第三十話 いつの間にか彼の虜に……
ここで生活をするようになってから、約二ヶ月ちょっと経ったある日。
あたしは、処刑の日が間近に近づいてきていて、少々落ち着かない生活を送っていた。
ただ、様子が変なのはあたしだけじゃない。アラン様も少し様子が変だった。今も、食事をしているんだけど……。
「アラン様、考え事をしながらの食事はやめてくださいね。さっきから、スプーンが空を切ってますよ」
「…………」
「ダメだ、全然話を聞いてないや……」
こんな感じで、心ここにあらずって感じなんだよね。
こういう時のアラン様って、凄い真剣に考え事をしているって相場は決まってる。
「最近作った新しい回路に、ハーフエルフの魔力を……それだけじゃ足りない……外部から魔力補強を……しかしそれも……」
「アラン様、何か考えているなら、あたしにも話してください。もしかしたら、何か力になれるかもしれませんよ」
「ミシェル……」
「一人で悶々するよりも、二人の知恵を合わせましょう! まああたしの知恵なんて、たかが知れてるかもしれませんけどね! あはははは……はぁ」
自分で言ってて、情けなくなってきちゃったけど、へこたれてなんていられない。あたし達の目的のためにも、頑張らなくちゃ。
「そういうミシェルこそ、なにかあったのだろう? ずっと落ち着きがないじゃないか」
「あはは、バレてたんですね。前回の人生で処刑された日が、もう少ししたら来るんです」
「なるほど。それで落ち着かなかったと」
「前回とは流れが違うから、いきなり処刑になることはないと思いますけど……」
「何が起きても俺の傍にいれば安心だ」
「それって……」
「俺が守ってやるってことだ」
「っ……!!」
こ、ここで王子様発言いただいちゃった~! カッコいい~! こういうことをサラッと言える人って凄い~!
「ああ、勘違いはするな。知っている人間が目の前で傷つくのも嫌だが、優秀な使用人と助手の兼任者を失いたくないというのが理由だ」
カッコイイの波状攻撃に加えて、ツンデレになりきれてない可愛い発言のせいで、あたしは失神しそうだよ……。
……この数ヶ月の間で、優しくて、カッコよくて、ちょっと抜けてて、ツンデレっぽいアラン様を推してる自分がいる。
……ううん、推しているというよりも……あたし、アラン様と過ごす日々の中で、アラン様のことが……な、なーんて! あはは、変なことを考えてたら、アラン様の足を引っ張っちゃうよね!
「ごほんっ……それで、アラン様の悩み事は?」
「ああ。最近、君のおかげで研究が進んできたが、また行き詰ってしまってな。それを解決するために、少々変わった素材を試したいんだ」
「なら、あたしが買ってきますよ!」
「気持ちは大変ありがたいが、市場には流通していない貴重品なんだ。自分で採りに行かないと」
「じゃあ、あたしが採ってきます!」
「……とりあえず、話は最後まで聞こうな」
うぅ、アラン様の力になりたくて先走り過ぎちゃった……反省。
「その素材がある場所は、この世界でも三本の指に入るほど、危険な地域だ。そこは異常な魔力が充満した森なんだが、その異常魔力で成長した動植物が、森を支配している。足を踏み入れれば、生きては帰れない」
「そんな危険な場所があるんですね……」
「ああ。過去にとある国が、腕自慢の人間を集めて調査団を結成して派遣したが、誰一人帰ってこなかったとか……とある盗賊が貴重な素材で金儲けをするために、何人も森に挑んで帰ってこなかったとか……色々な記録がある」
そんな危険な場所がこの世界にあるなんて、全然知らなかったよ。
魔法を完成させるには、その素材があった方が良いんだろうけど、そんな危険な場所に行ったら、いくら凄い魔法使いであるアラン様も、命の保証は無い。
……仮にあたしが行ったとしても、多分一分も生きていられない。
「それに、その素材はエルフがよく使うもので、エルフしか見つけられないという文言も、本に書いてあった」
え、えぇ……ただでさえ危険な地域なのに、素材の採取自体の難易度まで高い素材なんだ……諦めるのが正解な気がするけど、せっかく進展の可能性があるのに諦めるのも……動物……植物……エルフ……あっ!
「もしかしたら、あたしの魔法なら、何とかなるかもしれません!」
「どういうことだ?」
あたしは少しだけ声を張りながら、アラン様の両手をギュッと握る。すると、アラン様はキョトンとした表情をしていた。
「あたしの魔法は、動物や植物の気持ちを通わせられるんです!」
「動物や植物と? 随分と変わった魔法を使えるんだな」
「あたしのエルフの血が由来してるらしいです。それで、その魔法を使って、彼らにあたし達が敵じゃないって気持ちを伝えれば、襲ってこないかもしれません!」
「そんな簡単な話ではないと思うが……」
「それに、エルフしか見つけられないって条件も、ハーフエルフのあたしなら、満たせられると思うんです! あたし、そこに行って素材を採ってきます!」
この魔法がもし有効だったら、動物や植物も襲ってこなくなるかもしれない。仮に失敗したら、急いで逃げればいいんだから、勝算はゼロではないと思う。
……そう思って提案したんだけど、真剣な表情をするアラン様に、首を横に振られてしまった。
「一人でなんて、行かせるわけがないだろう。俺も一緒に行く」
「え、でも……二手に分かれた方が、効率的ですよね?」
「効率を求めることは大事だが、死んでしまっては全てが無駄になる。それに、君は俺が守ると、先程伝えたはずだが?」
「っ……!!」
そ、そんな真剣な眼差しで、カッコいいことを言われたら……あ、あたし……耐えられないから……!
「おい、どうした。体中が真っ赤になっているぞ。熱でもあるのか?」
「ら、らいりょーうれふ……」
誰のせいでこんなにドキドキしてると思ってるの……ああもう、あたしってば……やっぱりアラン様のことが、いつの間にか心の底から好きになってる……!




