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第七話 新天地へ

「や、やっと到着した!」


 家を出てから一週間もかかっちゃったけど、あたしは無事に目的地であるサジェスの町へと到着した。

 大きな図書館がある町として有名だからか、町には白衣を着た学者風な人や、いかにも魔法使いですって格好をした人が多く歩いている。


「馬車を乗り間違えちゃったり、船酔いのせいで一日潰れちゃったり、色々大変だったけど、無事に到着できて本当に良かった~!」


 さて、喜んでばかりもいられないよね。ここで生活するために、住む所と仕事場を探さないと!


「う~ん、お金はまだ残ってるから、住む所は大丈夫そうだし……お仕事を探す所から始めようかな!」


 仕事を探すなら、やっぱりギルドに行くのが一番早いよね。

 ギルドというのは、簡単に言えばお仕事を紹介してくれる、仲介人みたいなことをしてくれる団体のことだよ。


「って、ギルドはどこにあるんだろう……?」


 全く土地勘がないうえに、前世では自由に外に行くことは禁止され、転生してからも、こんなふうに出歩いたことがないから、どうやって目的の建物を探せばいいか、全くわからない……。


「誰かに聞いた方が早いかも? あ、すみません! ギルドに行きたいんですけど、どこにありますか?」

「ギルドですか? あそこに時計台が見えますか? あの建物がギルドですよ」

「あそこですね、ありがとうございます!」


 もう貴族のご令嬢じゃなくなったのをいいことに、少し砕けた感じで学者風の男性に話しかけると、無事にギルドの場所を教えてもらえた。


 あの時計塔、似たような形のを前の世界でも見たことある気がするなぁ。確か外国の有名な……まあいいや、早く行こうっと!



 ****



「えっと、ここがギルドで教えてもらったお店かな……」


 ギルドに無事に到着した後、良い感じのお仕事を紹介してもらえたあたしは、ギルドの職員から教えてもらった場所へと到着した。


 おかしい……ギルドの職員は、歩いて一時間くらいの場所だって教えてもらったのに……数時間は彷徨っていた気がする……もう日が暮れてるし……あたしって、想像以上に方向音痴だったのかも……?


「確か、アルホって名前の酒場だったよね。うん、お店の看板にもアルホって書いてあるし……間違いない!」


 さっそく中に入ってみると、西部劇の映画なんかに出てきそうな、いかにも酒場ですって雰囲気の内装だった。


 屋敷とかパーティー会場は、記憶が戻る前から見てきたから思わなかったけど、酒場なんて来たことがなかったからかな? 自分が物語の世界に飛び込んだみたいで、ちょっとテンションが上がる。

 二人にも見せてあげたら、きっと喜んでくれただろうなぁ。


「あれまぁ、随分と可愛らしいお客だこと。お一人様かい?」

「あ、いえ! ギルドの紹介で、面接に来ました!」


 まだお客さんが一人しかいない酒場のホールに立っていた、腰が曲がった女性があたしに話しかけてきた。

 もしかして、この人がこの酒場のマスターなのかな? あれ、でもギルドで聞いた代表者の名前は、男性っぽかったような?


「面接? まさかこんなに早く来てくれるなんて! 私はこの店の女将をしてる、リシューだよ。おーいあんたぁ! 可愛らしい女の子が面接に来てくれたよぉ!」

「…………」


 とても張りのある大きな声に反応して、一人の男性があたしの前に現れた。

 それはいいんだけど……あたしはその人を前にして、思わずその場で固まってしまった。


 ボディビルダーでもやってるんじゃないかって思うくらいの、ムキムキで傷だらけな体、産毛の一本も生えて無さそうな頭に、睨んだだけで人を殺せるんじゃないかってくらい鋭い目――端的に言っちゃうと、すっごく怖い風貌だ。


 こんな人と道端で会ったら、絶対に道を譲っちゃうやつだって!


「……よく、来たな……俺がこの店のマスターのイヴァンだ」

「あ、あわわわわ……」

「ちょっとあんた! そんな無表情で立ってるから、この子怯えてるじゃないか! そんなんだから、何人も面接の前に逃げられてるんだよ!」

「そうか……すまなかった……にっこり」

「ひぃぃぃぃぃ……」


 む、無表情も怖いけど、笑顔がぎこちなさすぎて、これはこれで怖い!


「お嬢ちゃん、旦那は見た目こそ危ない人間だけど、悪い人間じゃないし、ここも普通の酒場だから安心しておくれ。面接は店の奥でするから、旦那についていってくれるかい?」

「わ、わかりました!」


 怖いけど、この店の求人はかなり魅力的だったから、逃げるわけにもいかない。

 ちなみに求人内容は、接客業で即日採用あり、住み込みで働けるという触れ込みで、今のあたしにピッタリの内容だったんだ。


「…………」

「……あの人……なんであたしを見てるんだろう……」


 店の奥に行く前に、誰かの視線を感じた。その方向を見ると、唯一来ていたお客さんの男性が、あたしのことをじっくりと見ていた。


 座っているから確かじゃないけど、多分あたしよりも背が高そうな男性は、黄金に輝く金色の髪と、雲一つない青空にも負けないくらい、綺麗な青い瞳が特徴的だ。


 ……すごい……顔のパーツの一つ一つが整いすぎてて、美形なんて言葉では言い表せないくらい、綺麗な人だなぁ……。


 でも、あの人……どこかで見たことがあるような気がするんだけど、気のせいかな?


「って、イヴァン様……じゃなかった。イヴァンさんを待たせてるんだから、早く行かないと!」

「……あれは……どうしてここに……? 他人の空似か……?」


 平民の間で様付けは少し違和感があると思い、言い直しながら店の奥へと向かう。


 ――美形の男性が、なにかボソッと呟いていたみたいだけど、急いでいたあたしの耳に、その言葉は届かなかった。

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