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元の世界に戻す方法

 ヨシコを客間の一つに招き入れ、ソファに座ってもらった。

 僕もその対面に座る。

 カナンにはティーセットをカートに乗せて持ってきてもらい、ヨシコの前に置いてもらった。


 ヨシコは、不安そうにしながらも、城や部屋の中を見回している。

 好奇心と物珍しさみたいなものが少し感じられて、やっぱり肝が座っているなと再認識できた。


「さて、ハナオカさん。改めて、貴女の事情をお伺いしましょう」

「えぇと、改めまして、ハナオカヨシコです。ヨシコが名前で、ハナオカが苗字です。年齢は二十五歳です」

「えっ」


 声を漏らしたカナンが、口元に手を当ててた。


「ご、ごめんなさい! 私よりも年下って思ってて」

「いえ、その、大丈夫です!」

「カナン、僕の隣に座って」


 ひとまず、カナンには隣に座ってもらい、ヨシコに話の続きを促した。


「ニホンという国で生まれ育ちました。今は、会社員をしています」

「聞いたことのない国名ですね」


 カナンが首を傾げてるけど、さもありなん。

 この世界に、ニホンという名前の国はない。

 一応、噂では東の果てに、ヤマトという国があるらしいけど、それはさておき。


 ボクはヨシコを安心させるように意識しながら頷いた。


「ありがとうございます。ニホンというのは、こういう字を書くのではないですか?」


 指先から魔法の光を出して、空中に『日本』という文字を書いた。

 すると、ヨシコの反応は劇的だった。


「日本を知っているんですか?!」

「昔、ボクの知り合いに、ニホンから来た人がいたんです」

「あの、その人は今、どちらにいらっしゃるんですか?」

「元の世界に戻りました」


 そう告げると、ヨシコは目を丸くした後、大きく安堵の息を吐いた。

 どうやら、戻れると聞いて安心したようだ。


「良かったぁぁぁぁ……」


 涙まで浮かべて喜ぶヨシコを、カナンは「よかったですねー」と無邪気に喜んで見守ってる。


 今、彼女に話したことは全部本当だ。

 けど、ヨシコをニホンに送り返すためには、それなりの魔力が必要となる。


 それを話さないといけない。

 希望を与えた後で、不安にさせるのは心苦しいけど、隠したままにしておくのは論外だ。


「ただし」


 できるだけ穏やかに、静かに言ったつもりだけど、ヨシコもカナンもピタッと動きを止めた後、ボクを見てきた。


「ハナオカさんをニホンに戻すためには、それなりの量の魔力が必要です」

「あれ、それなら魔王様の魔力でちょちょいのちょいじゃないですか?」

「それができればよかったんだけれどね」


 残念なことに、ボクの魔力量じゃ、異世界へ続く入口そのものを開けられたとしても、ニホンへ続く道は作れない。見た目だけの穴が出来上がるだけだ。


「歴代魔王でもできた者は数名。それも、複数名の魔王、または数多くの臣下の手助けがあってこそ成し遂げられたものだと、聞いている」

「あれ、じゃあ……」


 カナンが顔を青ざめさせたのを見て、ヨシコは首を傾げていた。

 どうやら、ヨシコはボクがさっき自己紹介で言ったことを忘れてしまっているらしい。

 無理もないか。戻れるって希望が見つけられて浮かれているのに、思い出せというのは酷か。


「あの、アーキマン様は、魔王様、なんですよね」

「ハナオカさん、確かにボクは魔王ですけれど、歴代最弱で、カナンを含めた一部の者にしか、魔王として認められていないんです」

「……あの、それってつまり」


 ヨシコの顔も、カナンと同じ色になった。

 うん、そうなんだよ。

 君をニホンに戻すための魔力が、そもそも確保できないんだ。


「魔王様の命令で……というのは」

「確かに、魔王として命令はできますけれど、ボクの場合、それはちゃんとした理由と、緊急性があってこそ成り立ちます。無礼千万を承知で言いますが、見ず知らずのヒューマン……ハナオカさんのような、いわゆる『人間』という人種を故郷に帰すために、ボクの命令を聞いてくれる魔族はいないんです。同様に、他国の魔王からも、協力は得られないでしょう」


 安堵の絶頂から、絶望へと叩き落されたヨシコが、息をつまらせて、顔を伏せた。


 ヨシコのことは、気の毒に思う。

 少し話しただけだけれど、彼女は悪い人間じゃない。

 善良な普通の人間だ。


 突然、見ず知らずの場所に飛ばされて、不安で不安でしょうがないのに、ボクやカナンを信じてくれた。


 彼女のことは本当に気に毒に思うし、魔王としても、個人としても、ニホンに帰してあげたいと思っている。


 でも、ボクにはそれだけの力はない。

 カナンや料理主任たちが力を貸してくれても。


 けれど、あの人なら、こういう時、笑顔でどうにかするんだろう。

 ちょっと大人ぶった子猫を肩に乗せた彼女なら、ヨシコを元気づけ、元の世界に戻してあげるに違いない。


 なら、それができないボクができること、やれることを精一杯して、ヨシコを元の世界に戻してあげる。


 それが、あの人への、ボクなりの恩返しだ。


「でも、方法がないわけじゃありません」


 ヨシコが顔を上げる。

 涙がきらめいた茶褐色の瞳が綺麗だな、と場違いにも考えてしまいながら、今度こそ、彼女に希望の言葉を告げる。


「ボクたちだけで、ハナオカさんを元の世界に戻す方法が一つあります」

「本当、ですか?」


 希望が失われることを恐れるヨシコに、ボクは心の底から大丈夫だと頷く。


「魔王様、私たちだけでハナオカさんを元の世界に戻せるんですか?」

「うん」

「一体、どのような方法で……?」


 ヨシコとカナンが、期待と不安をないまぜにした表情で、ごくりとつばを飲み込んだ。


「ダンジョンを運営するのさ」

アーネスト様のいる世界には、

・ヒューマン(いわゆる人間種)、獣人、エルフ、妖精、竜人、魔族(アーネストやカナンたちの種族)などがいて、まとめて人類や人間と呼ばれています。

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