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裏技的なもの

 まずは、ダンジョンについて簡単な説明をヨシコにした。


 ダンジョンは、元々地下牢を指していた言葉らしい。

 らしい、というのは、田舎に居た頃に、図書館で読んだ歴史本の中に、そう書かれていたからだ。


 最も、現代でダンジョンと言えば、魔獣が徘徊し、ダンジョンマスターと呼ばれる主が最奥に鎮座する、危険な迷宮のことを指す。


 洞窟や森などの自然の中、時には人里の近くに突如として現れ、人々や近くの生態系に脅威を撒き散らす存在。


 同時に、冒険者や腕に覚えのある者が挑み、名誉や財宝を手に入れられる、九十九害あって一利(いちり)だけある、そんな場所。

 いや、九割九分九厘の害と一厘の利か。

 ともかく、それくらい危険極まりない場所というわけだ。


 最も、ボクたち魔族にとっては、さほどの脅威じゃない。

 小さな子どもならいざしらず、ある程度の年齢になって、魔力や魔法の扱いができるようになった魔族にとって、ダンジョンは少し刺激のもらえる遊び場だ。


 大人なら二人から、十代半ばの学生なら三人からダンジョンに潜ることができて、程よい運動とストレス解消ができるうえに、小遣い稼ぎができる場所として、人気がある。

 もちろん、危ないから、まずは出現地域の市町村の警備隊や軍が出動して中の様子を確認してから、になるけれど。


 そして、皆が暴れてスッキリした後、奥にいるダンジョンマスターを倒しせば、そのダンジョンは驚異的な面の機能を失い、魔獣たちも出現しなくなる。

 後は、残された迷宮を、魔法で消し飛ばして、あー楽しかったね、と言い合って、終了。


 それが、ボクたち魔族にとってのダンジョンだ。




 そんな説明をしたら、ヨシコが微妙そうな表情になり、何故かカナンまで頬を引くつかせていた。


 ヨシコはわかるけれど、カナンは何でドン引きしてるのかな?


「魔王様、私たち魔族でも、ダンジョンは警備隊か駐屯している軍人さんたちに任せていますよ?」

「えっ?! あ、そうか、カナンのいた地域ではそうだったのかな?」

「いえ、他のところでも同じだと思います。他国も同じです」

「……ボクのいた田舎や近くの街じゃ、そうだったんだけれど」


 あれ、おかしいな……。

 父さんや叔父さん叔母さん夫婦に従姉や級友、皆して、ダンジョンが出現したって聞いたら、何時行くとか、早く仕事終わらさなきゃとか、チケット買わなきゃとか、ウキウキワクワクしながら話していたのに。


 かく言うボクも、ダンジョンが出現したって聞いたら、休日を一日使って目一杯楽しんでいた物なのに。


 そうやって言えば言うほど、二人との心の距離がちょっとずつ空いていく気がした。


「……ひとまず、話をもとに戻しましょうか」

「はい」

「そうですね」


 場の空気を変えるために、お茶を一口飲んでから、本題に戻った。


「このダンジョンは、ダンジョンマスターを倒せば、魔獣も出現しなくなり、迷宮という環境だけが残ります。先程も説明した通り、魔法で取り除くことができますが、時々そのまま残すケースもあります」

「どうして残すんでしょうか」

「例えば、ダンジョン研究のためですね。ダンジョンは未解明な部分が多くて、ダンジョンマスターが倒された後の環境からでも、わかることがたくさんあるそうなんです。毎年二桁以上の新発見があって、専用の雑誌にまとめあげられるくらいです」

「へぇ」


 ヨシコは興味を持ったのか、少しだけ目を輝かせた。

 そんなヨシコに、カナンが話しかけた。


「後で読みます?」

「え?」

「私、定期購読しているんです!」

「えぇと」


 ちらっとこちらをヨシコが見てきたので、頷いて上げた。

 同性で、年が割と近くて、コミュニケーション能力も高いカナンと仲良くなれば、ヨシコも戻るまでの間、少しは気楽に過ごせるかもしれない。


 カナンの方も、ヨシコのことを気に入っているようだし。


「それじゃあ、お願いします」

「えへへ。あ、魔王様、ごめんなさい!」

「ううん。いいよ。ボクもたまに図書館で読んでいたからね。じゃあ、続きを話そうか」


 もう一度、お茶に口を付けて、喉を湿らせた。


「ダンジョンを残す理由は色々とありますが、その一つに、訓練施設としての使用、という物があります。これは、ダンジョンを残す理由として、研究と並んで大きなものです」

「ダンジョン対策のため、ですか?」

「ええ。警備隊や軍が、新しいダンジョンが出現した時の行動や、他にも未開の場所での作戦も想定した訓練を行うのに、ダンジョンはうってつけの場所です」


 ダンジョンは、物質的な建築物としての側面と、魔力的な存在としての側面を併せ持つ。

 それはさながら、魔族の多くが、溢れ出た魔力を角や羽や尻尾などに換えているかのように、ダンジョンもまた、内部の構造物を魔力で変化させているらしい。


 内部では、宙に浮かぶ足場や、逆方向に流れる大瀑布などといった、超自然的な存在を見ることができる。

 そのダンジョンを生み出した存在の好む環境、または生まれた場所の再現だと言われている。


 そういった特殊な環境は、魔族なら魔法で生み出せないこともないけど、疲れるし面倒だし、という理由で、最初からこの環境が用意されているダンジョンを活用している訳だ。


「長々と説明しましたが、これがダンジョンという場所、そこを活用する理由についてです」

「ありがとうございます。ですが、今の話と、私を元の世界に戻す方法に、どのような繋がりがあるのでしょうか?」

「ええ、今までの話は、これからする話の大前提として、聞いておいてもらいたかったものです。ここからが、本題なのです」


 ボクは少しだけ前のめりになって、二人に、核心を話すと言外に伝える。

 二人も、また姿勢を正して、聞く姿勢に入った。


「ダンジョンマスターを倒した後、ダンジョンは機能を失います。魔獣が発生しなくなるというのが、最もな例です。ですが、新しいダンジョンマスターが現れれば、ダンジョンはその機能を取り戻します」

「え?」

「本当ですかっ?!」

「うん、本当だよ」


 まあ、裏技的なものだけどね。

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