第13話 彼女の選択
その時急に、ルーシーとの昔の思い出が蘇った。
◆◆◆
ルーシーは、困ってる探索者を助ける人だった。
しかし助けながら、横で死体や怪我や恐怖を撮ることには一切ためらいがない。
私たちが探索者として駆け出しの頃、第二層で大怪我をしている他の探索者に出会ったことがある。
ルーシーはその人を手当てしながら、こう言った。
「探索者はね、みんな自由なんだよ。だから私は探索者を尊敬してるの。……傷が痛む? その傷も、あなたが生きた証だから、きっと尊いものなんだよ」
手当てを終えた後、私に言った。
「さっきの人、あんな死に様だと気の毒だよね。だから助けることも大事。でも同時に、視聴者が『恐怖』を感じる瞬間も必要なんだよ。助けるだけの動画はね……優しいだけ。優しい動画は、伸びない」
◆◆◆
……私は拳銃をすばやく取り出し、弾丸をグラットンハウンドの群れに向けて放った。
二、三匹に命中した。
それほど耐久力のある魔物ではないので、弾が命中したところに風穴が開き、血を吹き出しながら死骸が吹っ飛んでいった。
急な襲撃にグラットンハウンドの群れは驚いたようだ。
私の存在に気づいた数匹が、こちらに襲って来た。敵の動きは単調だった。顔に向かって飛びかかって来たところを撃ち殺していった。
動き回りながらさらに何匹か仕留めると、群れは敵わないと思ったのか、逃げていった。
私は男のもとへ近づいた。
出血がひどいが、まだ確かに生きている。
「あんた、ありがとう……! ハア……ハア……、死ぬところ、だった……」
「……そうですか」
「本当に、ありがとう……」
「感謝されるようなことはしてませんよ……」
私は顔を背けて言った。
実際、私はもっと早く助けられたのに、配信のためにあえて放置していたのだ。ありがとうと言われる筋合いなんてない……。
そんな気持ちを振り払うかのように、私は左手で回復弾を生成して、銃に装填した。
そして銃口を男に向ける。
「うわ、何をする!?」
いきなり銃口を向けたため、驚かせてしまった。
「あっ、すみません、こういう回復スキルです」
男に回復弾を撃つと、全身がまばゆい緑の光に包まれた。
完治はできないけど、出血を抑える程度には回復効果があった。
「自力で歩けますか?」
「はあ……はあ……無理だ。でも大丈夫……ダンジョン救命部隊を、呼ぶ……」
「……契約してるんですね」
「ああ……高い保険料を……払ってきたかいが、あったよ……」
男は血まみれの手でスマホを取り出し、救命部隊に連絡をとった。
まもなくして、オレンジ色の制服に身を包んだダンジョン救命部隊の隊員たちが駆けつけてきた。
救命部隊に担がれて、男は救助された。
男が居なくなるまで、私はその場で撮影しつづけていた。
<コメント>
・ヤバすぎ……
・救命部隊来たー!!
・助かってよかった……!
・救命部隊呼べるとか金持ってんな
・うわコイツ金持ちかよ、死ねばよかったのに
・助かりそうでよかった
・マジでヒヤヒヤした
・また炎上確定でしょwww
・神回
・[スパチャ:¥2,000]活動頑張って
・うわーこれは荒れるな
・人としてどうなの
・アリサヤバいなww登録した
・目が離せない
・コイツも加害者だろ
・死ぬまで放置するかと思った
・ダンジョン内で加害がどうとかナンセンス
・ダンジョン怖すぎ
・視聴者3万突破www
・もう引き返せないな
………………
…………
……
これでもかというほどコメントが流れ込んできていた。
私の行いについて意見が分かれているけど、そんなのは覚悟の上だ。
……でもやっぱり、批判されると心が痛む……。
私の中にあの時、「助けない」という選択肢が確かにあった気がする。
もしそっちを選んでいたら……いや、やめよう。とにかくさっきの人は助かったんだから、それでいいじゃないか。
私は電車に乗って家に帰る道中、スマホの写真フォルダを見返していた。
アルバムを遡ると、ルーシーの写真がいくつも出てきた。こうやってルーシーと一緒に電車に乗って、色んなところに旅行に行ったりしたものだった。
……でも今は、一人だ。
だからこそ私は、一人でも進まなきゃいけない。
ルーシーが生きた自由なダンジョンを、徹底的に映し出すんだ。
どんなに凄惨な光景でも、見なかったことにするのは、世界に嘘を吐くのと同じだ。
◆◆◆
家に着いて、シャワーを浴びて、疲れ切った身体をベッドに放り投げた。
私は自分の右手を見た。ダンジョンでは拳銃を握っていた手だ。
手が少し震えている。
グラットンハウンドの群れに銃を撃ち込んだ瞬間を思い出した。
あの人を助けることにしたのは、良心だけがきっかけじゃなかった気がする……。
心が痛むのに、どこか高揚感がある。
否定したいのに、感情に嘘は吐けない。
そうだ……私は……。
私はあの時、あの死に様はどうにも気に入らないと思ってしまったんだ……。
死に方を選ぶのは私だと、思ってしまったんだ。
その時、スマホの通知が鳴った。
さっきの配信のアーカイブに対して大量の通知が押し寄せていた。
[通知]あなたの配信アーカイブの再生回数が50,000回を超えました。
[通知]あなたの配信アーカイブに200件の高評価が付けられました。
[通知]あなたの配信アーカイブに50件のコメントが届きました。
[通知]あなたの配信アーカイブに100件の低評価が付けられました。
[通知]あなたのチャンネルの登録者数が100,000人を超えました。
今回の配信も、バズったらしい。
ルーシーの時ほどじゃないけど、おびただしい量の通知が押し寄せてきて、私の思考や悩みを圧迫していく。
「チャンネル登録者数……10万人行ったんだ……」
胸の奥で込み上げるものがあった。10万人なんて、ルーシーと一緒に配信を始めた時には、想像もつかなかった。
でもついに、この大台に乗ったんだ。
配信のアナリティクス画面を何度も更新する。
更新するごとに、さっきの配信のアーカイブの再生数、評価数、コメント数が増えていく。
それにあわせて、私の心拍数が上がる。息が荒くなる。フワフワとした鋭い高揚感に包まれて、気がついたら口角が上がっていた。
「……ルーシー、私もっと頑張るよ」




