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とある暑い日

作者: 烏龍茶

朝、風鈴の音が薄く汗ばんだ額をくすぐるように揺れていた。

蝉がまるで目覚ましの代わりかのように鳴き続けている。


机の上には書きかけの原稿。

窓を開けると、じっとりとした熱気が頬を撫でた。

空はどこまでも青く、田園の向こうが陽炎に揺れている。


喉が渇いた。

冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出して、氷を入れたグラスに注ぐ。

コロコロと氷が鳴り、冷気が顔を撫でたような気がした。

ひとくち。冷たい苦みが舌に触れ、すうっと喉に流れていく。


麦茶が身体の中に染み渡る感覚がした。

朝の楽しみ…。


扇風機の風を背中で受けながら、朝のニュースが流れる部屋にぼんやりと座っていた。

今年も異常な暑さか…。


やがて陽が高くなり、じわじわと襖を焼きはじめた頃、サンダルを履いて外へ出る。

夏の匂いが、鼻の奥まで満ちてくる。


空気が肌にまとわりつくようだ。

庭では、朝陽を浴びた茄子の葉が青く濡れている。

トマトの赤は透けるようで、手にした瞬間にひんやりとして、どこか体温を持っていた。


採れたてのきゅうりとトマトを、桶に張った氷水に放り込む。

ちゃぷんという音とともに、水面に波紋が広がる。

額を伝う汗が、あごを経てぽたぽたと落ちた。

今日も暑い。まあ暑いのは嫌いじゃないんだけど。


少しお裾分けを持って、自転車で近所へ。

道端に咲いた朝顔が、しなびながらもまだ陽射しを受け止めていた。


「あっちぃ……」


帰宅。背中がシャツに張りついている。


縁側で、氷水から引き上げたトマトをそのまま齧る。

ひやりとした皮が歯に当たり、甘い果汁がじゅわっと口いっぱいに広がった。

とろけるような瑞々しさに、少し塩をひと振り。


「……うめぇ〜……」


思わず、笑ってしまう。

夏が、口の中から広がっていくようだった。

あっという間にひとつ食べてしまう。

切ったのも好きなんだけど、この食い方がいいんだよね。

ばあちゃんも、よくこうやって食ってたな。


茄子を天ぷらにする。油の跳ねる音と、窓から流れこむ蝉の声が重なる。

軽く色づいた衣の中、茄子はふわっと蒸されて熱を閉じ込めていた。


醤油をひとたらし。

口に運ぶと、外はカリッ、中はとろり。

油と茄子の甘みが舌に絡む。


「……うめぇ〜……ほんとに。」


白米をかきこむ。

昨日作ってあった味噌汁をすすり、

この前とったきゅうりの漬物をかじる。


たらふく食って、眠気が襲う。

そのまま畳に倒れ込み、夢を見ていた。

起きると夕方の手前。風が少し涼しくなってる。


今日もいい日だった。

明日もきっと、こんなふうに。


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