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第二十六話 胸キュン

「大変申し訳ございませんでしたー!!」


 同日のお昼、急いでベッドから起き上がったあたしは、同じ部屋で研究をしていたアラン様に、勢いよく土下座をした。


 ああもう、話している時に寝落ちするのも論外だけど、アラン様のベッドを使わせてもらっちゃうなんて!

 ……でも、アラン様のベッド、ほんのりいい匂いがして、アラン様に包み込まれてる感じがして……その……えへぇ……って、これだとあたしが変態みたいだよ!


「立ったまま寝るとは、随分と器用な特技を持っているんだな」

「あ、あたしも自分でビックリしてます……アラン様が、あたしをベッドに運んでくれたんですか?」

「そうだ」


 それってつまり、アラン様に抱えられたってことだよね!? 肩を貸してくれたのか、おんぶしてくれたのか……それとも、お……お姫様だっことか!?


「ちなみにですけど……どうやって運んだんですか?」

「普通に運んだが」

「その普通の内容が知りたいんです!」

「それよりも、そろそろ研究を再開するぞ。手伝ってくれ」

「うぅ……は、はい」


 モヤモヤしつつも、アラン様と一緒に魔法の研究を始める。


「えっと……そういえば、この前は邪魔しないように読書してたので、アラン様の研究しているところをちゃんと見るのは初めてですね。どうやるんですか?」

「大まかに言えば、先人の知識を取り入れて、オリジナルの魔法を作る。例えば……」


 アラン様が軽く手を振ると、床に小さな魔法陣が二つ出てきた。その片方に、一冊本を乗せて見せた。


「知っているだろうが、転移魔法自体は、すでに先人が作り上げたものだ。だが、この魔法で転移できる距離の移動距離は短いし、転移できる物の大きさも限られている。それに、生き物を送ることができないのに、魔力の消費だけは立派に多いときてる」

「はい、それはあたしも知っています。だから、転移魔法は使い勝手の悪いものだって思ってました。現に、使ってる人を見たことがないですし」

「だから、これをベースにして、新たに魔法を作っている。それがこれだ」


 そう言うと、魔法陣の上に乗っていた本が消え、もう一つの魔法陣の上に現れた。

 ただ、その本はビリビリに引き裂かれ、見るも無残な姿に変わり果てていた。


「俺の魔法だと、どんな物でも転移することが可能で、座標がわかっていればどこでも魔法陣を作れるが、魔力による負担が大きくなってしまってな。結果、この程度の大きさでも大きく破損してしまうのが現状だ」

「なるほど……ちなみに、この本よりも小さいものなら大丈夫なんですか?」

「試しに実験用のネズミを転移したら、かなりボロボロになってしまったな」


 ネズミの大きさでそれだと、人間サイズの生き物を転移させたら……うぅ、考えただけでも鳥肌が……。


「もっと大掛かりな研究施設や人員、サンプルがあれば、飛躍的に進むだろうが……」

「バーンズ家の力で、なんとかならないんですか? 他の家と共同研究するとか」

「難しいな。表面上では協力してくれる人間はいるだろうが、裏では何をするかわからないし、どれだけ協力するかもわからない。はっきり言ってしまうと、足手まといにしかならない可能性が大きい」


 そ、そうだよね。アラン様は貴族の悪い部分をたくさん見てるんだから、協力なんて出来ないってわかってるよね。我ながら、なんともバカな質問をしちゃったな……。


「現状はこんな感じだ。一見すると手詰まりに見えるが、先日君が手伝ってくれたおかげで、進展出来そうなんだ」

「あたしのハーフエルフの魔力を注いだ時のですよね?」

「そうだ。あの後、君の魔力で変化した魔法回路を研究していたら、俺の知らないものになっていた。それを研究していけば、進展する可能性がある」


 汗水流して手伝ったことじゃないから、いまいち実感が湧かないけど、アラン様の力になれているなら良かった。


「……そういえば、どうして前々から転移魔法を研究しているんですか? ウィルモンド様から、民を守るための魔法と聞いたんですけど……他にも選択肢はありますよね?」

「そうだな。例えば、敵が何の前触れもなく攻めてきたとしよう。そこには平民しかいなくて、戦うことは到底不可能。そんな状況で、転移魔法があればどうなる?」

「一瞬で逃げられるとか?」

「そうだ。それだけじゃなく、離れた場所にいる兵士を即座に送り込めるし、武器や食料も届けられる。伝来を送ることも可能だし、敵をどこか別の場所に追い返すことも出来る」


 なるほど、そういう考え方は全く思いつかなかった。転移魔法一つでも、いろいろな考え方があるんだね。


「もちろん、もっと攻撃的な魔法にすることも出来たが……いくら敵と言えど、兄上のような怪我を負わせるのは、気が進まなくてな」

「やっぱりアラン様は、とても優しいですね」

「優しい? 違うな。俺はただの小心者だ。敵に情など持っていては、戦争で殺されても文句は言えない」

「あたしはそう思いませんよ。アラン様はお人好しと言われてもおかしくないくらい、優しい人です!」


 胸の前で握り拳を二つ作りながら、身を乗り出して力説すると、僅かながらも、あたしに笑顔を見せてくれた。


 よく見ないとわからないくらいの頬笑みは、あまりにも綺麗で……思わず胸がキュンとしてしまった。


「本当に君は、面白い人間だな。さあ、おしゃべりはここまでにしよう。ミシェル、今から渡すメモに書かれている本を探してくれないか?」

「…………」

「ミシェル? 聞いているか?」

「……あ、はい! なんでしょうか?」

「本を探してくれと頼んだんだ」

「本ですか!? わかりまし……って、何の本でしょうか?」

「今からメモを書いて渡す」


 うぅ……キュンキュンしてたら、完全にアラン様の話をスルーしちゃってたよ……これじゃあ、アラン様の助手失格だ。

 アラン様の目的を達成してもらうために、そしてあたしの目的を達成するためにも、ちゃんとアラン様を支えないと。


 そう思った直後、あたしがプレゼントした羽ペンを使っているアラン様の姿を見て、嬉しくてまたキュンとしてしまったのは、ここだけの秘密。


「この本だ。任せた」

「わかりました。えっと、これとこれと……ん?」


 本棚にしまわれた沢山の本の中から、目的の本を探していると、後ろからドサッ……ドサッ……と、何かが落ちる音が聞こえてきた。

 何となく嫌な予感を感じながら振り向くと、そこではアラン様が本棚から魔法で本を浮かせ、中身をサッと確認しては放り出すということを繰り返していた。


「アラン様! 何をしてるんですか!」

「メモに書き忘れた本で、一つ確認しておきたいものがあったんだが、どの本か覚えていないから、それらしい本を片っ端から調べている」

「調べるのは良いですけど、ちゃんと本は戻してください!」

「その辺りは、助手である君に任せる」

「あたしの動ける量に対して、散らかす速度が早すぎて無理ですよー!」


 どうやって短時間で部屋を散らかすのかと思ってたけど、これじゃあ散らかるのも無理はないよ! ああもう、また片付けないと……!

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