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第四十六話 エリーザの過去

「おっひさー。今日は随分と腑抜けてる感じ? 素直になったり腑抜けたり、キャラ定まって無くね??」

「エリーザ様……随分と雰囲気が……」

「あーあれ? なよなよしてると、色々都合がいいからやってるだけ」


 そ、そうだったんだ……多くの男性を魅了していたから、凄いなーって少し思った時があったけど……なんだかちょっとだけ残念。


「…………」

「今度はだんまりてきな? あー、そういや彼氏に捨てられたんだっけ。うんうん、可哀想に……失恋、つらいよねぇ……」

「エリーザ様……」

「……なぁぁぁぁぁんて、言うわけないじゃん! 慰めてもらえるかも〜なんて思っちゃった? 純粋でかわいいかよ、ウケる!」


 あたしにとって完璧な追い打ちを仕掛けた少女……聖女エリーザ様は、あたしの顔を覗き込むようにしながら、小馬鹿にするように笑っていた。


「っ……どうして、あなたがスィヤンフィ様の研究室に……?」

「どうしてって……うちもスィヤンフィの協力者だし。ビジネスパートナーってやつ?」

「っ……!!」

「なにその顔ウケるんだが。撮っとこーが出来ないのがガチ不便だわ」


 撮っとくってなにを……? もしかして写真のことを言ってる?

 それに、さっきビジネスパートナーとか、ウケるとか、この世界の人には通じないような単語が出てきたよね?

 ……ま、まさか……そんなことって……いや、確認しないとわからないよね。


「スマホがあれば、すぐにSNSにアップ出来ましたのに、残念でしたね」

「まったくだし。あ~スマホが恋し~! って……あんた、今なんて?」

「スマホ、SNSです」

「……あー……へぇ……なるほど理解したわ! あんた、うちと同じ系!? そっか~急に性格が変わったのは、前世の性格になったからか!? オーケーオーケー。完璧に理解したわ!」

「そういうあなたも、転生者?」

「イエース。まさか大嫌いなミシェルが、うちと同じだったのはビビったわ」


 驚いたのは、あたしも同じだ。

 同時に、元々は普通の生活をしていたであろう人が、こんなに酷い実験に関わっていることや、どうしてこっちでは変な性格を演じているのかとか、聞きたいことが色々ある。


「まさか、あなたが転生者だとは思わなかった。なにがあって、こっちにきたんですか?」

「なになに、急に元気出てウケるんだけど。てかさ、なんで話さなきゃいけないわけ? それに頼み方がなってねーわ。お願いいたします、エリーザ様っしょ?」

「お願いいたします、エリーザ様」


 ほぼノータイムで、言われるがままにエリーザ様をおだてると、満足したのか、むふーっとした表情を浮かべながら、偉そうな態度でカプセルに寄りかかった。


 こんな頼み方なんてしたくないけど、あたし以外の転生者の話を聞ける貴重なチャンスを、逃すわけにはいかない。


「まあ話してやってもいいけど……その前に、おまえはどうなんよ? 前世の世界は?」

「酒クズのパパと、教育ママのせいで、よくはなかったです。それでもなんとか学校生活を送ったけど、就職活動して失敗。その後、ママに捨てられて一人暮らしを始めました。ブラック企業に勤めながら生活してたけど、ママが知らない男と来て、出来ちゃって産んだ双子が邪魔だからって置いていきました。それで、子供を食べさせるために働いたら、足を踏み外して階段から……」

「ぷぷっ、バカすぎて話にならなくね?」


 直接煽られるのは、正直腹が立つ。でも、実際かなりマヌケな死に方をしたのは事実だから、何も言い返せないのがつらい。


「あたしは話しました。あなたの番よ」

「はぁ~そんなにうちのプリティに満ち溢れた話が聞きたいのね」

「ええ。あたし以外の転生者の人生に、帰れるヒントがあるかもしれないし」

「変な所で前向きすぎじゃね? ま、しゃーないから話してやんよ」


 同じような境遇の人の話を聞く機会なんて、めったに無い。どういう話が聞けるのか……一言一句逃さずに聞かなきゃ。



■エリーザ視点■



 前世のうちは、生まれた時から、神から全ての物を与えられた人間だった。

 生まれた家が、警察のお偉いさんの父がいる家で、お金も地位も持ち合わせていた。


 幼少期。お人形さんみたいに可愛いが常套句になるくらい、うちは絶世の美女とか言われてたんよ。


 小学校にはいったら、男の子達からモテモテだった。うちはこの時点で、ぶりっ子するのが効果的だと分かっていたから、男子たちに媚び売りまくったの。


 そこまではよかったんだけどね。そうしたらさ、クラスのブス共がいじめにきたわけ。


 日に日に増すいじめ。物理的に傷つけられたり、物を取られたり、水浸しにしたり、ありもしない噂を流したり……他にも色々やられたよ。


 でも、うちは全く気にしなかった。いや、気にしないように振る舞ってた。


 だって、そいつらがやってることは全て、うちが可愛いことや、モテモテなのが気にいらない……つまり、嫉妬が原因だし。つまり、いじめればいじめるほど、あいつらは自分の惨めさをアピールすることになるって思うようにしていた。


 ただ、一つ気に入らないことがあった。いじめられてても、誰もうちを助けてくれなかったことだ。学校だろうが外だろうが、全員見て見ぬふりをしていた。


 このうちがいじめられてるのに、どうして誰も助けてくれない?

 そもそも、うちは悪いことなんて何もしてないのに、どうしていじめられる?


 そんな考えが積もりに積もった時、うちは思った。いつかあいつらに復讐するって。あたしをいじめた奴と、救ってくれなかった、全てに。


 さらに月日が経ち――日夜積もっていく恨みを少しでも紛らわそうと、夜の街を徘徊するのが日課になっていたうちに、彼ピが出来た。

 かなりボンボンな超イケメン。欲しいものは何でも買ってくれるし、体の相性も最高だし、まさに運命の人だと思ってた。


 でも、楽しい時間はあっという間に崩壊した。


 うちは突然、彼ピにとある高級ホテルに呼び出された。そこにいたのは、彼ピと知らない男数人、そして沢山のカメラだった。


『あ。あの……これってなにを……』

『そんなの決まってんじゃん』


 彼ピのニヤッと笑った顔が、いまだに脳裏にこびりついている。


 そこから先は、ある程度予想できるっしょ? うちは、男達に乱暴された。一切の休みなく、体に刻み込まれた。

 でも、そのうち飽きてきてしまった奴らは、うちを性欲の捌け口ではなく、物理的にストレスを発散するようになった。要は暴力を振るうようになったということだ。


 やめてと言ってもやめてくれない。助けてと言っても誰も助けてくれない。

 逃げることも出来ず、ただ辱められるか、殴られる中で、うちの憎しみはさらに募っていった。


 そして最後の時……過剰な暴力が原因で死にそうになった時。彼ピとその取り巻きが、クソなことを話しているのが耳に入った。


『そいつ死んだら、後々面倒じゃね?』

『大丈夫さ。俺の親父は政治家のお偉いさんだからね。全部もみ消してもらうから』

『…………』

『あーあー、もう喋る元気もないのか。まあ、ある程度は楽しめたよ。でも、お前よりももっと可愛くてスタイルの良い女が見つかったから、お前はもういらねえ』


 その後うちは、よくわからない薬を飲まされた。薬の効果でのたうちまわり、それがおかしくて笑う男達の前で、机に頭をぶつけて死んだ。


 ……死ぬ直前に思ったよ。男なんて、全員死ねばいいって。学校の奴らなんて、全員死ねばいいって。

 そして、うちがいじめられている時も、監禁された時も、誰も助けに来てくれなかった……世界の人間全てが同罪だ。全員……復讐してやる。全員……死ねばいいのよ!!!!



 ****



「エリーザ様……」


 彼女の過去の話を聞いて、不覚にも少しだけ同情をしてしまった。

 いじめられて、彼氏に裏切られて、道具のようにされて、誰にも助けてもらえずに死んじゃったら、誰だって性格が歪むと思う。


「んで、なんか知らないけどこの世界に転生した。三歳の頃からそれを自覚していて、エリーザとして生きることを決意した。面倒ごとが起こらないように、周りからちやほやされるような、おとなしくて弱々しい性格を演じていたら、うちの魔力も相まって、いつの間にか聖女と呼ばれてた」

「…………」

「まあ、そんなのどうでも良いけど。うちの目的は、最強の転移魔法をつくることだし」

「転移魔法……まさか、あなたも転移魔法で元の世界に!?」


 思わず身を乗り出しながら聞くと、黙って話を聞いていたスィヤンフィ様が、閉ざしていた口を開いた。


「おや、アラン様も同じ魔法の研究をしていらしたとは。ふむ、機会があれば彼と意見交換をしたいところですね」

「アラン様は、あなたみたいな危険な人と意見交換なんてしません!」

「それは残念ですね。研究ばかりしていて、あなたを簡単に捨てるようなお方なら、私と話が合うと思ったのですが」


 せっかくエリーザ様の話のおかげで、アラン様に捨てられていたことを忘れられていたのに……どうしてそんな傷口を抉るようなことが言えるの?


「……あ、あなたはその魔法で元の世界に帰れたとして、なにをするの?」

「そっちこそ何するわけ? そのクズ親に復讐?」

「そんなことはしません! あたしは、残してきた弟妹に、もう一度会いたいだけです!」

「はっ、良い子ちゃんぶって……きっも」

「いいから、質問に答えてください!」

「そんなの決まってるじゃん。うちを殺した男達や、うちを助けてくれなかった全てへの復讐だよ!!」

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