第三十二話 魔道具を求めて
大切な素材を手に入れる話をしてから一週間後、あたしはアラン様と共に、目的地である森に向かって出発しようとしていた。
ちなみに今日は外に出るから、正体がバレないように、変身魔法を使ってある。
「ミシェル、最後にもう一度確認だ。少しでも危険があったら、即座に撤退する。そして、俺から絶対に離れないように」
「はい、大丈夫です! アラン様も、あたしから離れないようにしてくださいね! もしかしたら、アラン様を助けられるかもしれませんから!」
「そうだな」
自分で言っておいて、たいした力もないくせに偉そうにって思うけど、変に弱気になっているよりも、少しでも自信がある方が、アラン様に安心してもらえるって思ったの。
「さあ、行こう」
「はい! あたし達の目的達成のために! がんばるぞー! おー!」
「……何をしているんだ?」
「こっちの世界には馴染みがないですか? みんなで声を出して、士気を高めるんですよ! あたしの後に続いてください!」
「お、俺もやるのか?」
「もちろん! がんばるぞー! おー!」
「お、おー……?」
やや動揺している感じの掛け声は、いつものアラン様のギャップ攻撃になって、早くも失神寸前だよ……。
「随分賑やかじゃねーか」
「ウィルモンド様! どうしてここに?」
「楽しそうな声が聞こえてきたもんでよ。混ぜてもらおうと思ってな!」
「兄上……?」
「ははっ、冗談さ。お前らと、大切な話をしに来たんだよ」
吸っていた葉巻の煙を、あたしたちにかからないような位置に吐き出してから、ゆっくりと口を開く。
「お前らが行こうとしているのは、死の森と呼ばれる危険地域だ。帰ってきた者は誰もいないと聞いている。本当に、そんな所に行くのか?」
「はい。俺は何としてでも、究極の転移魔法を完成させたいのです」
「あたしも、アラン様を支えるために、絶対に行きます! それがたとえ、危険な場所でも!」
「アラン、何度も言っているが、お前が重荷を背負う必要は無いんだぞ? ミシェルも、確かにアランのことをよろしくとは言ったが、なにも死ににいく必要は無いんだぞ?」
心配してくれる気持ちは、とっても嬉しい。でも、危険だからって逃げていたら、いつまで経ってもあたし達の目的は達成されない。
「……俺が思っている以上に、意志は固いようだな。だが、俺も唯一の肉親と、未来の義妹を危険な目に合わせたくない」
「っ……!?」
ここで過ごすようになってから、初めてみるウィルモンド様の真剣な表情を見ただけで、一瞬にして背筋が凍った。
アラン様もあたしと同じ気持ちなのか、緊張した面持ちで、あたしを守るように前に立ってくれた。
……ウィルモンド様が、魔法を使ったようには見えない。ただ、あたし達を見てるだけなのに……これが、長年騎士として鍛錬を積み、死地から帰ってきた人のプレッシャー……!?
こ、怖いけど……絶対に逃げるもんか!!
「はぁ……まったく、揃いも揃って命知らずな頑固もんだな。類は友を呼ぶとはよく言ったもんだ。わかった、これ以上は止めない。だが、一つ約束をしろ。必ず……二人揃って帰ってくると」
「ウィルモンド様……」
ウィルモンド様は、複雑そうな笑みを浮かべながら、順番にあたし達の頭を乱暴に撫でた。
……きっとウィルモンド様の心境は、穏やかなものじゃないだろう。
少なくとも、あたしが逆の立場で、悠や芽衣が危ない所に行くだなんて言いだしたら、気が気じゃなくなっていると思う。
それでも自分を押し通して行く以上、ウィルモンド様の心配を少しでも取り除きたい……そう思ったあたしは、まっすぐウィルモンド様を見つめながら、大きな声で、いってきますと告げた。
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バーンズ家の屋敷を馬車で出発してから半日ほど経った頃、あたし達はとある大きな町へと到着した。
アラン様が言うには、ここでとある魔道具を購入するために立ち寄ったとのことだ。出発が少し遅れたのも、それが関係しているらしい。
「魔道具って、どこで買うんですか?」
「マール魔道具店だ」
「マール魔道具店って、あの世界的に有名な?」
マール魔道具店というのは、侯爵家であるマール家が経営している、大規模なお店だ。様々な用途に使える魔道具を取り扱っているうえに、支店が各地に数多くある。
そういえばこの町には、マール魔道具店の本店があるんだっけ。今までそういうお店に全く縁がなかったから、全然気が付かなかった。
「マール魔道具店に到着致しました」
「噂をすればだな」
「ですね。パパっと受け取って、森に行きましょう!」
あたし達は馬車を降り、目の前にあった建物の中に入る。中には、水晶や杖に箒といった、魔法に関連する道具がたくさん並べられていた。
あたしは魔道具には全然詳しくないけれど、こんなにズラッと並べられると、ちょっと心が躍る。元々ウィンドウショッピングが好きだから、その影響だね。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いいたします」
「アラン・バーンズと申します。注文していた品を受け取りにまいりました」
「アラン・バーンズ様でございますね。お待ちしておりました。すぐにご用意いたしますので、奥の部屋でお待ちください」
店番をしていた若い女性に、店の奥にある小さな部屋へと通された。
どうやらこの部屋は、高価な魔道具の商談や、受け渡しをする際に使う部屋らしい。
「お待ちしておりました、アラン様」
「スィヤンフィ様? まさか、あなたに直々にお迎えしていただけるなんて、光栄です」
部屋の中に入ると、背中まで伸びる長い金髪と、青い瞳が特徴的な男性が出迎えてくれた。
この人、確かパーティー会場で見たことがあるような……? 名前は覚えてないけど、とても温厚で良い人だったっていうのは覚えている。
……あたしがミシェル・スチュワートだってバレたら、面倒なことになるかも……うぅ、バレませんように!
「そちらのお方は?」
「は、はじめまして。ミシェルと申します」
咄嗟に偽名を使おうと思ったけど、後で綻びが出て怪しまれるかもしれない。
それに、アラン様と何の打ち合わせもしていないで、そんなことを言ったら、どうして嘘を言ったんだって思われて、最悪ここまで築き上げてきた信頼が、無くなってしまうかもしれない……そう思い、素直に名乗った。
「はじめまして、ミシェル様。私はスィヤンフィ・マールと申します」
……あ、あれ? もしかして気づかれてない感じ?
本来のあたしの姿は、ハーフエルフの特徴である、少し尖った耳があるから、それが変身魔法で無くなっているから、気づかれなかったのかも。あ~よかったぁ……。
「注文していた品の準備は出来ていますか?」
「はい。ただいま準備しているのですが……少々時間がかかっているようですね。確認してまいりますので、少々お待ちください」
スィヤンフィ様は、そう言い残して部屋の外へと静かに出て行ってしまった。
「ところでアラン様、どうして魔道具を買いに来たんですか?」
「俺達が探している素材――アリエノ草は、かなり特殊な魔力を発しているという記録がある。それを魔道具で辿って見つけるというわけだ。森は魔力が乱れているから、正確な位置は把握できないだろうが……少しでも森に滞在する時間を減らせればと思ってな」
「なるほど、理解しました」
「お待たせいたしました。こちらでございます」
話している間に戻ってきたスィヤンフィ様は、再びあたし達の前に座ると、持ってきた品を見せてくれた。それは、掌サイズの水晶玉だった。
「使い方は、事前に注文を受けた際にお話しいたしましたが、もう一度ご説明いたしますか?」
「いえ、結構」
「かしこまりました。ところで……興味本位でお伺いいたしますが……そちらをどのようにお使いで?」
「この先にある森で、アリエノ草を探すために使うんです」
「アリエノ草……まさか、死の森ですか? アラン様、随分と勇敢になられたのですね……」
「色々と事情がありましてね」
「ふむ、なるほど……」
一度視線を落とし、深く考え込んだスィヤンフィ様は、再びあたし達に視線向けてから、再び口を開く。
「重ね重ね失礼になるのは承知の上でお伺いしますが、どうしてその素材を採りに? もしや、なにか高度な魔法の研究をされておられるのですか?」
「すごい、よくわかりましたね!?」
「仰る通り、俺達は魔法の研究をしていますが、それがなにか?」
「その魔法とは何なのでしょう? ああ、私も魔法使いの端くれとして、興味が湧いてしまったのです」
「申し訳ないが、あなたにお話する義理は無いので、お答えするのは控えさせてもらいます」
「そうですか。大変失礼いたしました」
ちょっとだけ眉尻を下げるスィヤンフィ様の顔は、ぱっと見では悲しそうではあったが、ほんの僅かに口角が上がっているのを、あたしは見逃さなかった。
……どうして笑ってるんだろう。今の会話の中に、嬉しい要素なんてあったかな?
「こちらが代金です」
「……申し訳ありませんが、こちらはお売りすることは致しかねます」




