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第三十一話 心境の変化

■アラン視点■


 ミシェルと希少な素材の話をした日の夜中、俺はミシェルには内緒で、徹夜で研究をしていた。


「なるべくなら、危険な場所に行くのは避けたいのだが……なにか良い方法はないものか……」


 自室にあるものや、大図書館から借りてきた本の中身を確認し、無ければ別の本を確認するというのを繰り返すが、これといった情報は無い。


 ――元々、転移魔法自体が難易度の高い魔法とされている。そのせいで、現在では使い勝手の悪い効果のものしか、一般的に普及していない。


 そんな難度の魔法を、たった二人で作らなければならない環境下で、しかも異世界という信じがたい場所に転移しなければならないだなんて、普通に考えれば正気の沙汰ではない。


「だが……魔法が完成したら、ミシェルが喜んでくれるだろうしな……」


 自然と口にした言葉に、思わずハッとする。


 俺は元々、家族や国の民、そして研究以外のことに関心はない。

 研究だって、両親や兄上のような戦争の犠牲者を、身内やこの国の民から出さないために、そしてこの国の民にも俺と同じような思いをしてほしくなくて、寝るまま惜しんで研究している。


 だというのに、気づいたら俺の中で、大切な人達や研究と同じくらい、ミシェルの存在が大きくなっていた。


 ……出会った頃は、いつ化けの皮が剥がれるかと警戒していたし、何の思惑があるのかと思っていた。


 だが、いつの間にかその警戒心は薄れていて……ミシェルが笑っている顔を見たら俺も嬉しくなるし、悲しそうにしていると俺も良い気持ちにはならないしし、しつこいくらい心配されるのも、悪くないと思ってる自分がいる。


 そんな自分がよくわからなくて、つい最近兄上に相談をしたら――


『お前が気づかないうちに、ミシェルに惚れたってことじゃねーか? やっぱり俺の見立ては間違ってなかったな! あ、結婚も子供も別に焦らなくてもいいから、なにかあったら、ちゃんと報告しろよ!』


 ――なんてことを言われたのだが、俺が異性を好きになるなんてありえない。恋愛などしている暇があれば、研究に勤しんだ方が有意義……のはずだが。


「どうして俺は、あの時兄上に、即座に違うと言えなかったのだろうか……」


 今までの俺だったら、兄上に悪ふざけはやめてくれと言っていただろう。

 だが、その時の俺は言葉を詰まらせてしまい、即座に否定することが出来なかった。


「……自分のことなのに、自分がわからないなんて、初めての経験だな……はぁ。わからないことを考えていても、時間の無駄だな。少しでも研究をしなければ」


 小さく溜息を漏らしつつ、別の本を手に取ると、ぎぃ……と何かが軋むような音が聞こえてきた。


 ……どうやら、彼女が様子を見に来たようだ。


「ミシェル、どうした。何か用か?」

「あ、見つかっちゃった……!」

「音が聞こえたからな。それに、廊下から君の魔力を感じ取った」

「さすがアラン様ですね……って、そんなことを言いに来たんじゃないんです!」

「廊下で騒がしくしていたら、なにかあったと思われる。中に入るといい」

「あ、そうですね……」


 俺のことを怒ったり、ハッとした表情をしたり、おずおずと部屋に入ってきたりと、ミシェルの動きはコロコロと変わるのが、見ていて不思議な面白さがある。

 同時に、胸の奥がじんわりと暖かくなる感覚を感じる。


「何か用か?」

「何か用か? じゃありませんよ! アラン様のことですから、今日も徹夜で研究をしていると思って、様子を見に来たんです! 案の定でしたね!」

「前から思っていたのだが、徹夜している日を的確に突いて様子を見に来るのは、君の魔法かなにかか?」

「いえ、あたしはそんな魔法は使えませんよ。強いてあげるなら……女の勘ですかね? 伊達にこの数ヶ月間、ずっと一緒にいたわけじゃありませんし!」


 確かに俺達は、一緒に研究をするようになってから、毎日顔を合わせているし、食事も一緒にしている。

 最初は俺だけ食べていたんだが、せっかくだから一緒にと誘って以来、一緒に食べるようになったんだ。


「……最近はちゃんと夜は休んでいるのだから、たまの徹夜くらい大目に見てくれてもいいだろう? 少ししたら、ちゃんと休む」

「その少しを大目に見たら、結局朝まで起きてた~なんてパターンを、何度見てるんですからね」


 それについてはなにも否定できないな。徹夜をしたら、確実に朝までしているだろうし。

 それがわかってるミシェルは、ソファに座って俺の監視を始めていた……のだが。


「…………」

「…………」

「すー……すー……」

「……これでは監視の意味が無いな」


 五分もしないうちに寝てしまったミシェルを見て、思わず苦笑いをしてしまった。


 俺の心配をするのは結構だが、ミシェルだって日々の仕事で疲れているのだから、その辺りの管理をしてほしい。


 ちなみに、ミシェルが俺の部屋で寝てしまったことは、一度や二度ではない。


 こうして俺が内緒で徹夜をしていると、わかったように俺の様子を見に来て、見張っているうちに、いつの間にか寝てしまうんだ。


「やれやれ……よっと」


 俺はミシェルをお姫様抱っこで持ち上げると、そのまま俺のベッドまで運ぶ。


 ミシェルのような小柄な人間なら、少し離れた彼女の部屋まで運ぶことは容易だが、気持ちよさそうに寝ているのを邪魔するのも忍びなくて、俺のベッドに寝かせている。


 ……まったく、我ながら考えが甘いなと笑ってしまいそうだ。だが……。


「それも、悪くはないな」


 俺はミシェルに暖かい布団をかけてあげてから、研究のための調べものを再開する。


 俺の理想と目的のため、そしてミシェルが無事に帰れるようになるため。立ち止まっている時間は無い。より一層気を引き締めなければな。

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