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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魂等級ゼロ事件の真相――天界監査官ラザリアは“規格外の魂”を見つける

作者: maruhiro

前回の短編「魂等級ゼロと嘲笑された少年」の、

天界側から見た裏の出来事 になります。


主人公レンは登場しませんが、

“魂等級ゼロ”の判定がどれほど異常だったのか、

天界の監査官ラザリア視点で描いています。


※単体でも読めます。

※続編を意識した独立短編です。


 


 天界に張りつめた静寂を破るように、警鐘が鳴り響いた。


《警告。魂処理官エルド、魂契約途絶。魂核反応消失》


 白光の回廊にいた天使たちが、一斉にざわつく。


「エルドが……死んだ?」「魂核ごと? ありえない……!」


 魂処理官の死亡など四百年ぶりの異常。しかも魂核消失――ほぼ処刑クラスの致命傷だ。


 その騒ぎの中を、ひとりの女性が歩いていた。


「――静かに。混乱は判断を鈍らせるわ」


 金白の髪と冷たい金の瞳を持つ監査官。

 天界最高位の査定者、《セラフィム級》――ラザリア。


 天使たちは驚いて彼女に道を開けた。


「ラザリア様……!」


 ラザリアは警告端末を一瞥し、淡々と命じた。


「状況報告を」


 震える手で担当天使が端末を差し出す。


「え、エルドの最終業務は……下界からの通常転生処理です。

 ただ、その……処理記録が一部破損しておりまして……」


 ラザリアは指先で端末を滑らせ、最終ログを開く。


《魂名:天野蓮》

《判定:魂等級ゼロ》

《総合価値:なし》

《備考:濁り多し、再利用不可》


「……ゼロ?」


 柔らかい声なのに、空気が凍った。


「魂等級ゼロなんて、規定に存在しないわ。

 最低でも一は付与される。――説明できる?」


「そ、それが……エルド様は“残りカス”だと……」


「残りカス、ね」


 ラザリアは軽く目を伏せる。


 天界では有名だった。

 エルドは“魂査定を私物化する官吏”として悪評が絶えなかった。


・賄賂で等級操作

・美形の魂は上げる

・平凡な魂は適当に下げる

・処理が面倒な魂は無断削除

・虚偽の統計を提出して昇給を狙う


 ラザリアは以前から目を付けていた。


「虚偽申告の前科が十二件。

 勝手な魂“削除”が三十四件。

 ……想像以上に腐っていたようね」


 周囲の天使の顔色が変わる。


「三、三十四件!? そんな……!」

「魂削除は最重罪級のはず……!」


 ラザリアは端末を操作し、破損ログの裏層データにアクセスした。


《魂純度:測定不能エラー

《魔素吸収性:上限オーバー》

《魂核変換効率:300%(規定外)》


 天界の空気がびり、と震える。


「純度測定不能……?」「300%……?」


 ラザリアは静かに言った。


「これは濁りではない。“美しすぎて測れない”ときの誤差よ。

 規格外の魂……天界でもほとんど存在しない」


 担当天使が震える声で問う。


「では……なぜエルドは“ゼロ”に?」


「理由は簡単よ」


 ラザリアの瞳に冷たい光が宿る。


「――彼は、恐れたの。

 自分より“上”の才能を持つ魂を」


 残留思念には、エルドの声が微かに残っていた。


『こんな魂、高ランクにしたら俺の査定が狂うんだよ……

 規格外なんて認めねぇ。ゼロで十分だ……』


「最低ね。魂を商品か何かと勘違いしている」


 そこには悪意よりも、もっと醜く弱い“恐怖”が刻まれていた。


「……エルドの不正は、魂への憎悪ではないわ」


 神官たちがざわめく。


「彼は“規格外の魂”に怯えたの。

 正しく測れば自分の無能が露呈する。

 天界の昇進制度は“処理数と成果”だけで評価される。

 未知の値は、彼にとって“キャリアを壊す毒”だった」


「だから……等級ゼロに?」


「ええ。ゼロなら“魂側の問題”にできる。

 自分の失点にも、報告の矛盾にもならない。

 エルドは魂を見ていなかった。

 見ていたのは……自身の評価だけよ」


 場が静まり返った。


 ラザリアは続ける。


「魂がどれほど美しくても、

 天界の制度が数字だけを追えば、

 こうして歪みが生じる。

 彼はその歪みの中で……最も弱い形で沈んでいったの」


 ラザリアは踵を返し、魂処理塔へ向かった。



---


◆魂処理室・破裂痕の真相


 処理室は無惨だった。

 水晶柱は粉砕し、室内は内側から抉れたように焼け焦げている。


 補佐官が小さく呻く。


「内側から……破裂……?」


 ラザリアは手をかざし、残留映像を再生する。


 透明の魂器を、エルドが足で雑に蹴る。

 器が揺れ、魂が淡く震えた。


『見ろよ、この濁り。ゴミだな』

『こんなのに高級封印なんか必要ねぇよ。安いので十分だ』


 乱暴に掴まれる魂。

 エルドは規定外の“破壊封印”を選び、雑に魔力を叩き込んだ。


 本来なら絶対に使ってはいけない処理。


 次の瞬間――


バキィィン!!


 水晶柱が爆ぜ、眩い逆流がエルドを呑み込んだ。


『ま、待て……やめ……!

 ゼロの魂に……俺が……!?』


 悲鳴はそこで途切れた。


 ラザリアは残滓へそっと手を伸ばし、静かに言った。


「……恐怖した途端に“吸われた”のね。

 破壊封印を乱用した報いよ」



---


◆天界会議:暴かれる真実と恐怖


 天界最上層の会議場。

 十二柱の上位神が並び、中央にラザリアが立つ。


「報告を」


 最古参の神が促す。


 ラザリアは指先で空間に映像を展開しながら話す。


「エルドの死因は、魂力逆流。

 原因は彼自身の違法行為です。

 虚偽申告十二件、無断削除三十四件、破壊封印八件――」


 神々がざわつく。


「処刑案件ではないか……」

「とんでもない官吏がいたな……」


 ラザリアは淡々と続ける。


「そして――今回の対象、天野蓮の魂は

 “規格外”。天界規定では測れない純度です」


 神Aが机を叩く。


「危険だ! 即刻捕獲しろ!」


 神Bも声を荒げる。


「魂を吸い、魔素を喰らう。災厄そのもの!」


 ラザリアは静かに首を振った。


「違うわ。

 彼は“向けられた力”を反射するだけ。

 エルドが死んだのは――

 彼自身の恐怖と悪意が引き金よ」


 会議場にオラクル映像が映る。


 レンが魔獣を守り、

 リナに抱きつかれながら照れくさそうに笑う。


 その魂光は、美しく澄んでいた。


 ラザリアは言った。


「これを“災厄”と呼ぶなら、

 あなた方は何を基準に善悪を測っているのかしら?」


 神々は言葉を失う。


「次に彼へ害意を向けた者は、

 エルドと同じ末路を辿る。

 ――それだけは、覚悟しておくことね」



---


◆監査官の独白


 会議後、ラザリアはオラクルの前にひとり座っていた。


 夕暮れの村を歩く、レンとリナ。

 ほんの小さな平穏。


 ラザリアは水面に触れながら、微かに微笑んだ。


「……守りたいと思わせる魂に会えるなんて。

 何百年ぶりかしら」


 金の瞳が柔らかく揺れる。


「天野蓮。魂等級ゼロと嘲笑された少年。

 もしあなたが天界の門を叩く日が来るなら――」


 そのとき試されるのは。


「――天界の側よ」


 光が静かに閉じた。



魂処理官の死亡など四百年ぶりの異常。 しかも魂核消失――ほぼ処刑クラスの致命傷だ。


その騒ぎの中を、ひとりの女性が歩いていた。


「――静かに。混乱は判断を鈍らせるわ」


金白の髪と冷たい金の瞳を持つ監査官。

天界最高位の査定者、《セラフィム級》――ラザリア。


天使たちは驚いて彼女に道を開けた。


「ラザリア様……!」


ラザリアは警告端末を一瞥し、淡々と命じた。


「状況報告を」


震える手で担当天使が端末を差し出す。


「え、エルドの最終業務は……下界からの通常転生処理です。

ただ、その……処理記録が一部破損しておりまして……」


ラザリアは指先で端末を滑らせ、最終ログを開く。


《魂名:天野蓮》

《判定:魂等級ゼロ》

《総合価値:なし》

《備考:濁り多し、再利用不可》


「……ゼロ?」


柔らかい声なのに、空気が凍った。


「魂等級ゼロなんて、規定に存在しないわ。

最低でも一は付与される。――説明できる?」


「そ、それが……エルド様は“残りカス”だと……」


「残りカス、ね」


ラザリアは軽く目を伏せる。


天界では有名だった。

エルドは“魂査定を私物化する官吏”として悪評が絶えなかった。


・賄賂で等級操作

・美形の魂は上げる

・平凡な魂は適当に下げる

・処理が面倒な魂は無断削除

・虚偽の統計を提出して昇給を狙う


ラザリアは以前から目を付けていた。


「虚偽申告の前科が十二件。

 勝手な魂“削除”が三十四件。

 ……想像以上に腐っていたようね」


周囲の天使の顔色が変わる。


「三、三十四件!? そんな……!」


「魂削除は最重罪級のはず……!」


ラザリアは端末を操作し、破損ログの裏層データにアクセスした。


《魂純度:測定不能エラー

《魔素吸収性:上限オーバー》

《魂核変換効率:300%(規定外)》


天界の空気がびり、と震える。


「純度測定不能……?」「300%……?」


ラザリアは静かに言った。


「これは濁りではない。“美しすぎて測れない”ときの誤差よ。

規格外の魂……天界でもほとんど存在しない」


担当天使が震える声で問う。


「では……なぜエルドは“ゼロ”に?」


「理由は簡単よ」


ラザリアの瞳に冷たい光が宿る。


「――彼は、恐れたの。

 自分より“上”の才能を持つ魂を」


残留思念を解析すると、エルドの声が記録されていた。


『こんな魂、高ランクにしたら俺の査定が狂うんだよ……

 規格外なんて認めねぇ。ゼロで十分だ……』


「最低ね。魂を商品か何かと勘違いしている」

そこには悪意よりも、もっと醜く弱い“恐怖”が刻まれていた。


「……エルドの不正は、魂への憎悪ではないわ」


神官たちがざわめく。


「彼は“規格外の魂”に怯えたの。

 正しく測れば自分の無能が露呈する。

 天界の昇進制度は“処理数と成果”だけで評価される。

 未知の値は、彼にとって“キャリアを壊す毒”だった」


「だから……等級ゼロに?」


「ええ。ゼロなら“魂側の問題”にできる。

 自分の失点にも、報告の矛盾にもならない。

 エルドは魂を見ていなかった。

 見ていたのは……自身の評価だけよ」


場が静まり返った。


ラザリアは続ける。


「魂がどれほど美しくても、

 天界の制度が数字だけを追えば、

 こうして歪みが生じる。

 彼はその歪みの中で……最も弱い形で沈んでいったの」


ラザリアは踵を返し、魂処理塔へ向かった。



---


◆魂処理室・破裂痕の真相


処理室は無惨だった。

水晶柱は粉砕し、室内は内側から抉れたように焼け焦げている。


補佐官が小さく呻く。


「内側から……破裂……?」


ラザリアは手をかざし、残留映像を再生する。


透明の魂器を、エルドが足で雑に蹴る。

器が揺れ、魂が淡く震えた。


『見ろよ、この濁り。ゴミだな』

『こんなのに高級封印なんか必要ねぇよ。安いので十分だ』


魂を掴む手つきは乱暴で、器を倒しそうな勢いだ。


エルドは規定外の“破壊封印”を選び、雑に魔力を叩き込む。


本来なら絶対に使ってはいけない処理。


次の瞬間――


バキィィン!!


水晶柱が爆ぜ、眩い逆流がエルドを呑み込んだ。


『ま、待て……やめ……!

 ゼロの魂に……俺が……!?』


悲鳴はそこで途切れた。


ラザリアは残滓へそっと手を伸ばし、静かに言った。


「……恐怖した途端に“吸われた”のね。

 破壊封印を乱用した報いよ」



---


◆天界会議:暴かれる真実と恐怖


天界最上層の会議場。

十二柱の上位神が並び、中央にラザリアが立つ。


「報告を」


最古参の神が促す。


ラザリアは指先で空間に映像を展開しながら話す。


「エルドの死因は、魂力逆流。

 原因は彼自身の違法行為です。

 虚偽申告十二件、無断削除三十四件、破壊封印八件――」


神々がざわつく。


「処刑案件ではないか……」「とんでもない官吏がいたな……」


ラザリアは淡々と続ける。


「そして――今回の対象、天野蓮の魂は

 “規格外”。天界規定では測れない純度です」


神Aが机を叩く。


「危険だ! 即刻捕獲しろ!」


神Bも声を荒げる。


「魂を吸い、魔素を喰らう。災厄そのもの!」


ラザリアは静かに首を振った。


「違うわ。

 彼は“向けられた力”を反射するだけ。

 エルドが死んだのは――

 彼自身の恐怖と悪意が引き金よ」


会議場にオラクル映像が映る。


レンが魔獣を守り、

リナに抱きつかれながら照れくさそうに笑う。


その魂光は、美しく澄んでいた。


ラザリアは言った。


「これを“災厄”と呼ぶなら、

 あなた方は何を基準に善悪を測っているのかしら?」


神々は言葉を失う。


「次に彼へ害意を向けた者は、

 エルドと同じ末路を辿る。

 ――それだけは、覚悟しておくことね」



---


◆監査官の独白


会議後、ラザリアはオラクルの前にひとり座っていた。


夕暮れの村を歩く、レンとリナ。

ほんの小さな平穏。


ラザリアは水面に触れながら、微かに微笑んだ。


「……守りたいと思わせる魂に会えるなんて。

 何百年ぶりかしら」


金の瞳が柔らかく揺れる。


「天野蓮。魂等級ゼロと嘲笑された少年。

 もしあなたが天界の門を叩く日が来るなら――」


そのとき試されるのは。


「――天界の側よ」


光が静かに閉じた。



---

お読みいただきありがとうございました。


今回は、前作では描けなかった

「魂等級ゼロ事件の天界側の視点」 を短編として書きました。


天界の制度や、ラザリアの立場、

そして“規格外の魂”がどれほど異質なのか――

少しでも世界の広がりを感じていただけたら嬉しいです。


レン本人はまだ事情を知りませんが、

天界ではすでに波紋が広がり始めています。


もし続きが気になる方がいれば、

ゆっくりと物語を形にしていければと思います。


今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


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