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第十二話 カッコいい背中

 あたしの前に立ったアラン様の横顔は、感情が読み取れないくらい無表情だったが、それが逆にあたしには頼もしく見えた。


 あくまで彼はお客さんなのだから、面倒ごとに首を突っ込む必要なんて無いのに、颯爽と助けてくれるなんて……ど、どうしよう! 凄くカッコイイかも!


 前世で学校の友達から借りて、ママに見つからないようにこっそり読んでた少女漫画に、こういう困った時に助けてくれる場面があって、自分もいつか経験したいって思ったことがあったけど、まさか転生してから経験するとは、夢にも思ってなかったよ!


「ミシェル、店の扉を開けてくれるか?」

「え……? は、はい!」


 急な申し出に、一瞬ぽかーんとしてしまったけど、すぐに返事をしてから、言われた通りにお店の入口の扉を開ける。


 このまま彼を連れて外に行くつもりなのだろうか? でも、それならあたしに開けさせる意味って……あ、目を離さないようにすることで、なにか変なことをした時に対処できるようにしているとか?


「その身なりと言葉からして、高名な学者か魔法使いとお見受けする」

「ほう、少々話せそうな男じゃないか。とはいえ、こんなバカどもを助けようとするのだから、お前もバカ――」

「この場はあなただけの場所ではありません。喚き散らしたら、多くの者に迷惑がかかるのは、少し考えればわかるでしょう。それもわからないとは……もしや、見た目や呼ばれ方だけ知的に見せかけて、優越感に浸っているだけですか?」

「な、なんだと!?」


 淡々とした言葉で煽られた学者風の男性は、怒りで表情を歪めながら、テーブルに立てかけてあった杖を手に取る。

 しかし、その瞬間に学者風の男性の体が宙に浮き、そのまま店の外に投げ出されてしまった。


「いたた……な、何をする!? 私はわざわざ遠い地からこの町の図書館に来てやった高名な学者であり、偉大な魔法使いなのだぞ!?」

「そうでしたか。では……そんな聡明なあなたに一言だけ。それがどうした?」


 淡々と答えながら、綺麗な男性がスッと手を上げると、彼の髪や服がサワサワと動き始める。

 それが、彼の体から漏れ出ている魔力と気づくのに、さほど時間はかからなかった。


 なにこれ……近くに立っているだけで、肌がビリビリしてくる。こんな凄い魔力を見たのは初めてだ。


「あなたのような、一生懸命働いている人間に水を差したり、楽しんでいる場を壊したり、人を偏見でバカにするような人間は、この店にふさわしくない。だから、俺があなたを故郷まで送り届けよう。ああ、もし飛ばし過ぎてしまった時は、笑って許してもらえるとありがたい」

「ひ、ひぃぃぃぃ!?」


 アラン様の圧倒的実力が、彼にもわかったのだろう……脱兎のごとく、その場から逃げていってしまった。


 あれだけ凄みや魔力をありありと見せられたら、逃げるのが正解って思うよ。


「イヴァンさん、リシューさん、大丈夫ですか!?」

「俺は……問題ない」

「なーに、こんなのいつものやつさ! ほれ、気にせずに営業を続けるよ!」

「む、無理はしないでくださいね」


 あんなことがあったというのに、何事も無かったように営業をしようとするリシューさんのメンタルの強さは、見習うところがある。

 あたしもいつかは、リシューさんみたいな、強い女性になりたいな。


「……あの……ご、ご迷惑をおかけしてすみませんでした……あの人には、きつく言っておきますので……」

「いえいえ! あなたは何も悪くないんですから、落ち込まないでください!」

「あたなは優しい方ですね……ありがとうございます……」


 学者風の男性と一緒に来ていた女性は、叩かれた頬の赤みが取れないまま、清算をして退店していった。


 ……ああいう上司の下についちゃうと、部下は苦労するよねぇ……よくわかる……あたしも経験あるし……。


 って、しみじみと上司のことを考えてる場合じゃないよね! 仕事に戻る前に、アラン様にお礼をしないと!


「あの、助けてくれて、ありがとうございました!」

「気にするな。怪我は無いか?」

「大丈夫です! 前に出て庇ってくれた時、凄くカッコよかったです! それに、凄く優しいんですね!」

「カッコいい? そうか……君は、面白いことを考えるんだな」


 そんなことはないと思う。困ってる時に、まるで白馬に乗った王子様みたいに、スマートに助けられるなんて、なかなか出来ないことだ。


「本当のことですから!」

「…………」


 にっこりと笑うあたしとは対照的に、アラン様はとても真剣な顔であたしを見つめる。

 アラン様のような綺麗な人にジッと見られたら、ちょっと照れちゃうかも。


「えっと……あの~、あたしの顔に何かついてますか?」

「……いや、なんでもない」


 アラン様はその言葉を最後に、自分のいた席に座り、視線を窓の外にやった。


 大体この人が外を見ている時は、あまり人と話したくない時なんだと、最近わかるようになってきた。


 あはは……あたしってば、どれだけこの人のことを見てるんだって話だよね。

 でも仕方ないんだよ! この人、すっごく綺麗でカッコいいんだから、ついつい見ちゃって……少しずつ分かるようになっちゃったんだ。


「あの、このお礼は後日させていただきますね。では、失礼します」


 咄嗟に言ったはいいけど、何をすればいいんだろうか? この人の好きな物とか、喜びそうなものって、全然知らないんだよね……。


 あ、そうだ! イヴァンさんとリシューさんなら、付き合いはそれなりにありそうだし、なにか知ってるかもしれないね! お仕事が終わったら、聞いてみよっと!

 

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