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第五十七話 念願叶って

「……あれ、ここは!?」


 光が収まり、普通に景色が見られるようになると、そこはあたしがよく使っていた電車の駅の前だった。


「戻ってきた……物も触れるから、幻じゃない……帰ってきたんだ……!」


 アラン様がたくさん頑張ってくれたおかげで、あたしは前の世界に帰って来れた。その喜びは、言葉などでは言い表せない。

 その代わりに、あたしは周りの目などお構いなしに、その場でピョンピョンと飛び跳ねて、喜びを全身で表現した。


「って、大声出してたら変な人に見られる……あれ?」


 ちょうど街頭テレビで夕方のニュースが始まってたから、時間は十六時くらいかな? この駅はかなり大きいということもあり、当然周りには多くの人が行き交っている。

 そんな中で、一人で大はしゃぎしていたら、見られてもおかしくないのに……誰もあたしを見なかった。


 いや、違う。見ないというより、そもそもあたしに気づいていないような……そんな感じだ。


「……あのー」

「…………」

「すみません……」

「…………」


 試しに何人かの通行人に声をかけてみたけど、反応はゼロ。ならばと思い、目の前で大きく手を振ってみたけど、これも反応ゼロ。

 まさか……これって、あたしの姿が見えてない? それに、声も聞こえてない?


「そんな……これじゃあ、二人に会えたとしても、気づいてもらえないし、話すことも出来ない……ううん、元気かどうかの確認だけでも……! とりあえずあたしの家に行ってみよう。二人がまだ住んでるかもしれないし、いなくても何かあるかもしれない!」


 そうと決まれば、早く家に帰らないと……って、まさか二人だけで住んでるなんてことは……ないよね?





『――次のニュースです。先日都内の高層マンションで発生した火事について、警察は放火と殺人の容疑で、無職の男を逮捕したと発表しました。調べによりますと、男は同居していた、恋人の椎名美冬さんを包丁で複数回刺して殺害し、自宅に火をつけたとのことです。男は、彼女が複数の金持ちの男と関係を持っていたと知って、カッとなって殺したと、容疑を認めているようです――』



 ****



 あたしは懐かしさを感じながら、駆け足で閑静な住宅街を走り抜けると、小さなアパートが姿を現した。


 時間的には、そんなに経ってないのかな? この辺りは、あたしが知っている外観と変わらない。ガラッと変わって迷子になるよりかは、全然良いけどね。


「よかった、アパートは残ってた。表札は……椎名のまま? いつか、悠と芽衣がここで住むために、残してるのかな……でも、一体誰が……それに、ここに来たのはいいけど、どうやって入ろう?」


 家には当然鍵がかかっている。ポストの上に隠してあった鍵も無いし……今のあたしでは、誰かに助けを求めることも出来ない。


「こうなったら、実力行使だよ!」


 あたしは建物の裏に回り込み、ひいひい言いながら二階のベランダに登ると、拾った石で窓ガラスの一部を割り、鍵を開けた。

 不幸中の幸いにも、ここの建物は古いからなのか、防犯システムがゆるい。だから、この程度じゃブザーが鳴ったりはしない。


「よし、入れた」


 無事に窓から中に入ると、そこにはとても懐かしい部屋が広がっていた。定期的に手入れがされているようで、埃は全く被っていない。

 あの頃とほとんど変わってないな……ここで過ごした日々は、大変なことばかりだったけど、二人とここで過ごした時間は、かけがえのない宝物だ。


「……あれ?」


 部屋の中で手がかりを探していると、留守電が入っていることに気が付いた。日にちは……え、去年!?


「あたしが向こうで過ごした時間と、ズレが起きてる? もしかして、ここと向こうの世界だと、時間の流れ方が違う……? と、とりあえず聞いてみよう」

『――もしもし、悠くんに芽衣ちゃん、いないのかい? 荷物はちゃんとまとめられたかい? 忘れ物をしてもすぐには戻ってこれないから――なんだい爺さんや。え、家じゃなくて保護をしている施設に電話しろって? ああ、確かにそうですね――』


 留守電はそこで止まってしまった。

 この声……間違いない。二人は、九州に住んでいる、あたしのおばあちゃんに引き取られたんだ!


 たまに遊びに行った時は、あたしのことをとっても可愛がってくれたおじいちゃんとおばあちゃん。ずっとつらい生活を送ってきたあたしにとって、お正月に二人の家に行くのが、とっても楽しみだったの。


 そんな優しい二人が、悠と芽衣を引き取ってくれたんだね……感謝してもしきれないよ。


「……そもそも、どうしてママが引き取らないんだろう……どれだけ自分勝手なの……って、恨み言を言っても仕方ないよね。九州の家なら知ってるし……よし、早く行こう、アラン様! シロちゃ――あっ」


 いつものように、二人の名前を呼んじゃった。ここには二人はいないのに……あたしったら、どれだけアラン様とシロちゃんに頼り切ってたんだろう。


「今はあたし一人なんだから、あたしだけで頑張らなきゃ」


 改めて気合を入れ直してから、あたしは九州に向けて出発した。


 待っててね、今すぐにお姉ちゃんが会いに行くから――

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