メルティからの視線
「こちらの部屋です」
「は、はい」
ヨシコを客間の一つへと通すと、彼女は少し緊張した面持ちで中へ入る。
そして、すぐに感嘆の声を漏らした。
「すごい……」
どうやら、気に入ってもらえたようだ。
「必要な物があれば、後でまた教えてください。昼と夕方にまた様子を見に来ます」
「何からなにまでありがとうございます」
「いえいえ。念の為、護衛にカナンをおつけしますので、わからないことがあれば彼女に聞いてみてください」
「魔王様、私、いいんですか?」
「ボクから言っておくよ。ハナオカさんのこと、よろしくね」
「わっかりました! ハナオカさんのことは、しっかりとお守りします!」
勢いのいい敬礼をしてくれたカナンに頷いて、ヨシコにももう一度顔を向ける。
「それと、できる限り城内は歩かない方がいいでしょう。城の者にも通達しておきますが念の為です」
「わかりました」
カナンにヨシコを任せて、ボクは早足に執務室へ向かう。
その後、異世界人であることは伏せて、迷い込んだヨシコのことを保護して客人とした旨を家臣全員に通達。
料理主任たちにもヨシコの分の料理を作ってもらうよう指示を出して執務室に戻り、自分の仕事に取り掛かる。
魔王としては認められていなくても、表面上、業務上は皆、指示や命令に従ってくれる。
それに、ボクの魔力をヨシコに付与しているから、万が一にも彼女に危害を加えようとする者はいないだろう。
ボクの魔力が、彼女を客人として証明し、そして彼女に害する者へ情け容赦ないオートカウンターとして発動する。
これで一安心だ、と思っていると、先に仕事を始めていたメルティから視線を感じた。
何だろ、書類を手際よく片付けているのに、意識がボクの方へ向けられている。
それも露骨に、気づけといわんばかりに。
「どうしたのかな?」
耐えられなくなって尋ねると、メルティは書類から顔を上げた。
「魔王様、例の客人のことです」
「ハナオカさんのことだね」
「はい。突然、魔法で遠方より飛ばされてきた、と伺っておりますが、ヒューマンの国に預けては如何ですか? ワイバーンで駅伝すれば、半日もかからないでしょう」
「ハナオカさんは近隣のヒューマンたちとは言葉が通じないんだ。ボクたちや妖精は魔力で思念伝達できるだけで、それ以外の人たちは皆、ハナオカさんと言語による意思疎通ができない」
魔族はもちろん、妖精族は、体の外に溢れ出すくらいの膨大な魔力を持っている。
その魔力を通して、全く違う言語を扱う人種であっても、意思疎通が可能になる。
お互いの声が相手のわかる言語になって認識されるのだ。
ただし、文字には適応されないから、そちらは別途学習する必要があるけれど。
「それに、ボクたちも知らない、遥か遠くの国から来て、心細さも感じていた。カナンがすぐ仲良くなったし、ここで保護している方が、彼女も安心できるだろう?」
「それはそうですが、わざわざゲストとして迎え入れる必要がありますか?」
彼女の言動にちょくちょくトゲを感じる。
迷い込んだ者を助けて城で保護したとしても、わざわざ貴賓用の部屋に通す必要はないって言いたいのだろう。
ヨシコの部屋は、来賓の部屋としては上位のものだ。
「彼女の衣服は見たこともない素材でできていた。もし他国のやんごとなき方々の血縁者や知人だったりしたら、対応を間違えるだけで今後、もしかしたら困ったことになるかもしれないからね」
「間者の可能性はないのですね」
「ないね」
断言してあげると、メルティは、
「左様でしたか。出過ぎた発言でした。お許しください」
と無感情に言った。
彼女のいうことも正論だし、別に謝られることはない。
「ううん。貴重な意見、ありがとう」
返事をすると、メルティは小さくお辞儀してから、仕事に戻った。




