第5話 最期のお願い
「ごめんなさいルーシー、私のせいで!」
そう言いながら私は、出血を減らそうと持っていたタオルや服で傷口を圧迫した。
でも、全然血が止まらない。布地がどんどん血の赤に染まる。
「アリサ……悪くないよ……」
細切れになった言葉でルーシーが呟く。
「もう喋っちゃダメ!」
ここで、私はすぐさま助けを呼ぶべきだと思いつく。
「そうだ、ルーシーのスマホ!」
ルーシーのポケットに入っていたスマホを取り出す。
ダンジョンの中には、普通の救急組織は来てくれない。
だから、藁にもすがる思いで、「ダンジョン救命部隊」に連絡を取る。
ダンジョン救命部隊は、ダンジョン内での怪我人を救助してくれる組織だけど、公的機関ではなく民間の営利組織だ。
そして、事前に契約して高い保険料を払っている人しか助けないらしい。
契約者ではない私たちを助けてくれるかわからないけど、とにかく電話をかけた。
「ダンジョン救命部隊ですか!? 仲間が死にそうなんです! 三層Bブロックの奥です!」
『契約番号は分かりますか?』
「すみません契約はしてないんです! でもお願いします、助けてください!」
『契約者ではない方の要請には、お応えできませんね』
「後でいくらでもお金払います! 一千万でも、二千万でも!」
『繰り返しになりますが、契約者ではない方の要請には、お応えできません。さようなら』
そこで電話が切れた。
「そ、そんな……」
一縷の望みだった救命部隊も来ないらしい……。
ルーシーはこのまま死んじゃうの……? そんなの嫌だ。
「アリサ……大丈夫…だよ」
息も絶え絶えでルーシーが言う。
「だって……ダンジョンは、自由、だから。私……後悔してない」
「ダメだよルーシー、死なないで……!」
「自由は、痛みよりも……価値が……ある、から」
「やめて、ルーシー……!」
「あの、ね……お願いがあるの……」
「な、何……?」
私はルーシーの口元に耳を近づけた。
「私が死ぬところ……配信して」
……え、今なんて言ったの。
「ルーシー? 何、言ってるの……?」
「……だから、……私が、死ぬところ……配信して、ほしいの」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが壊れるような音がした。
死ぬところを配信してほしい?
どう考えても異常だ。
でも、もしこの様子を配信したら、とんでもない注目を集めるかもしれない。いや、何を考えてるんだ私は。
でも、ルーシーが配信することを望んでいる。
他でもない、ルーシー本人の最期の望みだ。
なら、応えてあげるのが私の役目なんじゃないの……? だって、ルーシーが望んでいるんだから。
「わ、分かったよ……ルーシーが言うなら」
私は、ルーシーのスマホを持って自分たちが映るように画面に収めた。
そして、配信ボタンを押した。
RECの赤いサインが、血よりも赤く染まった。




