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第三十八話 アラン様の本気

 もう追いついてきたなんて、信じられない! あの図体のどこに、そんな過敏に動ける要素があるわけ!?


「……あれ、あいつ……何を見てるの?」


 ここまでやってきたラフレシアは、あたしではなくて、倒れているモグラをジッと見つめている。


 まさか、あのモグラを――そう思った時には、既にラフレシアは触手を伸ばしてモグラを拘束し、そのまま捕食してしまった。


「あの大きなモグラを丸呑み……!?」


 これも野生の世界なら当たり前なのかもしれないけど、あたしにはこの光景はかなりメンタルに来る。


『あ~びっくりした……今がチャンスだぞ! 捕食に気を取られてるうちに、早く逃げるんだぞ!』

「そうしたいのは山々だけど……」


 あたし達の周りには、すでにラフレシアの触手達が、ウネウネしながら、あたし達を襲うのを今か今かと待っている。


 こんな状況では、逃げるなんて……あれ? よく見ると、ラフレシアの体や触手の至る所に、切り傷のようなものがある。

 あんなのはなかったはずなのに……もしかして、あたしが流された後に、アラン様に付けられた傷?


 とはいっても、そんな傷があるから弱ってるって感じはなさそうだ。何か策を講じないと。


「シロちゃん、こいつも音で何とかならないかな?」

『音に弱いとかは、聞いたことないぞ……あれ? この音……なにかがこっちに近づいてる足音がするぞ!』

「ま、まだ何か襲ってくるの!? 本当にこの森はどうなってるの! シロちゃん、何が近づいてくるかわかる!?」

『走るテンポや、土を蹴る音で、いつもはなんとなくわかるんだけど、今回は聞き慣れないものだから、わからないぞ! 匂いで判断しようにも、あいつが近くにいると、悪臭が酷すぎて鼻が使えないんだぞ!』


 聞き慣れないテンポや蹴る音……もしかして、それって普段この森に住んでいない、所謂イレギュラーな存在の足音じゃ? もしそうなら……!


「シロちゃん、もう一回さっきのをやるから、耳を塞いで!」

『こいつには意味ないと思うぞ!?』

「わかってるよ! はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 先程と同様に、大きな声と共に、魔法で大きな音を立てる。しかし、ラフレシアには何一つ効いていないようで、あたしが逃げられないように、触手をさらに増やしている。


 ……効かないことはわかってるよ。あたしの目的は、ラフレシアを倒したり、驚かせる事じゃない……あたしが、ここにいるということを証明するためだよ!


「ミシェル!!」


 あたしにも聞こえるくらい大きな足音と共に、あたしが心惹かれている男の人が、颯爽と飛び出して、あたしの前に立った。


 やっぱり、シロちゃんの言うイレギュラーの足音は、アラン様だったんだね! 普段人間はこの森にいないから、シロちゃんには聞き慣れない音だったって思ったんだけど、見事に的中したよ!


「大きな音がした方向から、君の魔力を微かに感じて来たら、大当たりだったようだ。無事に会えてよかった。怪我は?」

「大きな怪我はありません! シロちゃんもなんとか!」

「そうか。再会を喜びたいが、それは後にしよう。まずは、あの執念深い花をどうにかしないと」


 ラフレシアは、アラン様の姿を見るなり、少しだけ後ずさりをする。

 ラフレシアの傷もそうだけど、アラン様の体も傷だらけで、服も所々破れている。露出してしまっている肌も、擦り傷や切り傷だらけだ。

 その傷は、どれだけこの相手との戦いが、大変だったかを物語っている。


「先ほどは不覚を取ったが……二度目は無い!」


 アラン様がそう言うと、彼の足元と両腕に魔法陣が発生する。それはすぐに消える代わりに、アラン様の腕と足が、強い光に包まれている。


 それに反応するように、ラフレシアは太い触手をアラン様に伸ばしてきた。


「この力はミシェルの前ではあまり使いたくなかったんだがな……ふっ!!」


 アラン様の倍くらいの太さがある触手を、まさかの素手で殴り飛ばした。その衝撃で触手は切れ、力なく転がった。


 何か魔法でも使うと思ってたんだけど、まさかの物理攻撃……さすがにビックリだよ……品が無いから、あたしの前では使いたくなかった感じかな?


 気を使ってくれるのは嬉しいけど、それは大きな間違いだ。


 だって……肉弾戦をしているアラン様も、とってもエネルギッシュでカッコいいからね!

 クールなのにツンデレ、ちょっと抜けてるところもあって、魔法以外にも殴る蹴るといった攻撃も出来るワイルドさ! この人、本当にギャップの塊だよ!


「こうなった以上、君が助かる可能性はない。諦めろ」

「―――!!」


 ラフレシアは、強い怒りの感情に身を任せて、触手を振り回す。それに巻き込まれないように、あたしとシロちゃんは少し離れたところで丸まっていた。


 一方のアラン様は、来る触手を全てなぎ倒し、要所要所で魔法で切断するのを織り交ぜることで、柔軟に戦っている。


「俺の大切なミシェルのストーカーなど、言語道断。地獄でしっかり反省するといい」


 ふー……と、体の底から息を吐くアラン様は、右手に魔力を集中する。

 そして、一瞬でラフレシアとの間合いを詰め、その右手をラフレシアの口目掛けて、躊躇なく振り抜く。


 ――それ以降、このラフレシアは二度と動くことは無くなった。


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