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第五十三話 ミシェル覚醒

 突然あたしの足元に現れた魔法陣から発せられる光は、瞬く間に強くなって部屋の中を覆った。


 一体何が始まったのか、あたし達はどうなったのか。確認をしようにも、辺りが明るすぎて目が開けられず、確認のしようがない。


「ミシェル!」

「アラン様!」


 眩い光の中、あたし達は互いの名を呼びながら、互いを守るように抱きしめ合う。そんなあたし達を、モフモフしたものが包み込んだ。


 何があっても、絶対にアラン様から離れてやるもんですか。あたしの力なんてたかが知れてるけど、アラン様の盾になるくらいは出来るんだから!


『ひ、光が収まったぞ!』

「本当?」


 シロちゃんの言葉を信じて目を開けるが、シロちゃんの大きな尻尾があたし達を守ってくれていたおかげで、周りの状況がなにもわからない。

 それはシロちゃんもわかってくれたみたいで、へへっと笑いながら尻尾を退かしてくれた。


 ……見た感じは何も変わっていないように見えるけど……本当に今のはなんだったの?


「まったく無駄なあがきを。さあ、今度こそ奴らに終止符を打て!」

「今度こそ来る。ミシェル、悪く思わないでくれ」


 もう争うことは避けられない……そう思い、これから起こるであろうつらい現実に覚悟を決めようとしていたら、想定外のことが起きた。


「どうした、なぜ止まっている!?」


 スィヤンフィが驚くのも無理はない。何故なら、さっきまで自分が操っていた動物や植物達が、その場で足を止めていたからだ。


 それだけじゃない。さっきまで魔法で操られていた動物達の中には、辺りをキョロキョロ見たり、その場で毛づくろいをしたりする子もいた。


 あたしの目には、動物らしいその行動は、スィヤンフィに操られているものとは思えない。


「どうした、早く奴らを始末しろ!」


 スィヤンフィがいくら叫んでも、動物も植物も彼のいうことを聞かない。それどころか、唸り声を上げて威嚇する子が現れる始末だ。


「ど、どういうこと? スィヤンフィがあたし達を騙そうとして、言葉とは違う指示を出してるの?」

「いや、恐らく嘘ではない。先程の光が発生と共に、この部屋に充満した独特な魔力には、覚えがある」

「独特……?」

「君の魔力だ。極めて稀な例だが、魔法というのは何かのきっかけで覚醒し、強い力を得ることがある。これはあくまで推測だが、君が彼らを助けたいという強い気持ちが、動物や植物と気持ちを通わす魔法が覚醒し、彼らにかけられていた魔法を解除したのかもしれない」


 そういえば、確かにそんなことが書かれている本を、まだ家のために素直に頑張っていた頃に読んだことがある。

 自分みたいな魔法の才能が低い人間には関係ない話だと思って、読み流していたのに……まさか自分がその覚醒者になるなんて!


「スィヤンフィ、これで形勢は逆転しました! 大人しく諦めて、お縄についてください!」

「っ……!!」

「ちょっと、なんとかしなさいよ!」

「スィヤンフィ様のような聡明なお方なら、このような状況になったら、何か別の方法を講じるだろう。例えば……自分から攻撃を仕掛けるとか。だが、何もしないのは……そういうことでしょう?」


 そっか、最初から凄い攻撃が出来る魔法があれば、わざわざ貴重なサンプルに攻撃させる必要も無いし、アラン様の言う通り、この場を乗り切るために攻撃してもおかしくないもんね。


 なのに、黙って苦虫を噛み潰したような顔をしてるってことは……。


「なんだよ、マジつっかえねー。メンディーーことはしたくなかったのに……やっぱうちがいないとダメダメじゃん」


 勝負は決まったかのように思ったその時、エリーザは驚くほど冷たい声をボソッと漏らすと、あたしに見せしめで使った光の槍を作る魔法を発動させ、手当たり次第に辺りを破壊していった。


 しまった、スィヤンフィが諦めたと思って油断してた……!


「魔法の研究者がいなくなんのは、めっちゃ困るんよ。それに、さっきからお前ら調子に乗っててうぜーんだよ! 全員死ねボケ!」

「……やり方はスマートじゃないですが、まあいいでしょう。せっかく用意した施設とサンプルですが、彼らに密告されては、全てが水泡に帰してしまいますからね。やってしまいなさい!」

「負け犬のくせに、うちに偉そうに指示してんじゃねーよ!」


 エリーザの光の槍で、辺りは無断に破壊されていく。

 そんな中、あたし達への攻撃はアラン様が魔法で障壁を作ってくれたおかげで大丈夫だったけど、動物や植物、それにまだカプセルの中にいる人達が、無情にも巻き込まれ、深く傷ついていった。


 ……どうして、どうしてそんな酷いことが出来るの!? みんなには、何の罪もないのに……! あなたは、虐げられるつらさをわかっているのに、どうして!?


「ちっ……槍の数が多すぎる。このままでは、いずれこの障壁は破られる!」

「アラン様、なんとかなりませんか!? このままじゃ、みんなやられちゃいます!」

『なら、オイラの尻尾でここのやつら全員掴んでやるぞ! それで、オイラ達が入ってきた穴から逃げれば良いぞ!』

「そんなことが出来るの!?」

『それはわから――ごほん、オイラはすっごいキツネだから、これくらい余裕だぞ!』


 フンッと鼻を鳴らしながらドヤ顔をするシロちゃんの足は、僅かに震えている。


 シロちゃんだって、死ぬのは怖いはずだ。しかも、自分が失敗すれば多くの犠牲が出ることも、賢いシロちゃんならわかるだろう。


 そんな恐怖を必死に抑え込み、あたしが恐れないように気丈に振舞っている姿が、あたしには頼もしく……同時に巻き込んでしまったことを、本当に申し訳なく感じた。


『わかったら、オイラの背中に乗るんだぞ!』

「うん、わかった! アラン様、シロちゃんがあの穴から逃げようって! 連れて来られた子達も、シロちゃんが何とかするって!」

「サンプル達の包囲網が無くなった今なら、確かに行けるな。よし、早くシロと合流しよう」

「はっ、逃がすと思ってんのかよ! 聖女の力を舐めんなし!」


 アラン様とシロちゃんが落ちてきた穴に、巨大な白い魔法陣が出現し、あたし達の退路を断ってしまった。


「そこから逃げたきゃ逃げりゃいいんじゃね? まあ、触った瞬間にどうなるか、わかったもんじゃねーけど!」


 ど、どうしよう……あたしがアラン様に逃げ方を伝えちゃったせいで、退路を断たれちゃった……シロちゃんとの会話は、あたししかわからないんだから、シロちゃんと合流することだけ伝えればよかったのに……!


「ご、ごめんなさい……あたしが余計なことをペラペラ喋ったばっかりに……!」

「気にすることはない」

「はっ!? この状況で、なに格好つけてるわけ!?」

「愛する女性の前で格好つけることの、何が悪いのですか? ああ、あなたにはそのような人間はいないから、理解するのは不可能でしたね。これは失敬」


 ふんっと鼻で笑われたエリーザは、顔中に青筋を立てながら、魔力の出力をさらに上げていた。


 戦える魔法が使えないせいで、この戦いに混じっても、足を引っ張る以外の未来が無い。でも……何もしないで後悔するのは嫌なんだ!


「愛する? くっだらね~! 男なんて、女で自分の欲求を満たしたいだけ猿だろ!? それを愛だのなんだの語るとか、キモすぎて逆に笑えるわ!」

「エリーザ……」

「ホント笑える……愛だなんて……本当にくだらない。愛したって、所詮他人は裏切る! 誰もうちの味方なんていない! みんなみんな、死んじゃえばいいんだ!!」


 エリーザの怒声に呼応して、光の矢が一本、また一本と増えていく。

 この増えていく槍達は、全て想像がつかないほどの、エリーザの怒りや憎悪が力となっているのね。


「……アラン様、シロちゃん。あたしに作戦があります」

「作戦だって?」


 あたしは、この場を乗り切るための作戦を、アラン様とシロちゃんだけに聞こえるように、こっそりと伝え始める。


「はい。方法は問いませんので、出来るだけ派手にあの槍達に立ち向かってください」

『ど、どういうことなんだ?』

「ごめんねシロちゃん、また余計なことを言っちゃうかもしれないし、説明している時間もないの。あたしのことを信じて、言う通りにしてもらえるかな?」

『よくわからないけど、オイラに任せるんだぞ! あのピカピカしてるのは、オイラとアランに任せるんだぞ!』

「わかった。何をするつもりかはわからないが……気を付けて」


 ――今の戦いを見ていて、なんとなくわかったことがある。

 スィヤンフィは魔道具を作ったり、バレないように魔法を使うのは得意だけど、攻撃魔法はない。

 同時に、エリーザは派手な遠距離魔法は持ってるけど、近づかれたら対抗策が少なさそうだ。


 この二つを突けば、希望はありそうだよね!


「やはりあのキツネ……もしや滅んだと言われている……いや、調べてみないと確証は得られない。ぜひ私のサンプルにしたい!」

「なにバカなこと言ってんだよ! 邪魔だから引っ込んでろ!」


 光の槍の一本が、スィヤンフィ様の腹部を捕らえ、壁まで叩きつけた。その衝撃で、スィヤンフィは倒れてぐったりとしてしまった。


 さっきまで味方だったのに、簡単に手を出すなんて、よほどエリーザは気持ち的に追い込まれているんだろう。


「うち以外は全部殺す! 全部……敵だぁぁぁぁぁ!!」


 光の槍が、一斉にあたし達に襲い掛かってくる。当然、アラン様の魔法と、シロちゃんの尻尾で第一波は防げたけど、次から次に来たら大変だ。


「二人とも、お願いね!」


 それだけを言い残して、あたしは背を低くして進み始める。

 これがうまくいけば、この争いは終わる。あたしの行動に、みんなの命がかかってるんだ! 絶対に負けてたまるもんか!

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