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第五十二話 ワガママだとわかっていても

「ミシェル、無事か!!」

「あ、アラン様……アラン様ー!!」


 自分の存在をアピールするために、その場で大きく両手を振る。

 ずっと会いたかったからなのかな。それともアラン様に会えたほっとしたからなのかな。さっきから涙が溢れて止まらない。


『ミシェル、無事で良かったぞ!?』

「その声は、シロちゃん!? やっぱりシロちゃんだったんだね! 無事にアラン様のところに戻れたんだね!」


 あたしが抱っこできるぐらい小さかったシロちゃんが、とても大きくなっていて驚いたけど、中身はいつものシロちゃんみたいだ。


「白い巨大なキツネ……? もしや……生き残りが……それか新種……」

「さっきからブツブツうっさーんだけど」

「これは失礼。ごほん……ようこそアラン様。白馬ではなく、白いキツネとは……随分と興味深い生き物に乗ってのご登場ですね」

「定石通りでは、面白くありませんからね」


 スィヤンフィの言葉を軽く流したアラン様は、サッと辺りを見渡すと、あまり感情を表情に出さないアラン様の表情が、怒りに染まった。


「なるほど、話は本当だったようだな。スィヤンフィ様は、随分と外道なことをされていらっしゃる」

「ちょ、ちょっと! お前の魔法どうなってんの!? あいつにも、魔法をかけたんじゃないの!?」

「ええ、確かにかけました。しかし、既に魔法は解除されている……おそらく、外部の物の手によるものでしょう」

「あなたの相棒と違って、俺にはとても頼りになる家族がいるのですよ。あなた方が望むのでしたら、面会の機会を作りましょう。面会は獄中になるでしょうが」


 アラン様は、あたしでもわかるくらいの殺気を放つ。正直ちょっと怖いくらいだけど、それ以上に頼もしさがある。


「ふっ、ずいぶんと夢見がちなお方だ。さて、この研究所を知られたからには、あなたを帰すわけにはいきません」


 スィヤンフィがニヤリと笑いながら、指をパチンっと鳴らす。すると、動物や植物が入ったそれぞれのカプセルに、魔法陣が浮かび上がり……そして、閉じ込められていた者が解放された。


「アラン様、気をつけてください! スィヤンフィの魔法で、あの子達は操られてます!」

「その通り。いくらあなたが高名な魔法使いでも、この戦力差をひっくり返すのは至難の技でしょう。ですが、もしあなたが私に協力してくれると仰ってくれるなら、この場は見逃しましょう」


 きょ、協力って……一体どうしてそんな話になるの!? そもそも、あたし達が悪者と協力するわけがないじゃない!


「あなたは私と同じく、魔法の研究をしていらっしゃる。私と手を組めば、あなたの望むものが手に入るでしょうし、私の妻も必要な時に貸し出しましょう。まさに一石二鳥だと思いませんか?」

「……なるほど、確かにあなたと研究をすれば効率は最高ですし、ミシェルと一緒にいることも可能でしょうね」

「あ、アラン様!? あんな誘いに乗っちゃ駄目ですよ!」


 急いでアラン様を止めようとしたが、当のアラン様はあたしのことを見つめながら、優しく微笑んだ。

 その表情を見たら、それ以上アラン様を止めようとは思わなかった。


 ……そうだよね。スィヤンフィの魔法のせいで、少しの間アラン様のことが信じられなかったけど、本当のあたしは、アラン様がとても優しくて誠実で、こんな話に乗るような人じゃないって、わかってるもん!


「魅力的な提案をしてくれたあなたに、謝礼の代わりに宣言したいことがあります」

「宣言ですって?」


 アラン様はシロちゃんから飛び降りて、あたしのところまでやってくると、あたしの肩を強く抱き寄せた。

 冷たい鎧を着ているせいで、アラン様の温もりは感じられないけど……こうして近くにいるだけで、あたしの全てが満たされていくのを感じる。


「あなたはミシェルを妻と仰いましたが……ミシェルと結婚し、彼女を幸せにするのは、この俺だ。この役目は、未来永劫誰にも渡すつもりは無い。だから、今回の結婚話も、今しがたの研究所への誘いも、無かったことにしてほしい」

「あ、アラン様……!!」


 今の言葉って、もしかしなくても、アラン様からのプロポーズだよね!? え、えっ? しかも、ツンデレのアラン様がストレートに……!?


「ミシェル、これが俺の本心だ。俺はずっと君と一緒にいたい。これからは、使用人や助手じゃなくて、俺の妻として一緒にいてくれないか?」

「嬉しい……! はい、あたしを妻にしてください!! あ、でも……私達はいつかは――」

「やれやれ、敵の前だというのに愛を語らうとは、随分と舐められたものだ」


 魔法が完成すれば、あたしはアラン様と別れることになる。それでもあたしと一緒にいてくれるのか聞こうとしたのに、スィヤンフィに遮られてしまった。


「私は優しいので、もう一度だけチャンスを与えましょう。私と手を組みなさい」


 ニヤリと笑ったスィヤンフィの赤い目が、怪しく光る。

 マズイ、あれはスィヤンフィの洗脳魔法だ! な、なんとかしてかからないようにしないと!


「――断る」


 焦るあたしとは対照的に、とても冷静なトーンから放たれた拒絶の言葉とほぼ同時に、ガラスが割れるような音が部屋の中に響き渡った。


「この感覚……まさか!?」

「俺が何の対策も無しに、ここに乗り込んだとお思いですか?」

「バカな、私の洗脳魔法を防いだというのか!?」

「あなたの魔法は、対象者が気づくことも出来ないうちに、自由に操れる凶悪な魔法だ。しかし、それはあくまで気づかれていない状態で使うからこそ、真価を発揮するもの……わかっていれば、対処は容易い」

「ちっ……お前ら、さっさとあの男を殺せ! 女は生け捕りにしろ!」


 よろめきながらも、あたし達に確実に近づいてくる彼らから、あたしの魔法を通して強い怒りと悲しみが伝わってきた。


 そうだよね、こんな所に連れて来られて実験させられて、無理やり戦わせられて……つらくて苦しいに決まってる。


「少々数が多いが、なんとかなるだろう。彼らに罪はないが……ミシェルを守るためには、犠牲もやむを得ない。シロ、ミシェルのことは頼んだ」

「だ、ダメです! あの子達は何も悪くありません!」

「俺も彼らを傷つけることはしたくない。だが、あれもこれもと欲張っていては、本来の目的すら達成できなくなる!」


 アラン様の言っていることが正しくて、あたしの言っていることは、ただのワガママだ。そんなの、言われなくてもわかってる。


 でも……でも! このままあの子達を放っておくなんて、あたしにはできないよ!


「みんな、あんな人の魔法に負けないで! あたしは、あなた達を助けたいだけなの! あたしの……あたしの声を、想いを聞いて!!」


 一歩前に出て両手を広げ、自分の想いを全てを彼らにぶつける。

 すると、あたしの足元に見たことがない形の魔法陣が現れ、ゆっくりと光り始めた――

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