第4話 扉の奥に潜む者
扉を開けて中に入ると、そこはまるで、西洋の城の中みたいな、とても大きな部屋だった。
太い柱が立ち並んでいて、赤いカーペットが敷かれている。
<コメント>
・なんだここ
・レアアイテムあるんじゃね?
・罠の可能性も
・部屋ひっろ、家賃高そう
・嫌な予感する……
コメントも興味津々のようだ。
「何があるんだろ……あっ!」
「アリサ、どうしたの? あっ」
部屋の奥にいたのは、ドラゴンだった。
ドラゴンなんて、もっと深層じゃないと出てこない強力な魔物だ。
今の私たちの実力で、倒せるとは思えない……。
私たちと目があったドラゴンは、ゆっくりと体を起こし、大きな咆哮をした。
<コメント>
・あっ
・うおおお
・ドラゴンとかヤバww
・マジかこれ
・ここ3層でしょ??なんで
・逃げろ!
・戦ってみてよ
・勝てばレア素材取れるぞ!
・にげろ
コメントが盛り上がりはじめたけど、見てる余裕はもうないかもしれない……。
「ルーシー、これどうす……うわっ!」
ドラゴンが私の方に一気に距離を詰めてきた。
ヤバい。想像よりも動きが速い。
太い爪のついた右腕が、私の方に襲いかかってくる……あ、これ間に合わないかも。
……と思ったら、足元が引っ張られて、視界が大きく揺れ動いた。
そのおかげで、ドラゴンの攻撃をかわすことができた。
「アリサ!」
足首にルーシーの鞭が巻き付いている。ルーシーが引っ張ってくれたおかげで、なんとか助かった。
<コメント>
・うわドラゴン速い
・なになになに
・これヤバくない?
・ルーシーナイス!
・危機一髪……!
・戦え戦え〜
・マジで逃げた方がいい
私は体勢を立て直して、ドラゴンから距離を取った。
「アリサ、こっち!」
「ルーシー!」
私たちは太い柱の影に一旦隠れた。
ドラゴンも動き出した。
まいった……出入り口の扉の前に位置取られた。
「アリサ、これ戦うしかないんじゃない?」
「そうかもね……」
こうして私たちは戦闘体制を取った。
私たちの戦闘スタイルは、ルーシーが前に出て、私が後ろから支援するというやり方だ。
「行くよ!」
「うん!」
いつも通り、ルーシーがまず前に飛び出した。
ドラゴンの注意はルーシーに向いた。
そのタイミングで、私も距離をとりつつ別方向へ飛び出す。
ルーシーが鞭でドラゴンに攻撃を加えた。けど、分厚い鱗に守られていて、効いているようには見えない。
私も頭部に向けて弾丸を数発撃った。命中したけど、こっちも効いていない……。
ドラゴンの攻撃をひらりとかわすルーシー。後ろから射撃しつづける私。
ダメだ、どちらも大してダメージを与えられない。
<コメント>
・死ぬなよ……
・勝てるのこれ??笑
・あかんやつだ
・がんばれ!
・カスダメすぎて草
・ドラゴンつええ
そのうち、ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。
これはきっと……火炎のブレスだ……!
「ルーシー!」
「分かってる、距離取ろう!」
予想通り、ドラゴンは火を吹いた。
距離を取っていたから大丈夫だったけど、あれを喰らっていたら大火傷は免れないと思う……。
でも、今の攻撃のおかげであることに気づいた。
「ルーシー、ドラゴンが息吸う瞬間に腹を見せるから、そこを攻撃しよう」
「分かった」
腹部には分厚い鱗がない、火を吹く前には大きく息を吸う必要があって、その時におそらく弱点であろう腹を見せてくる。
私たちはドラゴンにブレス攻撃を誘発するよう、中距離で物理攻撃の回避に専念しつづけた。
すると、その時がやってきた。
埒が明かないと思ったのか、ドラゴンは足を踏ん張り、息を吸い込みはじめた。
「アリサ、今だよ!」
「分かってる!」
私は渾身の魔素を込めた弾丸を、すべてドラゴンの腹部に撃ち込んだ。
弾丸は命中し、腹部から血が吹き出した。
<コメント>
・いけるか!?
・アリサやるじゃん
・……やったか?
・↑フラグ立てるな
・討伐できたら報酬すごそう
・頑張れ!!
・カメラ揺れすぎ、酔う
腹を撃たれたドラゴンは、痛みで苦しんでいる。
……でも、傷はそこまで深くないらしい。まだまだ戦意は失っておらず、私たちを睨みながら激しく咆哮した。
そんな……この程度じゃ致命傷にならない……。
怒ったドラゴンは、前よりも激しく動き回って攻撃をしてくるようになった。
「はあ……はあ……」
まずい、前衛でずっと戦ってるルーシーが、息切れを起こしている。長期戦は不利になるだけだ。
と、その時、ドラゴンの攻撃を受けてボロボロになった柱が、私の方に倒れ込んできた。やば、避けなきゃ……!
「あっ……スマホが!」
何とか怪我は回避できたけど、左手に持っていたスマホが柱の倒壊に巻き込まれてしまった。これで配信は強制中断だ。
壊れたスマホに意識を取られていた瞬間、ドラゴンの尻尾がこっちに勢いよく向かってきた。
「うぐっ……!」
腕でガードはしたけど、全身が吹き飛ばされた。
「アリサ!」
床を転げ回った私は、ルーシーの方を見た。
「ルーシー後ろ!」
痛手を喰らった私に気を取られたルーシーを、敵は見逃さなかったらしい。
ルーシーは素早く振り向いたけど、遅かった。
ドラゴンはルーシーの左半身に噛みついた。
「ああああ!!」
ルーシーの悲鳴が部屋に響く。
そんな、私のせいで……?
とにかく動かなきゃ。
私はドラゴンに近づいて、弾丸を放った。
でもやっぱり効かない。
ドラゴンはまるで子供が人形で遊ぶかのように、噛みついたルーシーを振り回している。
このままだとルーシーが死んじゃう……
その時、ドラゴンの動きが急に鈍くなった。
「アリ、サ……今……!」
「ルーシー!」
よく見ると、噛みつかれた状態のルーシーが、鞭でドラゴンの足元を拘束している。
このチャンスしかない!
私はドラゴンに思い切ってさらに接近した。
そして、ドラゴンの眼を狙って何発も撃った。
「ウガァ……!」
一発が目玉に命中した。相手は悲鳴をあげて、噛み付いていたルーシーを床に落とした。
私は急いでルーシーの元に駆け寄った。そして、血まみれでぐったりとしている彼女の身体を担ぐ。
ドラゴンが痛みで苦しんでいる隙に、出入り口の扉まで全力で走った。
なんとか間に合って、扉から外に出た。
外に出ると、黒い扉は煙のように消え去った。
「に、逃げれた……!」
私は担いでいたルーシーを地面にゆっくりと置く。
「回復弾!」
私は左手に意識を集中させて、魔素で回復用の弾丸を作った。手が震えながらもなんとか銃に装填して、ルーシーに向かって撃った。
弾が命中すると、緑色のまばゆい光がルーシーの体を少しの間だけ包んだ。
回復弾の効果で少し傷が治りはじめたけど、間に合うとは思えない……。
ルーシーの左半身は真っ赤でボロボロになっていて、左腕は肘から先が無くなっていた……。
私の回復スキルじゃ、この怪我は治せそうにない。
「……アリサ……?」
「ルーシー喋っちゃダメ!」
ルーシーが意識を取り戻した。口元から血が吹き出す。
「わ……たし、死ぬのかな……」




