第十五話 バレちゃった!?
「えっ!? ま、魔法が解けてる!?」
「俺が解いた。その髪に目、そして尖った耳……やはり君は、スチュワート家の令嬢だったか」
完全に魔法が解けて、自分の本来の姿が露見してしまった以上、反論は一切できない。代わりに、誤魔化すように視線を泳がすことしかできなかった。
「あの……どうしてわかったんですか?」
「君の中に流れる魔力の質が、あの婚約破棄をされた会場で見た魔力と同じだった」
あの日にアラン様も会場にいたの? 無事に婚約破棄が出来ることしか考えてなくて、全然気が付かなかった……迂闊だった。
「それと、君からは常に魔法で体の部位を変化している形跡があった」
「そんなのがわかるんですか!?」
「ああ」
アラン様の魔法の腕は、お店の一件で凄いのはわかってたけど、まさかそこまでわかるなんて。
なんとか自分の正体を隠せたまま三ヶ月過ごせたのに、こんな所でバレちゃうなんて……もしかしたら、これがキッカケで処刑される未来にまた行ってしまう可能性がある。そうなる前に、早くここから離れないと!
「す、凄いですねー! その凄い力を見せてもらえたことですし、ワタクシはそろそろお暇しますね!」
「待て」
あたしを壁際まで追いやると、アラン様はあたしを逃がさないように、右手を壁にドンっとやって、逃げ道を断った。
……え、えぇぇぇ!? これって……壁ドン!? うそ、現実でされることなんてあるの!? 漫画の中だけだと思ってたよ!
助けてもらった時も思ったけど、なんで現実ではありえなさそうなことが、転生した後に経験してるの!?
「俺の目をジッと見ろ」
「ひゃい!」
言われた通りに、ジッとアラン様の目を見つめる。
今までは、とても綺麗で見惚れてしまう目だったのに、今ではその目が少し怖く感じられる。
「君は何を企んでいる? 時に楽しく、そして真摯に取り組んでいる君の仕事をする姿勢からは、ワガママなミシェル・スチュワートと同一人物とは、到底思えない。もし可能性があるとしたら、なにか企んでいて、そのために演技をしているとしか考えられない」
あー、うん……その気持ちは痛いほどよくわかるよ……ちゃんと説明すれば、もしかしたら、納得してもらえるかも……?
「企んでるなんてそんな……ワタクシはただ、とある場所に行きたいんです」
「とある場所?」
「信じられないでしょうけど……ワタクシは転生者であって、死に戻りもしてるんです」
「……は?」
うん、わかってたよ! こいつなに言ってんだ? みたいな反応!
でも、あたしは事実を述べてるだけだから、どうしようもないよ!
「……まあいい。話を続けてくれ」
「はい。ワタクシは元々、違う世界で生活してましたけど、事故で亡くなりました。そうしたら、この世界でミシェルとして転生しました。しかし、最近までワタクシには前世の記憶がありませんでした。ワタクシはワガママに育ち、好き放題した結果、婚約破棄をされ、その後にも色々あって……処刑されました」
さすがに逆恨みで、フレリック様とエリーザ様の殺害を企てたり、クーデターの冤罪をかけられたとかまで言ったら、話が拗れそうだから黙っておこう……。
「その後に、過去の夢を見て、目覚めたら処刑の半年前で……そこで激しい頭痛と共に、前世の記憶が戻ったんです。性格も、前世のものになっていました」
「……それで、ワガママな性格は鳴りを潜めた、と?」
「そういうことです」
自分で言っておきながら、全く意味がわからないことを言ってるなと思いつつ、さらに言葉を紡いでいく。
「記憶が戻ったのは良いんですけど、前世の世界に家族を残してしまったことも思い出して……幼い弟妹なんですけど……二人が心配で心配で仕方がないんです。なので、なんとかして二人の元に帰りたいんです」
「そのために、日々魔法の勉強をしているのか」
「ワタクシが勉強しているの、知っているんですか?」
「君の事情については、大体は酒場の夫婦から聞いているからな」
そうだったんだ。別に勉強に関しては隠すようなことじゃないから、知られていたとしても、大した問題じゃないね。
「あの、アラン様は異世界に行ける魔法とか使えませんか?」
「すまないが、そのような魔法は使えないな」
「そうですか……」
アラン様なら、もしかしたらって思ったけど、そんなに甘くないよね……。
「それにしても、その話は本当なのか?」
「本当ですよ!」
「なら、その前世にあった物の話をしてくれ。この世界に無い物を言われれば、信用できる材料になる」
「無い物ですか……そうですね……」
この世界は中世くらいの世界で、電気を使うような物は存在しない。例えば、テレビとか、スマホとか、パソコンとか。
その辺りの話をしたら、あたしの話を信じてくれるかもしれない。よーっし、思いつくものを全てアラン様に話してみよう!
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「離れていても話が出来る……遠くの景色や声を聞いたり見たりできる……馬を使わずに早く移動できる……莫大な情報を送れる……一度に多くに人間を乗せて空を飛べる……どれもこれも、信じられないようなものばかりだ」
思いついたものを片っ端から話し終えると、アラン様は腕を組みながら、小さく息を漏らした。
「にわかには信じられない内容ではあるが……嘘をついていないのは確かだな」
「信じてくれるんですか?」
「ああ。君に気づかれないように、嘘を見抜く魔法を使っていたからな」
いつの間に、そんな魔法を使っていたの? 全然気づかなかった……。
「とはいえ、君が嘘をついていないのがわかるだけで、今の内容が信じられるものではない。もしかしたら、君が妄想を真実と信じ切っている可能性もあるからな」
確かに、こんなのは作り話に思われてもおかしくはないけど、何かその解釈だと、あたしがちょっと危ない人に聞こえるのは、なんか嫌かも。
「と、とりあえず話すことは話しましたから、離れてもらえると嬉しいです」
「ああ。ずっと立ち話をするのもなんだから、座るといい」
やっと解放されて一安心しつつ、部屋に置かれたソファに腰を下ろした。
アラン様みたいな綺麗な人に、ずっと壁ドンをされたドキドキと、正体がバレたドキドキによる相乗効果のせいで、口から心臓が出そうだ。
こういう時は、何か話を振って気を紛らわそう。丁度聞きたいこともあるからね。
「あの、ワタクシも一つ、質問しても良いですか?」
「なんだ?」
「どうして、ワタクシのことを怪しんでいるのですか? 極論ではありますけど、ワタクシが何を考え、企んでいたとしても、あなたには関係ありませんよね?」
「俺の大切な家族や領民、それにイヴァンの店に不利益を被る可能性があると考え、警戒していた」
「な、なるほど……確かにワタクシの以前の性格をご存じなら、何をするかわかりませんもんね」
「その通りだ。だから、君が現状では脅威になり得ないとしても、今後脅威になる可能性を考えると、放っておけない」
アラン様は、そこで一旦言葉を区切ると、とても真剣な目であたしを見つめる。
「そこで、一つ提案がある。俺と君、どちらにもメリットがあることだ」
「メリット?」
「俺は日々魔法の研究をしているが、最近少し滞っていてな。その助手と、専属の使用人になってもらいたい」