影の祭
「はぁ、はぁ・・・・・・」
夜道を必死になって駆ける男が一人居た。その男は酷く焦っていた。何故なら、男は盗みに入った家の家族を思わず全員、殺めてしまったのだ。
「そんなつもりはなかった、アイツらが抵抗するから・・・・・・」
盗みに入った家で男は、盗みの最中に家の主人に見つかり騒がれた。焦った男は男は黙らせようと近くに有った壺で主人が黙るまでその頭を殴った。 騒ぎを聞いて駆け付けた主人の嫁と娘も、近所の住人に助けを呼ばれそうになって焦って近くに有った刃物や壺などで殺してしまった。
襲われた家には、彼の指紋と被害者の血痕の付いた凶器と遺体がある。警察に足がつくのも時間の問題。捕まれば死刑は免れないだろう。
そう思い、男は直ぐにその場から逃走し、今できるだけ遠くに行こうとしていた。
「はぁはぁ・・・・・・おえっ」
男は走りすぎて嘔吐しそうになり、近くの藪に入って座り込んだ。
「チクショウ、チクショウ・・・・・・」
男が虫の息で漏らしていると、
「と~おりゃんせとおりゃんせ・・・・・・」
「か~ごめかごめ・・・・・・」
何処からか童歌が聞こえてきた。
男が歌の聞こえる方に目を向けると、奇怪な光景が目に入った。
月をバックに舞台で踊る三人娘、その踊りに拍子を取る宙に浮く二台の太鼓、その様子を障子の後ろから囃す人のような影達。
「何だコレは!?」
男が会場の方に体を向けて目を丸くしていると、何処からともなく
「さぁここにおいでますのは、盗みを働いた挙句に一家惨殺をした罪人。果たして今宵、どのような踊りを披露してくれるのでしょうか」
と、男に向かって声がした。
「はぁ?」
男は困惑するが、会場の調子は上がり、障子の中は勢いを増した。
「うぉぉぉ!」
「さぁさぁさぁ!」
「踊りだぁ? 何言って――」
「オ・ド・レ、オ・ド・レ、オ・ド・・・・・・」
男の背後から聞いた事のある声がした。それは後ろから手拍子を打って囃す殺した一家の亡霊の声だった。
「上手に踊れりゃ、彼方へえんやこりゃ、罪人をえんやこりゃ」
真ん中の踊り子が歌う。残りの踊り子も合わせて歌う。
「踊れば、いいんだな・・・・・・」
男は舞台に立って踊った。必死に踊った。しかし会場は静まり返っていく。
「踊ったぞ、早く俺をサツに捕まらない場所まで送ってくれ」
舞台の踊り子と男だけ残して会場は闇へと変わった。
「下手なこの子はこなたへえんやこりゃ、罪人をえんやこりゃ」
「おい! 何だよこれ!? 何だよ・・・・・・」
男は闇に包まれた。
事件の次の日の事、たまたま通りがかった刑事は奇妙な仏を見つけた。
それは目を見開いて死んでいる強盗と殺人をした男、まるで魂を抜き取られた様な顔をした男だった。
今宵も会場は盛り上がっていた。舞台には四人の踊り子が踊り、歌う・・・・・・。
「かってうれしい はないちもんめ。まけてくやしい はないちもんめ」




