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夢でモテモテ現実でも!?

掲載日:2026/05/16

【夢でモテモテ、現実でも!? 第1〜12話】


■ 第1話「今夜も夢の中でモテてる俺、起きたら現実が待っていた」


ひいらぎ 颯太そうたは二十歳の大学二年生だ。身長は平均より少し低く、顔は悪くないのだが、それをアピールする術もなく、常に壁の染みのような存在として大学生活を送っていた。サークルにも入っておらず、友人は数えるほど。バイトはコンビニ。現実は残酷なほど地味だった。


だが、眠れば話は別だ。


夢の中の颯太は違った。自信に満ち溢れ、気がつけば美しい女性たちに囲まれている。今夜も豪奢なソファに深く腰掛けた颯太の両隣には、霧島 瑠花がぴったりと寄り添い、向かいでは天音 彩が上目遣いで微笑んでいた。


「ねえ颯太、今日はどこ行く?」 瑠花が甘えるように腕に絡みついてくる。夢の中の彼女はいつでもそうだ。現実では「地味くん」と呼ぶくせに、ここでは颯太を名前で呼んでくれる。


「あなたの行きたいところならどこでも」 彩先輩が柔らかい声で言う。長い栗色の髪がふわりと揺れる。


颯太はこの時間が好きだった。この夢の中だけが、自分が"誰か"になれる唯一の場所だったから。


――ピピピピ。


無慈悲なアラームが鳴った。颯太は天井を見つめ、深いため息をついた。


「……また夢か」


カーテンの隙間から朝の光が差し込む。今日もまた、何もない一日が始まる。そう思っていた颯太の耳に、扉のチャイムが響いた。


玄関を開けた颯太は、目を疑った。そこには――昨夜の夢で甘えてきたはずの霧島 瑠花が、スーツケースを二つ並べて立っていた。


「颯太、今日からしばらくここに住むから。よろしく」


颯太の頭の中で、何かがカチリと音を立てた。


──────────────


■ 第2話「幼なじみが押しかけてきた! そして今夜の夢では俺がモテない!?」


事情を聞けば、瑠花の部屋のリフォームが急遽決まり、一週間ほど住む場所が必要になったのだという。幼なじみだし仕方ない。颯太はしぶしぶ了承した。


問題はその夜から始まった。


シャワーを浴びた颯太がバスルームのドアを開けた瞬間、廊下で着替えていた瑠花と正面衝突した。タオル一枚の颯太と、ちょうどブラのホックを外しかけていた瑠花が、廊下の真ん中で固まった。


「――っ! ばか颯太! 変態! なんで今出てくるの!!」


ビシャリと頬を張られ、颯太はリビングに転がり込んだ。頬は熱いが、脳裏に焼き付いてしまったものは消えない。現実の瑠花は夢よりも―― いや、考えるな。


その夜、颯太は眠りについた。


だが今夜の夢は妙だった。いつもと逆だ。夢の世界では颯太が教室の隅で俯いていて、瑠花は颯太に全く気づかない。彩先輩は人気者の男子と話しており、颯太を素通りしていく。


「……あれ?」


夢の中の颯太は困惑した。ここは夢のはずなのに、なぜかこっちが現実のほうがリアルに感じる。


翌朝目覚めた颯太は額に手を当てた。夢と現実が、何かおかしい。なぜ夢の中でモテなくなっている? そして現実では幼なじみが家にいる。


台所から瑠花の声がした。「颯太、朝ごはん作ったよ。……昨夜のことは忘れろ」


耳が赤い。颯太は小さく笑った。


──────────────


■ 第3話「バイト先の後輩・ことりと、夢の中の積極的な彼女」


コンビニのバイトに入ると、白瀬 ことりが無愛想な顔でレジを打っていた。颯太が「おはよう」と声をかけると、「……ども」とだけ返ってきた。いつも通りだ。


ことりは仕事は完璧で、愛想だけがゼロに近い。颯太は彼女と接するたびに壁を感じていた。なぜ夢の中の彼女があんなにも違うのか、理解できない。


その夜、颯太は眠りにつく。


夢の中でことりはポニーテールを揺らしながら颯太の腕にぶら下がっていた。「先輩! 今日のバイト終わりに一緒に帰りましょうよ!」 キラキラした目で見上げてくる。


しかし颯太は気づいていた。今夜の夢はどこかちぐはぐだ。ことりは積極的なのに、背景が妙に現実に近い。コンビニの店内が夢のはずなのにリアルすぎる。


「先輩、聞いてます?」とことりが颯太の頬をつつく。その指が頬に触れた瞬間、颯太はびくりとした。温かい。夢なのに、温度がある。


目が覚めた颯太はしばらくその感触を反芻した。夢と現実の境界線が、少しずつ溶け始めている気がする。


翌日のバイト。ことりが颯太に声をかけてきた。「……あの、先輩。昨日の補充、ありがとうございました」


それだけだった。でも颯太には、その言葉がひどく大きく聞こえた。


──────────────


■ 第4話「彩先輩のノートと、夢のデジャヴ」


大学の廊下で颯太は天音 彩先輩にぶつかり、彼女のノートを盛大に散らばらせてしまった。慌てて拾い集めると、先輩は微笑んで言った。「ありがとう。……あなた、見たことある気がする」


颯太の心臓が跳ねた。夢の中では颯太のことを熟知している先輩が、現実では「見たことある気がする」程度の認識しかない。それが少し悲しかった。


ノートを返しながら手が触れた。先輩は少し驚いたように颯太を見た。そのとき先輩のカバンが弾け、中身がバッと広がった。颯太は慌てて拾い集めたが、下着のポーチが手のひらに乗っかってしまい、先輩と目が合った。


「……拾ってくれてありがとう」先輩はほんのり頬を染め、静かに受け取った。颯太は謝りながら全速力で立ち去った。


その夜の夢では、彩先輩が「今日廊下で会ったでしょ、覚えてる?」と無邪気に笑っていた。


「夢の中でもリアルでも、あなたに会えてよかった」


颯太は夢の中で固まった。これは夢のセリフじゃない。何かが変わり始めている。そんな確信が、彼の胸の奥に芽生えていた。


──────────────


■ 第5話「謎の女・久我美玲「あなたの夢を知っているの」」


その女性は大学の中庭のベンチに座って本を読んでいた。颯太が通りかかったとき、ぱっと顔を上げた。


「あなたが柊 颯太くんね」


颯太は足を止めた。見覚えのない顔だ。しかし、その落ち着いた声には既視感があった。


「私は久我 美玲。あなたのことは少し知ってるわ」


「……どこかで会いましたか?」


美玲は微笑んだ。「夢の中で、よ」


颯太の全身に鳥肌が立った。美玲の言葉は続く。「私ね、あなたの夢を知っているの。そしてあなたの夢は、もうすぐ現実になる」


「……意味がわかりません」


「そのうちわかるわ。でも一つだけ教えてあげる。今夜の夢と、明日の現実を、よく見比べてみて」


美玲はそれだけ言って、また本に目を落とした。颯太は立ち尽くした。


その夜の夢の中に、美玲が現れた。


夢の中の美玲は笑っていなかった。静かに颯太の目を見て言った。「もうすぐ、全部ひっくり返る」


颯太が「どういうことだ」と聞こうとした瞬間、目が覚めた。枕が濡れていた。夢の中で涙を流していたらしい。


──────────────


■ 第6話「図書館のお姉さん・那奈と、夢の中の熱烈告白」


試験勉強のため大学図書館に来た颯太は、司書助手の桜山 那奈さんに本の場所を尋ねた。眼鏡をかけた那奈さんは静かに微笑み、丁寧に案内してくれた。


書棚の奥深くで目当ての本を探していると、那奈さんが背伸びして上段の本を取ろうとした。そのとき颯太が同じ本に手を伸ばし、二人の手が重なった。


同時にバランスを崩した颯太は書棚に手をついたが、那奈さんはよろけて颯太に背中から倒れ込んだ。眼鏡が外れ、那奈さんが颯太の胸に顔を埋める形になった。ふわりと柔らかい感触と、シャンプーの香り。颯太は全身が固まった。


「す、すみませんっ!」那奈さんは真っ赤になって素早く離れ、眼鏡をかけ直した。颯太も謝りながら頭を下げた。


その夜、夢の中で那奈さんは颯太の手をしっかり握って言った。


「私ね、ずっと颯太くんのことが好きだったの。本を読むたびに、あなたと感想を話したいって思ってた」


颯太は夢の中でその手を握り返した。でも今夜、夢の中の那奈さんは現実とほぼ同じ服を着ていた。夢がどんどん現実に近づいている。


翌日、図書館で颯太が本を返すと、那奈さんがこっそり付箋を挟んでくれた。《おすすめの本です》と書かれた手書きのメモとともに。颯太の胸が温かくなった。


──────────────


■ 第7話「隣人・御堂すずの不思議な朝と、夢の反転が加速する」


朝、颯太がゴミ出しに行くと、同じマンションの御堂 すずが颯太の目の前でスポーツウェアのままジャンプして引き戸の高いところに荷物を押し込もうとしていた。


すずが思い切りジャンプした拍子に重心が崩れ、颯太にそのままドサッと倒れ込んできた。颯太はとっさに受け止めたが、廊下の壁に二人で押し付けられる形になった。すずは颯太の顔の至近距離で固まる。汗の匂い、上気した頬、スポーツウェア越しの体温。


「あ……ごめ、大丈夫?」すずは意外にも声を潜めて言った。耳が赤い。颯太も真っ赤になりながら離れた。


その夜の夢は激しかった。


夢の中のすずは颯太のマンションの部屋に押しかけてきて、「ねえ、私のストレッチ手伝ってよ!」と無邪気に迫ってくる。颯太は夢の中でも困り果てながら、でも夢特有の幸福感に包まれていた。


しかし今夜の夢、また変だ。夢の中の颯太は今朝の廊下のシーンをほぼ正確に覚えている。夢が現実を取り込んでいる?


颯太は目覚めながら思った。夢と現実の距離が、確実に縮まっている。


──────────────


■ 第8話「瑠花の「好きな人」と夢の中の嫉妬」


瑠花のリフォームが延長になり、颯太の家での同居が続いていた。ある夜、瑠花がリビングで電話をしているのが聞こえた。


「……うん、好きな人いるよ。でもその人、全然気づいてくれないから」


颯太は台所でコップを取ろうとして、手が止まった。瑠花に好きな人。当然だ。彼女は美人で明るい。颯太は特に意識していなかったはずだ。意識していなかった、はずだ。


その夜の夢。


いつもなら自分の周りに女の子が集まるはずの夢なのに、今夜は違った。颯太は夢の中で中庭のベンチに一人で座っていて、少し離れたところで瑠花が誰かと笑っていた。颯太はその笑顔を見て、胸がじりじりと痛くなった。


これは嫉妬だ。夢の中で自分が嫉妬している。夢でモテていたはずの俺が、夢の中でも報われない気持ちを味わっている。


颯太は目覚めたとき、枕に顔を押し当てた。


朝食の時間、瑠花が何気なく言った。「颯太、今日の夕飯、何がいい?」


颯太はしばらくして答えた。「……お前の得意なやつ」


瑠花が一瞬目を丸くして、それから顔を赤くしてそっぽを向いた。「……しょうがないな」


──────────────


■ 第9話「美玲の「転換点」と、夢が崩れていく夜」


颯太は中庭で再び久我美玲に会った。今日の彼女は少し表情が違った。


「もうすぐよ、颯太くん。転換点が来る」


「転換点って何ですか。夢がおかしくなってるのは美玲さんのせいですか?」


美玲は首を振った。「私のせいじゃない。あなたが変わったのよ。現実で誰かのことを"見る"ようになったから、夢が現実に引き寄せられてる」


「……見るって?」


「瑠花ちゃんのこと。那奈さんのこと。ことりちゃんのこと。あなた、ちゃんと見てる。夢の都合のいい女の子じゃなくて、現実の彼女たちを」


颯太は言葉に詰まった。


その夜の夢は、ガラガラと音を立てて崩れていくようだった。


豪奢な部屋が消え、夢の中の背景が徐々に現実の颯太のアパートに変わっていく。女の子たちの顔も夢の理想像ではなく、現実の彼女たちの顔になっている。瑠花が颯太の隣に座って、ぼそりと言った。


「颯太、私が見えてる?」


夢の中で颯太は頷いた。「見えてる」


目覚めると、リビングから瑠花が歌っている声が聞こえた。颯太はしばらくその声を聴いていた。


──────────────


■ 第10話「ことりの素顔と、バイト終わりの帰り道」


バイト終わりに颯太とことりが同じ方向だとわかり、二人で帰ることになった。最初は無言だったが、雨が降り出した。


颯太が折りたたみ傘を持っていたので二人で入ったが、ことりは颯太より少し背が低く、密着せざるを得ない距離になった。


狭い傘の下でことりが颯太に身体を寄せた瞬間、風が吹いて傘が裏返った。二人は一瞬ずぶ濡れになり、ことりは颯太のシャツを掴んで引き寄せながら、顔を上向けた。びしょ濡れの前髪、潤んだ目。颯太は固まった。


「……先輩、傘が」


「あ、ご、ごめん!」


二人はコンビニの軒先で雨宿りした。ことりはしばらく黙ってから、ぽつりと言った。


「……私、愛想よくするの苦手なんです。でも先輩には、ちゃんと話したいなって思ってて」


颯太は驚いた。夢の中では積極的なことりが、現実でこんな言葉を言うとは思っていなかった。


その夜の夢では、ことりが傘を持って颯太の家に来た。夢なのか現実なのか、颯太にはもうよくわからなくなっていた。


──────────────


■ 第11話「夢と現実の交差点 〜那奈さんの「秘密の本」〜」


図書館で颯太が本を選んでいると、那奈さんがそっと声をかけてきた。


「柊くん、少しよろしいですか?」


那奈さんは書庫の奥から一冊の本を取り出した。表紙には何も書いていない。


「これ、非公開の蔵書なんですけど……柊くんには見せたいと思って」


開くと、そこには夢と現実についての古い研究ノートが挟んであった。夢の境界が薄れると、夢と現実の人物が「同期」し始めるという内容だった。


「……これ、まるで俺の話みたいです」颯太は静かに言った。


那奈さんはちょっと目を伏せた。「柊くんのこと、夢で見たことがあるんです。初めて会う前に。……変ですよね、こんなこと言ったら」


颯太は首を振った。「変じゃないです。俺も、同じです」


二人はしばらく並んで本を読んだ。書庫の静寂の中で、颯太は那奈さんの存在をひどくリアルに感じた。


その夜の夢では、颯太と那奈さんが並んで本を読んでいた。それだけだった。でも颯太はその夢が好きだった。何も起きないのに、温かかったから。


──────────────


■ 第12話「【前半クライマックス】 夢が完全に反転する夜」


颯太はある夜、いつものように眠りについた。


今夜の夢は最初から違った。颯太のアパートの部屋に、全員がいた。瑠花、彩先輩、ことり、那奈さん、すず。そして美玲。


誰も夢っぽい笑顔をしていない。全員、現実と同じ顔をしている。


美玲が静かに言った。「これが最後の夢よ、颯太くん」


「最後?」


「明日から夢と現実が入れ替わる。今まであなたが夢で見ていた世界が現実になる。そして今の現実が、眠るたびに見る夢になる」


颯太は全員の顔を見渡した。瑠花が小さく微笑んだ。ことりがそっぽを向いて耳を赤くした。彩先輩が静かに頷いた。那奈さんが眼鏡の奥で目を細めた。すずが拳を握った。


「颯太くん」、美玲が続けた。「これからの現実は、あなたが作るの。彼女たちは本物よ。夢じゃない」


颯太が「わかった」と言った瞬間、世界が白く弾けた。


目が覚めると、颯太のアパートのチャイムが鳴った。ドアを開けると――六人全員が、それぞれスーツケースや荷物を持って立っていた。


瑠花が代表して言った。「……おはよう、颯太。説明は長くなるけど、とりあえず上げてくれる?」


颯太は目を丸くしたまま、静かにドアを大きく開いた。


夢と現実が、入れ替わった朝が始まった。


──────────────

【夢でモテモテ、現実でも!? 第13〜24話】


■ 第13話「全員集合! 俺のアパートが満員御礼になった件」


颯太のアパートは1LDKだった。そこに六人が押しかけてきた。


事情は全員バラバラだった。瑠花はリフォーム延長。ことりは実家との喧嘩で家出。那奈さんは図書館の宿舎が改修中。すずは同じマンションの水漏れ。彩先輩は部屋の更新忘れ。そして美玲は……ただいたかったから、とだけ言った。


颯太は頭を抱えた。「せっ……狭い!! どうすんのこれ!」


場所の割り振りを話し合っていると、すずが颯太のすぐ後ろから覗き込み、颯太がバランスを崩して振り返った。


後退した颯太がソファのひじ掛けにつまずき、後ろ向きに倒れた。倒れる方向には、ちょうど着替え中だったことりが。二人は重なる形でソファに沈み込んだ。ことりが颯太の真下で固まる。至近距離の顔。


「……さ、先輩!!」ことりが真っ赤になって颯太の胸を両手で押した。颯太は転がり落ちた。


六人全員が爆笑か沈黙のどちらかに分かれた。颯太だけが床に転がって天井を見上げていた。


その夜、眠りについた颯太の夢の中には、地味で誰にも気づかれない自分が一人で教室に座っていた。


(ああ、これが前の現実だ) 颯太は夢の中で静かに思った。不思議と、懐かしかった。


──────────────


■ 第14話「朝のバスルーム渋滞と、彩先輩の「おはよう」」


六人が暮らし始めて最初の難関は、朝のバスルームだった。颯太が一番に起きて準備を済ませ、出ようとしたところでドアを引くと、外でちょうど彩先輩がノックしようとしていた。


ドアが外側に開き、颯太の顔が彩先輩の顔の真正面に飛び込んだ。先輩はびっくりして後退り、足元のバスマットで滑った。颯太が反射的に腕を伸ばして支えたが、二人は廊下の壁に押し付けられる形になった。先輩のパジャマの肩が颯太の腕にかかり、柔らかい感触が。


「……ごめんなさい」先輩は静かに言った。耳が赤い。


「こちらこそ!」颯太は素早く離れた。


先輩はしばらくして、ぽつりと言った。「颯太くん、名前で呼んでもいいかな」


颯太は一瞬固まった。「え? あ、はい、どうぞ」


「おはよう、颯太くん」


先輩が微笑んだ。颯太の心臓が、朝から全力で跳ねた。


その夜の夢では、颯太が誰にも名前を呼ばれない教室にいた。でも今は、それが少しだけ懐かしい夢になっていた。


──────────────


■ 第15話「瑠花の「好きな人の話」と、颯太の気づき」


ある夜、颯太と瑠花だけがリビングに残った。他の全員が先に眠っていた。


瑠花が膝を抱えてテレビを見ながら言った。「ねえ颯太、前に電話で好きな人の話してたの、聞こえてた?」


颯太はドキリとして、でも平静を装った。「……なんとなく」


「その人がどんな人か、当ててみる?」


「わかんない」


瑠花は颯太の顔をじっと見た。「地味で、自信なくて、自分がモテるとは夢にも思ってないくせに、なんか放っておけない人」


颯太は固まった。


「……で、そいつは気づいてんの?」


瑠花は少し間を置いた。「最近ようやく気づいてきたかな、って感じ」


颯太は黙った。胸の奥で何かが動いた。言葉にできないけれど、大切な何かが。


その夜の夢では、颯太が一人で歩いていた。後ろから誰かがついてきた。振り返ると、夢の中の瑠花が笑っていた。「ようやく振り返ってくれた」


──────────────


■ 第16話「すずの「弱い部分」と夜のベランダ」


深夜、颯太が水を飲もうとリビングに出ると、ベランダにすずが一人で座っていた。いつも元気なすずが、膝を抱えて空を見ていた。


颯太が声をかけると、すずは少し驚いた。「あ……眠れなかったの」


颯太は隣に腰を下ろした。二人で無言で夜空を見た。


「私ね、試合で怪我して……しばらくスポーツできないんだ」


颯太はすずを見た。強そうに見えていた彼女が、今夜は小さく見えた。


するとすずがくしゃみをした。大きなくしゃみで、体が颯太に傾いた。


すずが倒れた勢いで颯太の肩に寄りかかり、そのまま颯太の首に顔が当たる距離になった。ウェーブした柔らかい髪が颯太の頬をくすぐった。すずの体温が伝わってくる。


「……あっ、ごめ」すずが起き上がろうとしたが、颯太は静かに言った。「いい。寒いだろ」


すずはしばらく黙って、それから小さく言った。「……ありがとう」


その夜颯太は夢を見なかった。代わりに、ベランダのひんやりした風を思い出しながら眠った。


──────────────


■ 第17話「美玲の「正体」と、夢の仕組みが明かされる」


颯太は美玲に直接聞いた。「なんであなたは最初から俺のことを知ってたんですか」


美玲は少し迷うように間を置いてから、答えた。


「私ね、夢を"渡れる"の。他の人の夢に入って、観察したり、少しだけ話しかけたりできる。あなたの夢が面白かったから、ずっと見てた」


颯太は絶句した。「……盗み見じゃないですか」


「そう。ごめんなさい」


美玲は珍しく素直に謝った。「でも、あなたの夢が変わっていくのを見てた。最初はただの都合のいいハーレムだったのに、だんだん彼女たちが本物になっていって。あなたが彼女たちをちゃんと見るようになって。それが限界に達したとき、反転したの」


「俺が変えたのか?」


「あなたが現実で動いたから。夢は現実の鏡よ」


颯太はしばらく沈黙した後、言った。「あなたは……夢の中で俺のことを好きになったりしませんでしたか」


美玲が初めて、少し目を細めた。「……少しね」


──────────────


■ 第18話「ことりの「先輩、私のこと好きですか?」直球問答」


バイト帰り、ことりが颯太にずんずんと並んで歩いてきた。珍しく饒舌だった。


「先輩ってさ、みんなのことどう思ってるんですか」


「……みんなって?」


「瑠花さんとか、彩先輩とか、那奈さんとか。全員かわいいじゃないですか」


颯太は正直に答えた。「まあ……みんなすごいと思うよ」


ことりが足を止めた。颯太も止まった。ことりが颯太を真っ直ぐ見た。


「私のことは?」


颯太が答えに詰まった瞬間、突風が吹いた。


ことりのポニーテールが颯太の顔に直撃した。それと同時に段差でことりが躓き、颯太にぶつかった。二人で街路樹に寄りかかる形になった。ことりの顔が颯太のすぐ目の前。息がかかる距離。


ことりは逃げなかった。颯太も動けなかった。


「……答え、まだですよ」


颯太はようやく言った。「お前のことは……夢に出てくる前から、ちゃんと見てた」


ことりが静かに頬を赤く染めた。


──────────────


■ 第19話「那奈さんと二人の図書館 〜本の中の恋〜」


颯太は久しぶりに一人で図書館に来た。来た理由は自分でもよくわかっていない。でも那奈さんに会いたかった。


那奈さんは颯太を見つけると、ほんの少し表情を柔らかくした。「あの本、読みましたか?」


「読みました。続きが気になって」


那奈さんが嬉しそうに目を細めた。閉館後、二人で本の話をしていると、消灯の時間になり図書館が暗くなった。非常灯だけが光る書庫で二人は並んでいた。


棚から本を取ろうとした那奈さんが背伸びをして、バランスを崩した。颯太がとっさに支えたが、那奈さんの眼鏡が颯太の胸元に落ちた。眼鏡なしの那奈さんが颯太のすぐ目の前で、ぼんやりした目で颯太を見上げた。普段の知的な雰囲気とは全く違う、柔らかい表情。


「颯太くん、顔が……近い」那奈さんが小声で言った。


颯太は眼鏡をそっと手渡した。「す、すみません」


那奈さんは眼鏡をかけ直して、うつむいた。「……かけてない方が、よく見えました。あなたの顔」


颯太の心臓が止まるかと思った。


──────────────


■ 第20話「夢の中の「地味な俺」と向き合う夜」


颯太はその夜、珍しく夢の中で動けた。夢の中の颯太は以前と同じ、誰にも気づかれない大学生だ。でも今夜は違う。颯太は夢の中を歩き回った。


教室の端の自分の席に座ってみた。静かだった。誰も話しかけてこない。でも不思議と、以前ほど孤独じゃない。なぜなら今の颯太には、現実で話す人たちがいるから。


夢の中の颯太に、夢の中の美玲が現れた。「どう? 懐かしい?」


「うん。でも悪くなかったな、あの頃も」


美玲は笑った。「そう思えるようになったのね」


颯太は夢の中で頷いた。「あの頃の俺がいたから、今がある。夢でモテるだけじゃ足りなくて、現実で誰かのことを本当に見たくて……それで変わったんだと思う」


美玲が静かに言った。「それが答えよ、颯太くん」


目覚めると朝の光が差し込んでいた。颯太は起き上がり、アパートの中に聞こえる賑やかな音に耳を傾けた。台所で誰かが料理をしている。笑い声。歌声。


颯太は初めて、心から思った。ここが、俺の現実だ。


──────────────


■ 第21話「彩先輩の「ずっと覚えてた」と雨の約束」


颯太と彩先輩が二人でスーパーへ買い出しに行った帰り道、雨が降ってきた。


颯太が傘を差し出すと、先輩は受け取らず、隣に並んで濡れながら歩いた。


「先輩、傘」


「いい。こういう雨、嫌いじゃないから」


二人で並んで濡れながら歩いた。先輩が言った。「颯太くん、廊下でぶつかったの、覚えてる? 最初の日」


「覚えてます」


「あのとき、手が触れたじゃない。……あれ、ずっと覚えてた」


颯太は足を止めた。先輩も止まった。雨が二人を濡らしていた。


先輩が颯太の方に向いた瞬間、颯太の傘が風で吹き飛んだ。颯太が追いかけて転び、先輩がとっさに颯太の腕を掴んで引き止めた。先輩のジャケットが颯太の胸元に貼りつく。


「大丈夫?」先輩が颯太の目を真っ直ぐ見た。


颯太は答えるより先に言った。「先輩のことが、好きです」


先輩は雨の中で少し笑った。「……知ってた。でも、言ってほしかった」


──────────────


■ 第22話「六人と颯太の「本音の夜」〜みんなの答え〜」


ある夜、六人全員がリビングに集まった。颯太が帰ってきたとき、全員の顔が待ち構えている。颯太は嫌な予感がした。


ことりが最初に切り出した。「先輩、私たち全員、先輩のことが好きです」


颯太は固まった。


瑠花が続けた。「で、あなたは誰のことが一番好きか、今すぐ答えなくていい。でも逃げるのは禁止」


美玲が穏やかに言った。「私は夢で颯太くんを知ったけど……現実のあなたの方が、もっと好きよ」


那奈さんがうつむいて言った。「私は言葉より本が得意だから、気持ちをまとめた手紙を書いてます。あとで読んでください」


すずが拳を握った。「私、怪我治ったら一緒に走りたい。あなたのそばにいたいから」


彩先輩が最後に微笑んだ。「急かさないから、全部受け取ってね」


颯太はしばらく黙った後、頭を深く下げた。「……ありがとう。全員のこと、ちゃんと大切にします。それだけは、今すぐ言える」


誰かが笑った。そしてリビングが少しだけ温かくなった。


──────────────


■ 第23話「夢の中の「地味な颯太」への手紙」


その夜の夢は静かだった。


颯太は夢の中の教室に座っていた。ふと机の上に一枚の紙が置いてあることに気づいた。広げると、こう書かれていた。


《颯太へ。お前は地味でモテなくて、自信がなかった。でも、それでよかったと思う。その分だけ、他の人を丁寧に見ることができたから。夢でモテてたのは、お前の中に"本当は誰かに見てもらいたい"って気持ちがあったから。でも今は違う。自分で見に行ってる。それが答えだ。現実で頑張れ。 ――颯太より》


颯太は夢の中でその手紙を読み終えて、ゆっくりと立ち上がった。窓の外を見ると、誰もいない学校に朝日が差し込んでいた。


目覚めると、那奈さんの手紙が枕元に置いてあった。颯太はそれを手に取り、丁寧に読んだ。


窓の外は快晴だった。颯太は服を着替えて、リビングに向かった。六人の声が聞こえた。今日も賑やかな一日が始まる。


──────────────


■ 第24話(最終話)「俺の現実は、夢より甘かった」


第1期最終話。颯太は六人と暮らし始めてひと月が経ったことを思い返していた。


每朝、誰かが朝ごはんを作っている。毎晩、誰かがリビングにいる。時々ぶつかって、時々怒らせて、時々ラッキースケベで全員に怒鳴られる。それが颯太の現実だった。


ある昼、颯太がひとり屋上に出ると、美玲がいた。


「最後に聞いていいですか。俺の夢が反転したのは、本当に俺が変わったからですか?」


美玲は空を見上げながら答えた。「半分ね。もう半分は――彼女たちが現実でも、あなたを見始めたから」


颯太は目を見開いた。


「夢は一方通行じゃないの。あなたが夢で彼女たちを見てる時、彼女たちも現実であなたのことを気にし始めてた。夢と現実、両方から引き寄せ合ったのよ」


颯太はしばらく沈黙した後、笑った。「じゃあ、俺だけが動いたわけじゃないんだ」


「そう。みんながあなたを選んだ」


その夜、颯太は眠りについた。夢の中は静かな教室だった。颯太はひとり座って、窓の外を見た。


夢の中の颯太は思った。このモテない静かな世界も、悪くない。現実が賑やかな分、夢の中は穏やかでいい。ここは休める場所だ。


夢の中の扉がノックされた。開くと――夢の中の六人が立っていた。


瑠花が笑った。「夢の中まで追いかけてきちゃった」


颯太は笑い返した。「夢でも現実でも逃げ場ないな」


「当たり前でしょ」


【第1期 完】


颯太は気づいた。夢でモテたかったのではなく、現実で誰かに必要とされたかっただけだと。そしてそれは、夢が教えてくれた答えだった。第2期では、それぞれのヒロインとの「本当の関係」が動き始める――。


【第1期 完】

 颯太は気づいた。夢でモテたかったのではなく、現実で誰かに必要とされたかっただけだと。そしてそれは、夢が教えてくれた答えだった。第2期では、それぞれのヒロインとの「本当の関係」が動き始める――。


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