!
耳の端まで痛いくらい強く鼓動を打っている。
そんな私を見ていた良平は再びギュッと私を抱きしめると、すぐにその腕を私から離した。
「今度どっか行こうか。」
突然の誘い。
けど、口調は、全然普通っぽい。
今までの雰囲気が一気に変わった感じになった様に感じた。
良平の優しさ。
私は、その空気に少しホッとしながらも、少しだけ和らいだドキドキの気持ちを胸に残したまま良平を見る。
「行こうよ。」
優しく微笑みを浮かべた良平。
いつもの・・・・・・よく見る良平の顔。
覗きこむ様に私の反応を待つ良平。
普通っぽく感じたけど、やっぱりその表情は、少し甘く見えた。
そんな良平に、私はうなずいて見せる。
せっかく良平が気を使ってくれているのに、私はその優しさに付いていけないでいる自分がすごく小さく感じた。
「ごめんね。私、なんだかいっぱいいっぱい。」
すごく小さい声になった私の言葉に、良平はクスッと小さく笑った。
「大丈夫。
俺、そんな由香も好きだよ。
ゆっくり進んでいこう。
・・・・・・そんな事言ってる俺もいっぱいいっぱいなんだけどね。」
今度は反対に良平の耳が赤く染まった。
「お前の気持ちがここに有るってだけでかなり満たされてるし。」
そう言いながら、自分の胸をトンと叩いた。
少し視線をそらして、照れくさそうに。
「私も、今、とっても幸せだよ。」
「…キスしていい?」
「…」
「…」
「大好き、良平」




