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第三十四話 厳しい野生の世界

 あたしの声に呼応するように、あたしの体から光が発せられ、熊の体を包む。すると、あたし達に向けられていた熊の恐怖が、幾分か和らいでいるのを感じた。


「……がうっ……」

「行っちゃった……」


 熊は小さく鳴くと、ノッシノッシと音を立てながら、森の奥へと去っていった。


 これって……あたしの魔法が、気持ちが通じたってことだよね!


「アラン様、あたし……できました!」

「そのようだな。って……!」


 あたしは、魔法が上手くいって難を逃れられた安心感や、アラン様の役に立てた嬉しさが爆発して、無意識にアラン様に抱きついていた。


「えへっ、えへへへ……へぇ……はっ!?」

「……喜びを表現するのは構わないが、少し離れてもらえると助かる」


 我ながら、恥ずかしくなるくらい、だらしない顔と声だったことに気づいた時には、既に遅かった。あたしは急いでアラン様から離れ、恥ずかしさで真っ赤になった顔を隠すように、両手で覆った。


「急に抱きつくのは、控えてくれ」

「はい、ごめんなさい……迷惑でしたよね。反省します」

「抱きつかれたことに怒っているわけではない。この危険な場所で抱き合っていたら、また奇襲をされた時に、君を守れなくなる」

「っ……!!」


 な、なにその全然ツンデレになりきれていない、可愛くて優しい台詞!? 落ち込んでる時にそんな言葉……衝撃が強すぎて、頭がパンクしちゃう!


「アラン様……優しすぎ……」

「勘違いするな。君がいなくなったら、この森の攻略が難しくなるのが困るだけだ。まあ……君が傷つくのは見たくないのは確かだが……いや、なんでもない。今のは聞かなかったことにしてくれ」


 アラン様は、ほんのちょっとだけ頬を赤らめて、フイッと視線を逸らす。


 え、ちょ……無理なんだけど。そんな、急にツンに戻ったと思ったら、またデレの部分を見せるとか……し、死ぬ……あぁ、こんな幸せな気持ちなら、死んじゃってもいいかなぁ……。


 って、全然良くないよ! しっかりしなさいあたし! 無事に帰って、アラン様と一緒に研究をして、向こうの世界で待っている悠と芽衣の元に帰るんだから!


「見ててね、二人共! お姉ちゃん、頑張るから!!」

「どうした、急に空を見上げながら大声を出して」

「あはは、色々ありまして!」

「……そうなのか。本当に君は、面白い人間だな。まあいい、とにかく油断はするな。君の魔法でも、引かない連中がいる可能性もある」

「はい!」


 いくらうまくいったからといっても、次も同じようにうまくいくとは限らないもんね。気を引き締めて進まないと……あれ?


『うっ……痛い……』

「え、今のは……?」

「どうした?」

「あっちから、誰かの声が聞こえてきたんです」

「声だと? もしかしたら、俺達のほかに来ている人間がいるのか?」

「そうかもしれません! それに、なんだか苦しそうでした! 早く助けに行きましょう!」

「……先を急がないといけないが、見過ごすわけにもいかないな」


 あたしはアラン様の手を引いて、声のした方に慎重に行くと、そこにいたのは人間ではなくて、雪のように真っ白なキツネだった。


 体はあたしが抱っこできるくらいには小さいけど、尻尾はとても大きくて、フワフワしているのが特徴的だ。


「お腹だけ、あんなに赤く……」

「どうやら腹部に怪我をしているようだな」

『に、ニンゲン……? 来るな!』


 白いキツネは、低い唸り声を上げながら、あたし達を追い払おうとした。


 そうだよね、こんなに酷い怪我をしてるところに誰かが来たら、追い払おうとするに……ん? ちょっと待って!


「キツネが……喋った!?」

「喋っているだと? 俺には唸っているようにしか聞こえないが……」

「喋っているというより、あたしの魔法で言葉が理解できるんです! 今までは、こんなことはなかったのに……とにかく、早く手当てをしないと!」


 この子は野生なのだから、怪我をして死んじゃっても、それは自然の摂理に従っているだけだ。だから、あたし達が変に関与するべきじゃないというのは、頭では分かっている。

 わかってるけど……やっぱり放っておくなんて出来ないよ。


『オイラに……近づくな! 噛むぞ!』

「凄く警戒して、来るなって言ってます。大丈夫、あたしは君の敵じゃないよ。大丈夫、大丈夫……」


 キツネをなるべく怖がらせないように、姿勢を低くしながら近づき、下からそっと手を出すと、あたしの手にガブッと噛みついてきた。


「ミシェル!」

「っ……アラン様、あたしは大丈夫です。この子は怪我をして、怯えているだけです」

『…………』

「ね? あたしは君を傷つけていないでしょう? あたしも彼も、君の敵じゃない」

『本当に……? オイラをいじめない?』

「うん、いじめないよ。あたし達は、あなたを助けたいの」


 唸りながら睨みつけるキツネに、優しく微笑むと、キツネはそっと口を放してくれた。


「ミシェル、大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。噛みつかれたと言っても、元気が無いのか、甘噛み程度でしたから」

「……確かに、大きな怪我はないみたいだな。だが、野生の動物には有害な細菌がいる可能性もあるし、この魔力で特異な体質があるかもしれないから、治療はちゃんとしておいた方がいい」

「わかりました。では、この子の手当てが終わったら、自分の手当てもしますね。えっと、確か荷物の中に手当てが出来る道具が……」


 痛くないと言ったら嘘になるけど、あたしよりもこの子の治療を先にしないとね。えっと、どこにしまったっけかな……?


「この程度の怪我なら、薬を使う必要はない」

『うわぁ!? 体が急に光り始めたぞ! やっぱりおまえらは敵――』


 アラン様がキツネに手をかざすと、キツネの体がほんのりと光り始める。それから間もなく、キツネの痛々しい傷が、嘘だったかのように綺麗に消えていた。


『あれ、もう痛くないぞ!』

「アラン様、今のは?」

「簡単な回復魔法だ」

「すごい、回復魔法も、転移魔法と並んで難しい魔法ですよね!? そんな魔法も使えたんですね!」

「俺の回復魔法など、本業の回復魔法の使い手に比べれば、子供のお遊び程度のものだがな。彼の怪我が思ったより酷くなかったから、なんとかなった」

「もう、謙遜しないでくださいよ! この場でこの子を治せたって事実は、胸を張るに値するんですから!」

「……そうか、ありがとう。さあ、ミシェルの手当てもしよう」


 アラン様は、キツネとやった時と同じ様に、あたしに回復魔法をかけてくれた。すると、キツネに噛まれた所の痛みが、綺麗さっぱり消えた。


 回復魔法を使ってもらったのって、生まれて初めての経験なんだけど、本当に一瞬で痛みがなくなるんだね。


『……おまえら、変なニンゲン達だぞ。とりあえず、治してくれたことは礼を言うぞ。ありがとう、変なニンゲン達』

「どういたしまして。ところで君、どうしてあたしとお話しできるの?」

『それはこっちのセリフだぞ。オイラと話が出来るのは、同じキツネだけだと思ってたぞ』

「君もわからないのね……そうだ、君の名前は?」

『オイラに、名前は無いぞ』

「名前は無いの? それじゃあお近づきの印に、あたしが名前を付けてあげる! う~ん……じゃあ君は、シロちゃんで!」


 可愛らしい見た目と、名前だけで白いとわかるように思いついた、渾身の名前だったのに、アラン様にもキツネにも、白い目で見られてしまった。


「……さすがに安直すぎないか?」

「そうですか? 白くてフワフワで、可愛いじゃないですか!」

『……もう少し、カッコいい名前が良いぞ』

「がーん!? うぅ、シロちゃんって名前、嫌われちゃいました……」


 きっと気にいってくれると思ったのに、こんなにストレートに嫌がられると、中々心に来るものがある……あたし、ネーミングセンスが無いのかな。


「そうか、それは残念だったな。そうだシロ、この森について何か知っていることはないか?」

『なんで採用されてるんだ!? やっぱり敵だなおまえ!』

「なんか、シロって呼ばれたことに怒ってます……」

「俺だって、ちゃんとした名前を付けてやりたいが、今は時間が無い。それに、少しでも情報が欲しいんだ」

『……? どういうことだ?』

「えっとね、実は探し物をしてるんだ」


 なんだか、あたしの魔法が無いと言葉がわからないこと以外は、普通に人間と話している感じだよ。こっちの言ってることも理解しているみたいだし……想像以上に賢い動物なのかもしれない。


『探し物かぁ。それで、探すために森について聞きたいってことだな。でもなぁ……うーん、オイラはここに住んでるけど、森についてはよく知らないんだぞ……そうだ、ここはたくさん危ない動物や植物がいるぞ。オイラのかーちゃんも、他の仲間も、オイラを守るために……うぅ、かーちゃん……』

「シロちゃん……」

「シロは何て言っている?」

「森は危険だってことと、この子のお母さんと仲間は、この子を守るために……」

「……そうか」


 耳をペタンとして落ち込むシロちゃんを、そっと抱き抱えながら、優しく撫でてあげる。


 こんなの小さいのに、どうして一人ぼっちで、それも怪我をしていたのだろうと思ってたけど……やっぱり野生の世界は厳しいんだね。


 ――そんな世界の中に、あたし達は足を踏み入れているというのに、のんきなことを考えていたことを後悔するとは、この時のあたしは思いもしていなかった。

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