第二十九話 エリーザ達の進捗
■エリーザ視点■
「エリーザ、今日も出かけるのかい?」
「は、はい……フレリック様は、今日もお仕事でしょうか……?」
「ああ。いつもさみしい思いをさせてすまない。一週間後には休日があるから、その日は一緒に出掛けようじゃないか」
「楽しみにしてます……! では、行ってきます」
うちは、いつものようにオドオドした小動物っぽさを演じてから、フレリックの部屋から自室に移動すると、魔法で研究施設へと移動した。
転移魔法を使っても、体はなんともないんだから、これを作ったあいつの研究の腕は、やっぱり間違ってなかったんだな。
「あれ、監視室にいないじゃん。実験体がいる部屋にいる系?」
もぬけの殻だった監視室を出て、沢山の実験体がいる部屋に向かうと、そこにあの男が今日もニコニコしながら立っていた。
「ふふっ……私の可愛いサンプル達……やはり生で見るのは素晴らしい。あの監視方法は楽でいいが、適度に生で見ないと気が済みませんね……」
「おっつー。調子はどんな感じよ?」
「おはようございます。さらに改良を加えて、転移の対象の記憶を元に、移動先を参照するようにしました。これで転移したい場所に行って魔法陣を用意する必要がなくなりました。他にも色々と魔法回路を構築しました。おかげで、魔法の対象者が爆発はしなくなりました。しかし、使うと見ての通り……」
男は実験体のマウスを魔法陣の上に置く。すると、マウスは別の魔法陣の上へと一瞬で移動した。
おお、良い感じじゃん――そう思った矢先、魔法を使った側が急に倒れ、まるでミイラみたいな見た目に変化した。
「おえっ……キモすぎて吐きそう……!」
「前の魔法の被検体が爆発するのは改善しましたが、今度は別の問題が出てしまいました」
「どうしてこうなるわけ?」
「根本的に、発動する時の魔力が足りてなさすぎて、対象者から勝手に補ってしまうのが原因ですね」
「じゃあ増やせば万事オッケーじゃん」
「簡単に仰いますが、そう単純な話ではないのですよ。魔法を使う人間の頭数を増やして、なんとか補う方法もなくは無いですが、異なる人間同士の魔力を混ぜて一つの魔法を発動させるのは、難易度が高くて現実的ではありません。ただでさえ難易度の高い魔法ですからね。そもそも、一人で使えなければいみがありませんし」
魔法のことなんて、うちにはさっぱりわからないけど、とりあえず現状では使い物にならないポンコツ魔法だってことは理解した。
「具体的に言えし。どうすんのさ?」
「外部的な魔力強化を付与して補います」
「ドーピング的なやつ?」
「ドーピングというのは存じませんが、恐らくそんな感じかと。この方法だと、現状では魔法の使用者が普通の人間だと、強化に耐えきれず、死に至るでしょう」
「別に使用者が生きようが死のうが、うちにはどーでも良いことなんだけど?」
「あなたが使えなければ、向こうに行けても、帰ってこられないでしょう?」
別に、うちとしては復讐が出来るのなら、こっちに帰ってこれなくてもいいって感じだけど、また死ぬのはテンサゲだわ。
それに、せっかくちやほやされる環境があるのを、みすみす逃すのもなー。
「その問題を解決するために、エルフを使って実験を重ねます。エルフは人間よりも体の強度も魔力も優秀ですから、多少は耐えられるでしょう。そうして改善策を見つけます」
「いくらでもミイラ作っていいから、ちゃんと完成させろよ? じゃないと、うちが干からびるし。そうだ、どうやって魔力強化を付与するの?」
「一番手っ取り早いのは、とある植物を使うのがいいのですが……これの入手が少々面倒でしてね」
なんか、メンディーな感じがビンビンに伝わってくる。うちはか弱い美少女だから、面倒事はお断りなんだけど~。
「お前の店で取り扱ってない感じ?」
「うちが経営しているのは、あくまで魔道具店ですからね。植物は扱っておりません」
こんないかにも悪い研究者って感じのこいつは、表ではとある貴族の人間で、世界的に有名な魔道具店を経営している。
確か、全世界に支店があるって言ってたっけ。いわゆる、チェーン店の経営者って感じ。
「植物を探す魔道具は取り扱ってますがね」
「マ? んじゃ、ソッコーで解決じゃん!」
「確かに探す術はありますが、目的の物が手に入る場所が、危険極まりない場所です。一歩でも足を踏み入れれば、命の保証はありません」
物語によくある、入ったら生きて帰れないてきなやつ? 実際にそんな場所があるとか、さすが異世界パネーわ。
「んじゃ、他の方法はないわけ? たとえば、レベチに強い奴を行かせるとか」
「残念ながら、私の友人は危険に飛び込めるほど、勇敢な人物はおりません。エリーザ様こそ、お知り合いの方に、荒事に長けている肩はいないのですか?」
「超絶美少女のうちが頼めば、行ってくれる男はごまんといると思うけど……さっきの話からして、よわ男じゃダメっしょ?」
「ええ」
そうなると、いくらうちでもすぐには見つけらんねーかも。どこかにイケメンで、うちの下僕になってくれて、ちょー強い男が転がってなねーかなー。
「仕方がないので、別の方法を模索しております。幸いにも、あなたが連れて来てくれた、使い捨てのサンプルはたくさんおりますからね」
「あいつら、今は何をしてる感じ?」
「さあ。気になるなら、見に行ってみます?」
「それ、ありよりのありかも。惨めな負け犬を見てると、テンアゲしてくるし」
男と一緒に、一つ下の階にある大きな牢屋にやってくると、そこにはご汚い人間達が押し込まれていた。大人だろうが子供だろうが、老人だろうが、お構いなし。
こいつらは、実験に使うためのサンプルとして、うちが近くのビンボーな村から連れてきた。
村一つ分の人間を連れてくるのは、中々にメンディーことだと思ったけど、聖女のうちが助けてあげるって言ったら、泣きながらついてきた。
村人が消えたことについても、お偉いさん達にテキトーに誤魔化してもらっている。
「これだけいれば、楽勝っしょ。ちゃっちゃと進めてよ。うちは復讐がしたくて、うずうずしてんの」
「言われなくても。ああ、そうそう。最近部下が噂で聞いたそうですが、行方不明者が増えているという噂が囁かれているようです。もうちょっと上手くやってくれないと、いずれバレますよ」
「んなのわかってっし! ただ、いくらぶりっ子聖女を演じても、かなりきつくてぴえんなのを理解しろし」
自分と全く逆の人間を演じるっていうのは、想像以上に大変っていうのを、こいつは理解してなさげだわ。
「理解しているからこそ、私の魔法であなたのご両親や、国の上層部、そしてここの存在を知ってしまった方々に、ご協力していただいているのですよ。その協力を無駄にされるおつもりですか?」
「協力って、なーに言ってんだか。お前の魔法で洗脳してるだけっしょ」
洗脳と言っても、具体的には考え方を少し変える魔法だ。うちらのしている研究がとても素晴らしいもので、研究の資金や、行方不明者が出た時の話合わせをしてもらっている。
普通の洗脳と違って、意識は普通にあるから、かなりバレにくいらしいよ。うちにはよくわからないけど、使える駒が増えるのは、ありよりのありだからね。
あーそうそう、フレリックにもその魔法を使っていて、うちが頻繁に出かけても不審に思わないようにしてもらっている。この村人達の件の言い訳も、この魔法で操っているお偉いさん達に任せたってわけ。
「さて、一通りお話できましたし、そろそろ失礼しますよ」
「なんだよ、研究しねーの?」
「本職の方が疎かになっては、研究に支障が出る可能性がありますからね」
「はーん。まあうちは超絶お優しい美少女だから、太平洋のように広くて、インド洋のように深い心で許してやっても良いし」
「そのなんとか洋については、よくはわかりませんが、ありがとうございます。では」
うちの凄さもわからないまま、男は終始ニコニコしながら、研究室を後にした。
はぁ……一体いつになったら完成するんだか。日に日に増える復讐の炎がドッカンする前に、復讐をしたいんだけどなぁ……ふふふ、楽しみだなぁ……!




