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第四十七話 うちは被害者だから

 聞く前から予想していた答えだったとはいえ、実際に本人の口から言われると、やっぱりショックを隠せない。


 一万歩くらい譲って、酷いことをしてきた人に、復讐したいっていうのは、わからなくもない。

 でも、関係ない人間を思いっきり巻き込もうとするのは、どう考えても間違ってるよ!


「あなたの境遇には同情します。だからって、無関係の人達を殺していいなんてことにはなりません!」

「無関係? あんた、ひょっとして馬鹿なの? あいつらはうちを助けてくれなかった。その時点で共犯っしょ」

「共犯なわけないでしょう!? あなたは、あなたに酷いことをした人達よりも、もっと酷いことをしようとしているのよ! それが間違ってると思わないの!?」

「間違ってる? うちが?」


 エリーザ様は、人差し指を顎にそえて、可愛らしく何かを考えるような素振りをしてから、ニッコリと笑った。


「ぜーんぜん。みじんも。これっぽっちも。だって、うちは悪くないし」


 純粋無垢な子供のような笑顔のはずなのに、得体の知れない恐怖のようなものを、あたしに突きつけてきた。


 こんなに心が歪んでしまうほど、エリーザ・ヘッカーという人間の過去はつらいものだったのかな……いや、もしかしたら……!


「スィヤンフィ様、あなたの魔法で彼女の憎悪を増すように仕向けているのですか?」

「おや、突然物騒なことを言いますね」

「だって、そうじゃなきゃこんな酷いことを考えるなんて思えません!」

「そんなことはしておりませんよ。この研究も、彼女が私の研究についてかぎつけて、自ら懇願しに来たのですから」


 そんな、それじゃあエリーザ様は、やっぱり自らの意志で復讐をしたいって思ってるの……?


「あなたは随分と優しいお方だ。しかし世界は広い。あなたのように美しい心を持つ人間もいれば、彼女のようにねじ曲がった心を持つ人間もいるのです」

「人を異常者みたいに言わないでくんない? あんたこそ、人間だろうがなんだろうが利用して研究をする、マッドサイエンティストじゃん」

「否定はしませんよ」

「……! あなた達の悪行は、絶対に白日の下に晒してみせる!」

「なんか急にテンション上がってね? アランもいねーのに、ここから逃げれると思ってるとか、頭お花畑かよ」


 ……た、確かにアラン様がいない状態で、あたしに何か出来るかと聞かれると、答えるのに苦しむ。


 でも、絶対に諦めない。こんな所で死んでたまるもんか。必ずこの二人の悪事を白日の下に晒して、罪を償わせる。


 そしてあたしは、必ず元の世界に帰って、家族にまた会うんだから……!


「さて、そろそろ私は研究に戻らなければ……せっかくアラン様から頂いたサンプルを有効活用するための準備をしなくてはならないのでね。誰か、彼女を部屋に連れて行きなさい」

「きゃっ!?」

「あ、うちも行く~」


 武装した人達が部屋に入ってくると、あたしを無理やり部屋から連れ出した。


 一体どこに連れていかれるのか。そう思っている間に、あたしはどんどんと地下へと続く階段を進まされた。


「ここ、一体どこなの……?」

「はいはい、黙って歩けし」


 元々マール家の屋敷にいたとはいえ、転移魔法で移動してしまったせいで、正確な場所は全くわからない。

 今歩いているところなんか、地面を掘っただけな感じの通路で、人が住んでいるような雰囲気は感じられない。


 最初に連れていかれた部屋はきちんと整備されていたから、その差がより顕著に感じられる……。


「こっちだ。早く歩け」

「つ、ついていくから引っ張らないでください……!」


 やっと階段を降り終わったと思ったら、あたしを出迎えたのは、巨大な牢屋だった。牢の中には、布一枚しか着させてもらえてない、ボロボロの人達が、ぎゅうぎゅうに詰められている。


「な、なんなのこの人達は?」

「これ? うちらがせっせと集めたサンプル達」

「サンプル……?」

「今いるのは、最近ド田舎の村から攫って来て、お偉いさん達にもみ消してもらった奴らだよ。他にも、うちが知り合いに可愛くお願いして、誘拐してもらったり……まあ色々して集めた感じ」


 攫ったって……そういえば前にサジェスの町で、行方不明になっている人が増えてるって噂を聞いた気が……それって、エリーザ様達の仕業だったの!?


「エリーザ様……ううん、エリーザ! あなた達、最低すぎるよ! 心の底から軽蔑する!」

「あっそ。別にあんたに軽蔑されても、痛くもかゆくもねーし。むしろそれ、ただの負け犬の遠吠えじゃね? ほら、ここに入った入った!」


 牢屋のある階の一番奥にあった、こじんまりとした牢屋まで連れていかれたあたしは、エリーザに蹴り飛ばされた。


「あんたには、実験の時以外はここにいてもらうよ。あのカプセルに入れてもいいけど、ここの方がうちが自由にできるし」

「ど、どういうこと?」

「こーいうこと」


 エリーザが指をパチンっと鳴らすと、あたしの足元に魔法陣が出現した。それから間もなく、あたしは土で出来た壁に叩きつけられ……そのまま動けなくなった。


「な、なにこれ……」


 よく見ると、あたしの手首や足首に、光のリングのようなものがつけられている。これが壁にめり込んで、あたしを拘束しているようだ。


 なんとか拘束から逃れようともがいてみるけど、全く体は動く気配は無い。

 アラン様だったら、魔法で何とか出来るかもしれないけど、あたしの魔法ではこの状況を脱せる方法は……ゼロだろう。


「この魔法、面白いっしょ? なんだっけ、確か……そうそう! 聖女が悪人を裁く時に、逃げられないようにする、拘束魔法ってやつ! 聖女の力って意味わかんねーけど、周りの連中がチヤホヤしてくれるし、強い魔法が使えっから便利だわー。疲れるのが難点だけど」

「悪人って……あなたの方が悪人じゃない!」

「は? 散々うちのことをいじめていたゴミ人間が、偉そうに説教すんなし」


 エリーザは、ここまで一緒に来た人から、とある道具を受け取った。


 あれは、ムチだよね……? 漫画の世界でなら見たことがあるけど、生で見るのは初めてだ。


「とりあえず、今日はこれで遊んであげっかな!」

「きゃぁぁぁ!?」


 小さな檻の中で、バチンッ! と甲高い音が耳を貫く。


 ムチで叩かれるなんて、もちろん初めての経験だ。前世でママにビンタされた時の痛みを、何十倍にもしたようなビリビリとした痛みに、思わず目から涙が零れ落ちた。


「きゃはははははっ!! ねえ今どんな気持ちぃ? 悲しい? つらい? ちなみにうちはぁ……テンションアゲアゲでサイッコー!!」

「うぅ……」

「だってそうでしょ? 散々うちをいじめた女に、たっぷりと仕返しが出来るんだから!」

「きゃあ!? い、痛い……やめて……」


 生き残るために、必死にやめるように懇願するが、それはエリーザには逆効果なのか、更にムチ打ちの頻度が増した。


「やめてってなんだよ。もしかして、いじめてた時は前世の記憶が無かったんですぅ~、今は前世の記憶が戻ったから、自分には関係ないんですぅ~……なんて言うつもりないよな?」

「…………」

「なに無視してるわけ!? あんま調子に乗ってんじゃねーぞ!!」

「うぐっ……いじめたのは……本当に、ごめんなさい……でも、あなたのしていることは……間違ってる……!」

「この状況で、まだ説教する余裕があるんだ? ウケるんだけど。でも……うち、指図されるの大っ嫌いなんだよね」


 再び指を鳴らすと、今度はエリーザの足元に魔法陣が出現した。それから間もなく、エリーザの周りには、いくつもの真っ白な小さい槍が、フワフワと浮かんでいた。


「次はこれで遊んでみよっと」

「な……なに……これ……!?」

「これすごいっしょ? この光の槍は、聖女が悪に落ちて怪物になった罪人と戦った時に使ったとかいう、やっばい魔法なんよ」

「っ……!」

「これであんたを……貫いてあげるよ!」

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