第二十三話 気さくな当主
「ふぁ~……うん、よく寝た……」
翌朝、新しい自室で目を覚ましたあたしは、大きな窓の前に立って朝日を浴びながら、大きく伸びをした。
まだ慣れていない部屋だったけど、自分でも驚く程ぐっすりだった……以前住んでた小屋の初日は、結構寝つきが悪かったのに。
もしかしたら、昨日色々あったから、思っていたよりも疲れていたのかもしれない。
「さてと、早く身支度をしてアラン様のところに行かなくちゃ」
アラン様のことだから、絶対に朝ごはんを食べずに研究に没頭しているだろうから、あたしがちゃんとアラン様にごはんを食べさせないと。
「なんだか、あたしがアラン様のお母さんになったみたい」
自分で言っておいてなんだけど、あながち間違っていない呟きに、思わずクスっと笑みが零れた。
アラン様って、いつもとてもクールで凛々しくて……困っている時は、警戒しているあたしでも助けてくれるくらい優しい人だけど、私生活がおざなりなところが、なんだか可愛いというか、あたしが何とかしなきゃって思っちゃうんだよね。
「ふんふふ~ん……♪」
鼻歌を歌いながら、事前に用意してくれていたエプロンドレスにテキパキと着替え、髪のセットをし、さっとお化粧も済ませる。
実家を出てから一人で生活していたおかげか、身支度は一人で出来るようになっている。
最初の頃は、エプロンドレスの着かたに苦労してたっけ……前世の記憶が戻る前は、全部使用人に丸投げしてたし、もちろん前世でこんな服は着たこともないから、着替え一つで苦労したんだ。
「よし、準備完了っと! さあ、アラン様のところにいこっと!」
「ミシェル様、起きていらっしゃいますか?」
「あ、はーい!」
まるであたしの準備が終わるのを見計らっていたかのように、少し歳を召した女性の使用人が、部屋にやってきた。
「ウィルモンド様がお呼びでございます」
「ウィルモンド様が? 何のご用でしょうか?」
「少し話がしたいと仰っておりました」
「はぁ……わかりました。どこに向かえばいいでしょうか?」
「私室におられます。私めがご案内いたします」
「ありがとうございます」
彼女の後についていくと、屋敷の最上階にある一室に連れて来てもらった。
「ウィルモンド様。ミシェル様をお連れいたしました」
「ご苦労さん! 入ってきていいぞー!」
「はい、失礼します」
相変わらず貴族の人とは思えないくらい、軽いノリに促されて部屋の中に入ると、ウィルモンド様の屈託のない笑顔と、葉巻の煙で充満した部屋に出迎えられた。
「ごほっ、ごほっ……お、おはようございます、ウィルモンド様……」
「おう、おはよう! っと……葉巻の煙は苦手だったか? ちょっと待ってろ」
そう言うと、ウィルモンド様はパチンと指を鳴らす。すると、まるで霧の中にいるんじゃないかと錯覚するほどだった部屋から、煙が消えた。
「わぁ、煙が一瞬で……今の、魔法ですか?」
「おう! アランが一から開発してくれた、葉巻の煙を消す魔法さ。ピンポイントすぎて笑っちまうだろ? 兄上の部屋はいつも煙が酷いから、これで少しは何とかしろって、アランに言われてな! はっはっはっ!」
な、なるほど? ここって笑うところなのかな……? ちょっとウィルモンド様の笑いのツボが、あたしにはよくわからないや。
「お話があると聞いたんですけど、どんなお話でしょうか?」
「おう。ちとアランについて話しておきたくてな。ほれ、とりあえずそこに座りな」
部屋に置かれたソファに座ると、ウィルモンド様は、テーブルを挟んで置かれるソファに座った。
「正直、あいつのことをどう思っている?」
「ど、どうって……!?」
この質問、前に漫画で読んだことがある! 確か、異性としてどう思っているか聞きたい時に使う聞き方だよね!? 急にそんなことを聞かれても……えっと、えーっと!
「あ、アラン様は……その、普段はクールだけど、いざって時に助けてくれて……カッコよくて優しくて……とても魅力的な男性だと思います!」
「はっはっはっ! そうか、あいつのことをそんなふうに言う人間は初めてだな! あいつは魔法の研究にしか興味が無いようなやつだから、うまくやれそうでよかったぜ」
「ちゃんとやっていけてるので、大丈夫ですよ。あ、でも……ちょっと思ったんですけど……アラン様って、どうして魔法の研究に熱心なのでしょうか?」
「あー……まあ色々あってな」
今までずっとニコニコしていた顔から一転、どこか気まずそうに視線を逸らされてしまった。
これって、もしかしなくても聞いちゃいけないことを聞いちゃった感じ……!?
「その話をするには、ちと長くなると思うが、それでもいいか?」
「それは大丈夫ですけど、もしお話したくないことなら、無理には聞きません」
「別に身内に隠すようなことじゃねーから気にすんな」
ふう……と深く息を漏らしたウィルモンド様は、慣れた手つきで葉巻に火をつけ、それを口に咥えると、ポツリポツリと話し始めた――




