歴代最弱の魔王
新作です。よろしくお願い致します。
五時の鐘が鳴った途端、メルティが仕事机の上を片付け始めた。
流れるような手つきで書類やら筆記用具やらを所定の位置にしまうと、椅子から立ち上がった。
「本日はこれで失礼いたします」
「あ、うん。お疲れ様でした」
挨拶し終えると、メルティは椅子をちゃんと戻してから、執務室を出ていった。
制服を着こなし、しゃんと背筋を伸ばして歩く後ろ姿はカッコいい。
残された僕は、斜陽が差す部屋の中で、自分の仕事に意識を戻した。
今日も残業だな。
いや、立場上、残業なんて存在しないも同然なんだけどさ。
「さて、早く終わらせないと」
六時までには終わるだろうから、終わったら夕飯作らないと。
とんなことを考えていると、ドアがノックされた。
ノックの強弱、感覚、ドアの向こうの息遣い、そして魔力から、誰が来たのかすぐにわかる。
「どうぞ」
「失礼します」
一言断って入室してきたのは、カナンだった。
しかも、ティーポットとカップを乗せたカートを押して。
「お疲れ様です! お茶を用意したんですけど、如何ですか?」
「ああ、ちょうど小休憩を入れようと思っていたんだ。ありがとう」
まあ、終わりの目処は立っているし、十五分くらいなら、休んでもいいかもしれない。
決して、終わりが見えたから気を抜いてる訳じゃない。
「メルティさんは帰っちゃったんですか?」
「うん。今日もしっかり仕事を終わらせてね」
お茶の入ったカップとソーサーを受け取り、紅茶の香りを楽しんでから、少し冷まして、口を付けた。
ううん、今日も美味しい。
「ありがとう、カナン」
「いえいえ。魔王様、頑張っていますから!」
「まあ、頑張らないといけないからねぇ」
苦笑しながら、またカップを口に運ぶ。
そう、ボクは魔王。
この魔族国の一つ、オーガストの王様だ。
だから、残業が残業にならないし、休日もあってないような物だ。
三百六十五日フル稼働。
睡眠時間を七時間は確保したくて、必死こいて頑張っている。
それが、ボク、アーネスト・アーキマンという、歴代最弱の魔王だ。
ありがとうございます。
基本ほのぼのとした雰囲気で進むと思います。残酷描写は念の為につけています。
この後、一時間後に二話、さらに一時間後に三話を投稿していきます。
よろしくお願い致します。