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第二十四話 神童と貴族達

「アランは、昔から魔法の才能がずば抜けていてな。幼い頃から、既にそこいらの魔法使いなど、足元にも及ばないほどだった。しかも今のアランとは別人と思えるくらい、人当たりがよくて素直な、太陽のように明るい子だった」


 魔法関連の話は納得できるけど、性格の部分は全然違う子供時代だったんだ……一体何がどうして、今のアラン様になったんだろう?


「周りの貴族達は、アランを魔力も人間性も良く出来た、神童だともてはやした。だがあいつは……昔起こった戦争を機に、大きく変わっちまった」

「えっ……?」


 戦争って、十五年前にあった戦争のことだよね。聞く前から、嫌な予感しかしないけど……アラン様の助手として、専属の使用人として、向き合わなくちゃ。


「俺の親父はかなり名の知れた騎士で、お袋は高名な魔法使いだった。二人はその実力を買われて、戦争に駆り出された」

「…………」

「実は俺も、当時は新人の騎士でな。親父仕込みの剣が評価されて、戦争に行くことになった」


 ウィルモンド様の体がボロボロなのは、戦争が関係していると思ってはいたけれど、やっぱりそうだったんだね。


「戦争は、終始俺達が優勢だった。その状況を打破するために、敵は半ば自爆特攻と言えるような魔法を使ってきた。お袋は、その魔法を防ぐために、他の魔法使いと力を合わせて魔法を防ごうとした。だが、お袋のような実力のある魔法使いがいても、その魔法は防ぎきれなかった。その結果、戦場にいた親父や俺、多くの兵士達は瀕死の重傷を負った」

「お、お母様は……?」

「死んだよ。跡形も残らなかった」


 ……聞いているだけで、胸が苦しくなる。どこの世界でも、戦争なんて無くなってしまえばいいのに……どうしてみんな、争わずに普通に暮らすことが出来ないのだろう。


「ご覧の通り、俺はボロボロになりながらも、なんとか一命をとりとめたが……親父は兵士達を守ろうと、魔法を斬ろうとした。結果的に、魔法の威力は少し抑えることは出来たが、親父も助からないほどの重傷を負った。俺が目を覚ました時には、親父は既に死んでたよ。その最期を看取ったアランが言うには、俺達家族と、守りきれなかった兵士、そして国や民に謝罪をし、大切な妻一人すら守れなかった無力さを嘆いて、息を引き取ったそうだ」


 ……あたしなんかに、お父様の気持ちを理解しようとするのは、おこがましいと思うけど……大切な人を置いて逝ってしまう悲しみはわかるから、その気持ちは少しはわかる。


「ここまでのことで終わってたら、アランは少しくらいは明るさを残していただろう。だが、幼いアランに向けられた、多くの悪意がそれを許さなかった」

「悪意……?」

「俺とアランに対して、とある言葉が投げかけられた。魔法を斬ろうとするだなんて、親父は冷静な判断が出来ない愚か者。お袋がもっと抑えていれば、被害はさらに減った。もてはやされていたくせにこの程度か……そういった、両親に対する心無い批判を、俺達兄弟は聞かされ続けた。それも、安全な所でぬくぬくとしていた貴族達が、こぞって言ってたな」

「っ……!! ふざけんないでよ!!」


 あまりにも身勝手で、人の心なんて通っていないじゃないかと思うような、貴族の人達の酷い言葉を聞いて、思わずテーブルに拳を振り下ろしてしまった。


「おいおい、急に机を叩きつけてどうした? せっかくの綺麗な手が傷ついちまうぜ?」

「だって……だって!!」


 ウィルモンド様のお父様も、お母様も、国と民を守るために命をかけたのに、どうしてそんな心無い言葉を言われないといけないの!?


「おかしいじゃないですか!! お父様もお母様も必死に戦ったのに! どうしてそんな酷いことを言われないといけないんですか!? 何もしていない人達に、そんなことを言う権利なんてありません!」

「ミシェル……」

「こんなの絶対におかしい……おかしいよ……」


 体と声を震わせながら、大粒の涙がポタポタと零れていた。


「世間なんてそんなものさ。特に陰湿な奴が多い貴族様なんて、その代表みたいなものだしな」


 これでも一応、前世で何年も社会人をやってたから、世間が自分の思ってるよりも、何百倍も冷たくて酷いものだってわかってるよ。わかってるけど……納得なんてできない。


「安全な場所から、呑気に批判するのがお得意な連中の批判が飛び交う中、一部は将来アランといい関係を結びたくて、無駄に褒める連中もいた。そんな環境で、人間の汚さを見せられ続けたアランからは、徐々に明るさが消え……社交界に極力でなくなり、研究に没頭し始めた」


 ……そっか、そんなつらいことがあったから、アラン様はクールになり、研究に没頭するようになったのね……考えるだけで、また泣いちゃいそう。


「ただ、心の根っこの部分にある優しさは変わってなくてな。自分の人生を投げ捨ててまで、自分が凄い魔法を作って、この国の民から、俺や親父たちのような犠牲者を出さないようにしようとしているし、ずっと仕えていたイヴァン達を心配して、店に通っているようなやつだ。まあ……その優しさが、結果的にアランを追い詰め、利用している連中を守ることにも繋がるんだから、皮肉なもんだ」

「ウィルモンド様は、アラン様を止めなかったんですか?」

「止めたさ。それも何度もな」


 ウィルモンド様は、咥えていた葉巻を握りつぶしながら、悔しそうに顔をしかめた。


「だが、貴族のバカ共を気にするせいで、多くの犠牲者を出す可能性を生み出す必要は無いって、突っぱねられてな」


 自分に酷いことをしてきた人達への恨みよりも、守るべき人達のために努力をするのは、優しいアラン様らしい。


 それと、今の話をずっと聞いていたら、アラン様があたしのことを警戒していた理由がわかってきた。


 記憶が戻る前のあたしは、まさに悪役令嬢って感じの人間だったし、そんな人間が知り合いの店で働いていたら、アラン様の性格なら警戒するよね……。


「まあそんな感じで、今日もあいつは魔法の研究にご熱心ってことだ。何とも不器用な弟だが、それなりでいいから仲良くしてやってくれると助かる」

「それなりだなんて! 元々、アラン様とのコミュニケーションはちゃんとしようと思ってましたけど、ウィルモンド様のお話を聞いて、その気持ちが更に強くなりました」

「そうかそうか! お前さんは本当に良い子だな!」


 ウィルモンド様は、いつものようにニカッと笑いながら身を乗り出すと、あたしの頭をワシャワシャと撫でた。


「色々と、本当にありがとうな、ミシェル」

「ウィルモンド様……」


 あたしにだけ聞こえるくらいの、小さなお礼の言葉には、アラン様に対する優しさや心配といった、とても暖かい感情を感じ取れた。


「そうだ、話を聞いてくれた礼に一つ教えておこう。アランは、ミシェルのことを多かれ少なかれ、気に入っている節があるぞ」

「え?」

「あいつは基本的に、家族や屋敷の人間以外に対しては、関心を持たない。嫌な人間ばかり見てきたから、関心を持ったところで時間の無駄だからな。だが、ミシェルに対しては、その傾向が見られない」

「その関心は、あまりポジティブなものじゃないような気がしますけど……」


 アラン様は、性格が急変したうえに、イヴァンさんの店で働き始めたあたしのことを、将来的に何かしでかすんじゃないかって警戒してるから、関心があるだけだと思うけど……。


「あいつにも同じことを言ったんだけどよ。ミシェルを監視するために、わざわざ助手にして近くに置いとく必要性ってあるか?」

「近くにいれば、対処はしやすいですよね?」

「そりゃそうだ。だが、別に無理やり連れてきて監禁するって選択肢も、一応あるだろ?」


 あるにはあると思うけど、アラン様がそんな非人道的な選択をするとは思えないなぁ。


「研究の助手の件も、無理やり実験動物にすることも可能だしな。どうしても邪魔なら、秘密裏に殺すことだって出来ただろう」

「……なんだか、考え方がちょっと怖いですね」

「はははっ! 綺麗事だけでは、この世界は生きていけないからな! 言っておくけど、俺はそんなことをしろなんて思ってないからな?」


 ウィルモンド様が、そんなことをしないのはわかっているけど、物騒なことには変わりない。


「だが、あいつはそれをしなかった。それに、ミシェルのことをただの助手や使用人ではなく、ミシェル・スチュワートという人間として見ているように思えてならないのさ」

「そうなんでしょうか……?」

「まあ、所詮は当事者じゃない俺の見立てに過ぎねーがな! あぁ、結婚するなら早めに言えよ? 良い式場を用意するの、結構時間がかかるからよ」


 ウィルモンド様の爆弾発言に驚いてしまい、思わずその場で立ち上がってしまった。


「な、なんであたしがアラン様と結婚するお話になってるんですか!?」

「なんだ、嫌か? あいつ、見た目はかなり良いし、魔法の才能もずば抜けてるぜ? 天性のお人好しだし」

「嫌というわけでは……あんな素敵な人と結ばれるなんて、むしろ嬉しいといいますか……ごにょごにょ」

「まあ、生活面が壊滅してるのが玉に瑕だがな。俺はこんな身なりだし、アランもあの性格だから、婚約してくれる令嬢は見つからねーし……このままじゃ、バーンズ家は俺達の代で終わっちまう。誰か弟を貰ってくれる人はいねーかなー……ちらっ、ちらちらっ」


 見てる、凄く見てるよ! しかも声まで出ちゃってるし!

 あ、あたしだってアラン様のことは、良い人だと思っているし、カッコいいし、魅力的だから、結婚できたら嬉しいけど……。


「そ、そういうのはまだ早いと思います」

「まだ……ってことは、将来的には可能性があるのか~?」

「っ~~~~……!!」

「ははっ、悪かったよ、そんな頬を膨らませるな!」

「もうっ、知りません! お話は以上ですか?」

「ああ。話したいことは話した」

「では失礼しますね!」


 あたしは、半ば逃げるようにウィルモンド様の部屋を後にした。


 はぁ、なんか色々話してどっと疲れちゃったよ。休んでる暇はないんだけどね。はやくアラン様の所に行って、朝ごはんの準備をしなきゃ。あたしがいかないと、絶対に食べてないだろうし……。

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