エピローグ
「もう、アラン様ってば! あたしが外出している間に、また部屋をこんなに散らかして!」
療養も無事に終わり、いつもの日常に戻ってから一年。あたしは今日もアラン様の専属の使用人として、研究の助手として……そして、アラン様のお嫁さんとして、アラン様のことを叱っていた。
「研究が思った以上に捗ってしまったものでな」
「もう、これからお昼ごはんなのに、こんなに散らかってたら、落ち付いて食べられませんよ!」
「なら、君の部屋でいただこう」
「あたしの部屋ですか? 構いませんけど……食堂で食べればよくないですか?」
「無駄に広い食堂よりも、君の熱が感じられる小さい部屋の方が、居心地が良い」
「なるほど。それなら一緒に行きましょう」
あたしはアラン様と手を繋いで部屋を出ていき、もう一つの建物にあるあたしの部屋に向かう。中では、シロちゃんがベッドの上で気持ちよさそうに丸くなっていた。
『ふぁ~……あれ、ミシェルにアラン? どうしたんだ?』
「アラン様が部屋を散らかしちゃったから、こっちでごはんを食べることになったの」
『またかよ! アランはいい加減、住処を散らかさないことを覚えた方が良いぞ!』
「アラン様、シロちゃんにも散らかすなって怒られてますよ」
「そうか。善処する」
『全く信用できないぞ』
辛辣なシロちゃんが面白くて、クスクスと笑っていると、使用人が部屋の中にお昼ごはんを運んできてくれた。
いつもはあたしも一緒に食事の用意をするんだけど、今日は大切な用事があったから、コックの人に栄養のあるおいしい食事の用意をお願いしたんだ。
「うん……このスープに入っている野菜、トロトロで歯が全く必要ないな。とてもうまい。ミシェルも食べてみるといい。ほら」
「アラン様、あたしの分にも入ってるんで、わざわざ自分の分を差し出さなくても大丈夫ですよ」
「俺が君に食べさせたいんだ」
「で、では……あーん」
少しだけ身を乗り出して、アラン様に差し出されたスプーンを咥える。アラン様の言う通り、口に入れた瞬間に溶けると同時に、優しい甘みが広がってきて、とってもおいしい。
このスープの出来が良いのもあるとおもうけど、アラン様にあーんをしてもらったから、よりおいしいのかもしれない。
――実は、最近は互いにこうやってあーんをすることが、結構増えている。
もともと、この世界には恋人同士とはいえ、こうやってあーんをする文化は無い。
なら、なぜあたし達はあーんをしているのか。それは、アラン様に恋人として何かしたいことはないかと聞かれた時に、あーんをしてみたいと言ったからだ。
前世で読んだ漫画には、度々男女があーんをする場面が出てきたから、ちょっと憧れてたのもあって、提案したんだけど……あたしよりもアラン様の方が気にいってしまい、現在に至っている。
「こっちのお肉もおいしいですよ。はい、どうぞ」
「もぐもぐ……こっちもうまいな。パンも外はカリカリだが、中はフワッとしていて美味だ。ほら」
「あーん」
なんだかとても非効率的な食べ方をしてるなーと思うけど、恋人なんだからこれくらい良いよね。
……たまに使用人やシロちゃんから、またやってるよ……みたいな感じの視線を向けられてる気がするけど……なんなら、今シロちゃんに思われてる気がするけど……気にしない気にしない!
「そういえば、珍しく俺に理由も言わないで外出していたが、なにかあったのか?」
「大切な用事がありまして」
「大切な?」
「これを見てください」
あたしは席を立つと、机の引き出しから一枚の書類を取り出し、アラン様に手渡した。
本当は、アラン様の部屋でごはんを食べてから、一度取りに来ようと思ってたんだけど、手間が省けたね。
「これは……病院の診断表? ミシェル、どこか具合でも悪いのか!?」
「もう、早とちりしないで、ちゃんと内容を見てください」
いつも冷静なアラン様とは思えないくらい、慌てながら書類に目を通す。すると、その目はどんどんと丸くなっていき……次第に書類から、あたしに視線が移った。
「……俺の目がおかしくなったのか? それともこれは夢か? 夢なら、このまま永遠に覚めないでくれ……!」
「おかしくなっていませんし、夢でもありませんよ」
アラン様が驚くのも無理はない。だって……アラン様に渡したその書類には、あたしのお腹に赤ちゃんがいることを証明する書類なのだから。
「なんかちょっと変だなって思って、今朝診てもらったら、おめでただって言われました。それも、どうやら双子みたいで!」
「そうか……俺達が親になるのか……そうか!」
まだ食事中なのにもかかわらず、アラン様は勢いよく立ち上がる、あたしのことを優しく抱きしめてくれた。
『ミシェル、子供が出来たのか!? おめでとうだぞ!』
「ありがとう、シロちゃん」
「……ありがとう、ミシェル。俺達の宝物を宿してくれて……!」
「あたしの方こそ、ありがとうございます。アラン様のおかげで、あたし……凄く幸せになれました」
あたしはアラン様の背中に手を回し、二度と離さないように力強く抱きしめ返す。
自分が子供を身ごもるなんて、全く想像もしてなかったけど……いざそれが本当になると、こんなに嬉しくて幸せになれるんだね。
「よし、そうと決まれば準備をしなくではいけないな。服と家具とおもちゃと……あと離乳食の準備もしておいた方が良いか?」
「さすがに気が早すぎですよ! 男の子か女の子はわかってないんですよ!」
「それなら、どっちでも良いようにしておけばいい! さあ、今から行くぞ!」
「まだごはんの途中ですよ!? あ、アラン様ってば~!」
あたしの静止する声なんて一切聞こえていないと言わんばかりに、子供のように目を輝かせたアラン様に手を引かれて、あたしは部屋を後にする。
――あたしの人生の大半は、ずっと大変でつらくて悲しいこともあったけど、アラン様をはじめ、沢山の人に支えてもらった。
おかげで大切な家族ときちんとお別れが出来たし、とっても幸せな人生を送れるようになった。
アラン様、そしてみんな……本当にありがとうございます。これからも、アラン様と一緒に幸せな未来に向かって、歩んでいきます!




