第10話 アリサは何になりたいの?
「ねえアリサ……普通に死ぬ人生って、死ぬより退屈だと思わない?」
大学一年の終わり頃、一緒に昼ごはんを食べていた時、ルーシーが言い出した。
「いきなり何の話?」
「普通の人はさ、普通に学校を卒業した後、普通に就職とかして、そのまま普通に働きつづけて、それで最後は普通に死ぬの。……そんなの、面白くないと思わない?」
「うーん……でも、みんながそういう生き方で満足してるし、退屈でもいいんじゃない?」
「じゃあさ、アリサは将来何になりたいの?」
「私? そうだなあ……普通に就職して、会社員とかになるのかなあ……」
「職業じゃなくて、生き方の話」
「そんなこと急に言われても、よく分からないよ」
「ダメだよそんなの」
「ダメって……」
ルーシーは大真面目な顔で私を見つめていた。
「私ね、アリサには才能があると思うの」
「何の才能?」
「何にでもなれる才能」
「そんなわけないじゃん」
ルーシーは真面目な顔を崩さない。
「そっか……でもさ、人って死に触れる瞬間、本当の自分を露わにすると思うの。だから、一番良い死に方を選びたいと思わない?」
急に哲学的な話が始まった。ルーシーの話はいきなり話題が変わることが多かったりする。
「何それ? 中二病?」
「違うよ、観測結果だよ」
そう言って彼女はスマホの画面を見せてきた。
「何これ?」
「ダンジョン配信」
画面の向こうでは、剣を持った男が凶暴そうなモンスターと戦う様子が映し出されていた。
「私たちもこれ、やらない?」
「ええ〜……」
私はあまり乗り気じゃなかった。
探索者という生き方は知っているけど、危険と隣り合わせで、死ぬことだってあると聞いている。
「私はね、アリサが普通の生き方を選ぶなんて、面白くないと思うの。アリサみたいな才能と個性が、普通に就職して、『会社員』っていう鋳型に押し込まれちゃうなんて、もったいないよ」
「そこまで言う?」
ルーシーは無邪気に笑った。
私は苦笑いした。
結局、私はルーシーに押し切られる形で、ダンジョン配信を始めることを了承した。
それが、配信を始めるきっかけになった日だった。
……私は当時、ルーシーがどこまで本気になって考えていたのか分からなかった。
でも、今なら少し分かる気がする。
ルーシーは自らの死に様を配信して、配信者として死んだ。
ダンジョンは自由だ。
この窮屈な世界で、ダンジョンだけが自由だ。
ルーシーは、最期の瞬間に、本当の意味での自由を見つけたのかもしれない。
ルーシーの母親でさえ、ルーシーを理解できていなかった。
ルーシーを理解できるのは、私だけだ。
ルーシーはもう居ない。
でも、ルーシーの生き様は残り続ける。
彼女の言葉が、生きているかのように私を引っ張る。
私はもう逃げられない。
私が証明してやる、ルーシーが生きた世界が真実だって。
それが、彼女への手向の花だ。
私は、配信活動を再開することにした。




