第9話 葬式
健康上問題ないとのことで、私はすぐに病院を退院した。
とてもじゃないけど、配信活動を再開する気にはなれなかった。
ルーシーがいなくなった今、このチャンネルの存在意義があるかすら分からない。
もうチャンネルを閉鎖でもした方がいいんだろうかと、私は悩んでいた。
それから数日後、ルーシーの葬式が開かれ、私も友人として出席した。
雨の日だった。
喪服なんて持っていなかったから、レンタルで借りたけど、安い生地がガサガサして肌が痛い。
涙は出なかった。代わりに喉の奥が締め付けられるように冷たかった。
葬儀では、ルーシーの母親がずっと泣いていた。
ルーシーの家族については、本人から聞いていたので多少知っている。
母親は有名な女優である沢尻キョウコだ。私もテレビで何度か見たことがある。実際に見たのは今日が初めてだ。
一方で父親はイギリス人らしいけど、ルーシーが幼い頃に離婚してどこかへ消えたとかで、詳細は分からない。葬式にも来ていなかった。
ルーシーは母親のことをあまり語りたがらなかった。
ただ、数少ない記憶では「お母さんは私のことを理解してない。どうせ理解できない」と言っていたのを覚えている。
遺影のルーシーは、笑っていた。いつも通りの、無邪気な笑顔だ。
あの笑顔には、もう会えない。
改めて、ルーシーが死んだという事実が、私の中で泥のように重くのしかかった。
葬式会場は、線香の匂いがずっと漂っていた。
私はこの匂い、好きじゃない。でも、ルーシーだったらなんていうのかな。
ルーシーの好みはよく分からない。分かってあげられたらよかった。
葬儀の終わりに、ルーシーの母親から声をかけられた。
「あなた、止められなかったの……?」
母親は、肩が震えていた。
「ごめんなさい……」
それしか言葉が出なかった。
「私知らなかったのよ……あの子が探索者をやってたなんて……」
母親が知らなかったのは意外だった。ルーシーは何も家族に言わなかったのだろうか。
「あなたがダンジョンに入ろうなんて誘ったんでしょう……?」
それは違う。最初にダンジョン配信をやろうと言い出したのはルーシーだった。
私は失礼にならないよう反論した。
「い、いえ、それは違います。私がルーシーに誘われて始めたことで……」
「そんなわけないでしょう!!」
「えっ」
「あの子がダンジョンに入ろうなんて言い出すはずがないわ! 適当なこと言わないで!」
母親は激昂しはじめた。
「いや、本当のことで……」
「ふざけないで!! あなたにルーシーの何が分かるの!?」
「それは……」
「だいたい、ダンジョン配信って何よ! 人が死ぬところを配信して、頭おかしいんじゃないの!?」
「でも、ルーシーが望んだことで……」
「これ以上あの子を馬鹿にしないで! そもそもダンジョンなんてものがおかしいのよ! 私が若い頃はあんなものなかったわ! あれが出来てから、戦争は起こるし、治安は悪くなるしで散々よ!」
「……」
「聞いてるの!? おまけに、あなたみたいにおかしな子が配信なんてやり出して、どうかしてるのよ!!」
「すみません……」
「ルーシーはもう帰ってこないのよ!? どうしたらいいのよ……! もう、どうしたら……」
ルーシーの母親はさめざめと泣き出した。
私は気まずくなって、頭を下げてからその場を後にした。
葬式帰りの黒い靴が、アスファルトの上で異様に重たかった。
歩いているはずなのに、体だけが置き去りになったみたいだった。
そのとき、急に思い出した。
ルーシーが、初めて私にダンジョン配信を提案した日のことだ。




