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第四話 婚約破棄の場へ

 あれから数人の使用人の手を借りて、パーティー用の派手なドレスで身を包み、しっかりとお化粧をしてもらったあたしは、馬車に乗って会場へと向かう。


 性格は前世の方が主軸になっちゃったけど、ミシェルとして生きていた頃の記憶や経験は残っているおかげで、こういうドレスを着ていても、特に違和感なく動けるのは助かるね。


「こんな穏やかで自然豊かな景色、向こうにいる時じゃ中々見られないから、二人が見たら喜んだだろうなぁ……」

「ミシェル様?」

「あ、ごめんなさい。なんでもないです」

「左様でございますか……やはりお体の具合が悪いのですか? あまりにもいつもとご様子が違っておられるので、心配ですわ」


 彼女の疑問はもっともだ。以前のあたしが同じことを聞かれたら、イライラしていればうるさいと八つ当たりをするか、時には暴力を振るってるだろう。下手したら、強制的に解雇するかもしれない。自分のことながら、酷すぎて虫唾が走りそうだよ。


「心配してくれてありがとうございます。私は大丈夫ですよ」

「……かしこまりました。もし体調が少しでも悪いと感じたら、すぐにお声がけください」

「ありがとうございます」


 なるべく丁寧に話してるつもりだけど、前に比べると、言葉遣いにお嬢様感が足りないよね?

 どういうふうに喋ればいいかについては、記憶があるからわかるけど……前世のあたしが主になってるからか、慣れ親しんでいる喋り方になっちゃう。


 まあ、暴言とか吐いてるわけじゃないし、近いうちに家を出るんだから、あまり気にしなくてもいいかもしれない。


 ――そんなことを考えながら馬車に乗っていると、丁度お日様が沈んだ頃に、目的地であるカルフォン家の屋敷に到着した。


 今日は、カルフォン家の一人息子であるフレリック様の、十八歳の誕生日だ。それを祝して、盛大にパーティーを行われるというわけだ。


 このパーティーで、あたしは婚約破棄をされる。

 今はそれがわかっているから落ち着いているけど、前回の時のあたしは、婚約破棄を言い渡された時は、本当に驚いて取り乱したっけ。


「ミシェル、そんな所に立ってないで、早くこちらに来い。グズグズするな」

「あ、ごめんなさいパ――お父様」


 別の馬車で会場にやってきた、あたしのお父様であるクレマン・スチュワートのことを、危うくパパと言いかけそうになりながら、一緒に屋敷の敷地内にあるパーティー会場へと入った。


「スチュワート様、ミシェル様、お久しぶりでございます」

「おお、久しぶりだな。息災そうでなによりだ」

「ごきげんよう」


 会場に入るや否や、声をかけてきた知り合いの貴族の男性と、挨拶を交わす。


 スチュワート家は、貴族としてはかなり歴史のある家だからか、貴族の知り合いはかなり多い。

 この人も例に漏れず、昔からスチュワート家と繋がりがある家の人なんだよね。


「おや、ミシェルじゃないか。よく来てくれたね」

「フレリック様……!」


 お父様と一緒に挨拶をしていると、今日の主役である男性がやってきた。


 あたしよりも頭一つは大きくてスラッとした体に、女性を魅了する甘いルックスと、短く揃えた真紅の髪を持つ彼こそ、あたしの婚約者であるフレリック様だ。


「フレリック様、お誕生日おめでとうございます。このような素晴らしい日にお祝いできたことを、心から嬉しく思います」

「ありがとう」


 これから婚約破棄をする相手の前だと言うのに、にこやかに笑うフレリック様。その姿は、いつもあたしと話す時と何ら変わりない。


「あ、あの……ご、ごきげんよう……ミシェル様」

「ごきげんよう、エリーザ様」


 先にフレリック様と挨拶をしていたのか、それとも新しい婚約者だからなのか。フレリック様と一緒に挨拶に来た少女は、おずおずと頭を下げた。


 この小動物みたいな女の子が、エリーザ・ヘッカーだ。

 あたしよりも小顔で童顔な彼女は、その弱々しい見た目と性格とは裏腹に、出る所は凄く出ていて、引っ込む所は限りなく引っ込んでいるのと、ピンク色のフワフワなロングヘアーが特徴的な女の子だ。


 その見た目と守りたくなる性格、そして聖女と呼ばれる魔力のおかげか、異性からメチャクチャモテるんだよね。


 別にモテモテになりたいなんて願望はないけど、あのスタイルはちょっぴり羨ましい。

 ……なんであたしは、前世も今世もぺったんこなんだろう。せっかく転生したなら、少しくらい育ってもいいと思わない?


「どうしたんだい、ミシェル。そんな大きな溜息をして」

「いえ……ちょっと自分の運命を嘆いていただけです」

「そ、そうか」

「大丈夫ですか……? 今日は随分と元気が無さそうですけど……」

「ええ、大丈夫ですよ。心配してくれてありがとう、エリーザ様」

「っ!? は、はいぃ……!」


 エリーザ様は目を大きく見開きながら、あわあわと汗を飛ばす。


 何年にも渡って自分をいじめていた性格の悪い女が、急に心配されたことを感謝してきたら、たぶんあたしも驚くと思う。

 

「ミシェル、後で私達のことで大切なことを発表するつもりだから、そのつもりでいてくれ」

「わかりました。あたし……ごほん、ワタクシもご一緒した方がよろしいですか?」

「いや、大丈夫だ。それじゃあ、パーティーを楽しんでくれ」

「し、失礼します……ミシェル様」


 二人はほぼ同時に頭を下げてから、あたしの前から去っていった。


 既に二人は、あたしの知らないところで婚約の話を進めているだろうというのが予想できるから、婚約者のあたしじゃなくて、エリーザ様と一緒に行動しているを見ても、特に違和感はなかった。


 ――その後、お父様と一緒に知り合いの貴族達に挨拶して回っていると、パーティーを始める前の挨拶が始まった。


「本日は我が息子、フレリックの誕生日を祝うためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。このめでたい日に、息子から大切なご報告があります」


 最初に挨拶をした、フレリック様のお父様である男性に背をそっと押されたフレリック様は、背筋をピンと伸ばしながら、静かに口を開いた。


「私は婚約者であるミシェル・スチュワートとの婚約をこの時を持って破棄し、新たにこちらの女性……エリーザ・ヘッカー子爵令嬢と婚約することを、ご報告させていただきます」

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