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第五十一話 お前はもう帰れない

「ごきげんよう、良い夜ですね」

「スィヤンフィ……!」


 突然現れたスィヤンフィとエリーザから、無意識に距離を取るために後ずさりをする。


「見張りを欺いて逃げようとしても無駄ですよ。この実験施設は、監視水晶で常に見張ってますからね」

「最初から気づいていたなんて……なら、どうしてここまで泳がせたの?」

「実は、ようやくあなたのカプセルが完成しましてね。明日連れてくる予定だったのですが、逃げ出したあなたを見て、ここにくるだろうと踏んでいたので、放っておいた次第です」


 あたしってば、完全にスィヤンフィの手のひらの上で踊ってただけだったってこと……?


「ふぁ~……気持ちよく寝てるところをたたき起こされたから、何事かと思ったけど……脱走とか映画かよ、ウケる。ていうかさ、アランへの不信感が募るように、洗脳をかけたんじゃないの? それで心をバキバキに折る~みたいな?」

「仰る通りです。もしかしたら、アランにバレないように魔法の出力を落としたせいかもしれません。それか、我々の想定よりも意志の力が強かった可能性も……ふむ、人の意志とは不確実ではあるが、なんとも興味深い」

「ちゃんとやれし、無能かよ」


 半分寝ぼけているエリーザは、ゆっくりと指を鳴らす。すると、エリーザに付けられた首輪から、あたしの体全体に、強い電気が襲い掛かってきた。


「きゃあああああああ!?!?」

「きゃはっ! 良い声で鳴くじゃんウケる~! 動画に取れないのが残念過ぎて、マジぴえんだわ~!」


 あたしは痛みに耐えきれず、その場に崩れ落ちた。

 電気の痛みって、こんな身を引き裂かれるような感覚を覚えるくらい、凄いビリビリするんだ……い、意識が飛びかけた……。


「そうだ、ちょっとゲームしない? うちに捕まらないで、この部屋の出口に辿り着けば、お前の勝ち。その報酬として、ここから出られるというのはどう? あ、ゲーム中は電気を流さないから、安心していーよ」

「……本当に、逃してくれるの?」

「うちは嘘つかねーし」

「…………わかった」

「良いノリしてんじゃん、そーいうの、嫌いじゃないし。んじゃいくよー、時間は一分間ね! よーいはじめー!」

「うっ……ぐっ……」


 体中が痛み、しびれが残っている状態でも、迫ってくるエリーザから逃げないといけない。それはわかってるけど、体が思うように動かない。

 仕方がないから、カプセルを陰にして隠れるのが精一杯だ。


「あれあれ~どこかな~? うちが見つけちゃうぞ~」


 なんだかくねくねした、よくわからない動きをするエリーザ。前までの清楚で引っ込み思案な人間と同一人物とは思えない。


「よくわからないけど、今のうちに……よし、もう少しで出口に……!」

「あ、手が滑っちゃった」

「うわぁぁぁぁぁあ!!!!」


 首輪がピカリと光ると、同時にあたしの体に強い電流が再び襲い掛かってきた。それに耐えられず、ドアの目の前で倒れこんでしまった。


「で、電気はやらないって……言ったのに……!」

「うっそー、あんなの信じるとか、バカすぎて国宝もんっしょ! ていうかさ……本当に逃げられると思った? どんだけ頭の中花畑だよ。絶対に逃がさないから。一生」

「……うぅ……ぐすっ……」

「え、泣いてんじゃんかわいそ〜! あ、でもその絶望に染まった顔、中々面白いわ~。ねえねえ、こいつでもうちょっと遊びたいんだけど!」

「ダメです。これ以上は壊れてしまいますから。さて、ここをこうして……。」


 痛みと悔しさで泣いていると、スィヤンフィがカプセルに手をかざして、魔法陣を展開する。それから間もなく、カプセルが重い音と共に開き、中から巨大でムキムキなウサギが出てきた。


「この個体は、私の作った魔道具による、肉体改造実験を受けた個体でしてね。転移魔法の耐久性テストに何度も用いられるほど、頑丈なのです。それと、彼らには、私の命令は絶対だと思い込む暗示をかけてあります」

「ひ、酷い……命は、あなたの都合の良いおもちゃじゃない……!」

「そんな戯言は、この世の中には通用しません。力の無い者は、力のある者に利用される定めなのですよ。さあ、小娘を拘束――」


 大きなウサギがあたしを捕まえたと同時に、部屋の中かが一際眩しくなり、辺り一面に強い衝撃が襲いかかってきた。


 その原因は、突然天井から地面に向かって降ってきた、凄く太い光の……レーザー? のようなものが襲い掛かってきたからだ。


「いった~……おしりうった~!」

「ああ、私の実験室が……何者だ!?」


 痛みで泣き叫ぶエリーザと、研究所の破損を見て怒りに狂うスィヤンフィなど目もくれず、ビームが発生した所を確認する。


 そこにいたのは……純白の毛に包まれ、九本の大きな尻尾をもつ巨大なキツネと、その背に乗る一人の男性の姿があった。


 遠目だけど、あたしにはわかる。あそこにいるのは……もう会えないと思っていた……それでも、どうしてももう一度会いたかった、愛しの男性だ――

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