第一話 処刑執行
「これより、罪人ミシェル・スチュワートの処刑を執り行う！！」
ワタクシにとって価値が無い庶民たちが、これから起こることを一目見ようと、所狭しと町中の広場にやってきている。その広場に置かれた、ブサイクなギロチン台に立たされたワタクシは、高らかに宣言をした執行人を睨みつける。
「ワタクシは処刑なんてされる筋合いはありませんわ！ そもそも、ワタクシがスチュワート伯爵家の令嬢と知っての狼藉なの！？」
「ええ、全て最初から存じております。あなたのしてきた数々のいじめや、彼女達への復讐計画未遂、あげくにはクーデターまで企んでいた。それらを加味して裁判を行い、初回が言い渡されたと、以前ご説明しましたが？」
「そんなの聞いておりませんわ！」
そんな長ったらしい話なんて、聞いてる余裕がワタクシにあると思っておりますの！？ 自分の死刑判決を受けて、悠長に説明を聞けるバカがいるわけないでしょう！？
「全て、あいつらが悪いですの……！ あいつらが勝手なことをでっちあげましたの！」
ギロチン台を一番近くから見れる場所には、忌々しい女と男の姿があった。
女の方は、エリーザ・ヘッカー子爵令嬢。
なよなよした性格で、いつも小動物みたいにビクビクしていて、見てて凄くイライラするんですの。
そのくせ、この女は聖女と呼ばれる、清らかな人間だけが持つ、特殊な魔力を持っている。それもあってか、守ってあげなくてはと勘違いするバカ男どもからのアプローチが凄い。
ワタクシはこいつの性格や、男に媚び売っているような態度が大嫌いだ。だから、ワタクシやエリーザが通う学園で、何年もかけて、エリーザのことを散々いじめてやりましたわ。
そうしたらエリーザのやつ、隣に立っている、ワタクシの婚約者である、フレリック・カルフォン侯爵子爵に、ワタクシにされたことを洗いざらい吐いたそうですの。
結果、ワタクシは大きなパーティーの最中に婚約破棄を突き付けられ、とても恥ずかしく、言葉にしがたい屈辱を受けた。
……フレリック様に立ち、腕に抱きつきながら控えめに笑うエリーザの姿は、なによりも腹が立った。今でも夢に出てくるくらいですの。
その後、ワタクシはお父様に婚約者を失うとは何事だと酷く叱られ、家を追い出されてしまいました。
全てを失ったワタクシは、エリーザとフレリックに復讐を誓った。必ずこの恨みを晴らそうと……。
しかし、どこからか情報が漏れたのか、ワタクシが復讐を実行する前に捕まってしまいましたわ。
そのうえ、国への反逆を起こそうとしていたという、偽りの証言をエリーザにされてしまったんですの。
仕返しのつもりかは存じませんが、絶対にエリーザは許さない……！ 大人しくワタクシにいじめられていれば良かったのに、こんなことをするから、ワタクシが……この美しく、世界に選ばれし人類である、このワタクシが……！
「ではこれより刑を執行する。罪人よ、こちらに」
「嫌よ！ ワタクシは絶対に死なないわ！！」
なんとか暴れて逃げようとするが、男に腕力で勝てるはずもありませんでしたわ。
それに、どうやら周りには国家お抱えの魔法使い達も配置されているみたいだ。これでは逃げても黒焦げにされてしまうでしょう。
ワタクシも魔法で対抗したいですが、ワタクシは大した魔法は使えません。それに、もそも魔法を封じる腕輪を付けられてしまっているので、魔法自体が使えませんの。
「もう諦めてください」
「い、いやぁ！ 死にたくありませんわ！ 死ぬのは怖いんですの！」
「では最初から、愚かなことをするべきではありませんでしたね」
「うぅ……！」
抵抗虚しくギロチン台にセットされたワタクシには、ギロチンが首を刎ねるのを待つだけとなった。
嫌だ、死にたくありませんわ。もっともっとやりたいことがありましたのに、欲しいものもありましたのに。
首を斬られたらと考えると、恐怖で体がすくむ。涙が溢れ、鼻や口からも無様に液体が漏れ出ております。
こんなの、令嬢としてあるまじき顔ですのに……そんなことなんて、気にする余裕なんてありませんわ。
「最後に言い残すことは？」
「っ……ワタクシは！ ワタクシは悪くありませんの！ 全てはエリーザのせい！！ エリーザ・ヘッカー！ この身が朽ちても恨みは消えませんわ！ 必ず地獄から舞い戻って、お前に復讐――」
最後まで言い終わる前に、執行人がレバーを下ろす。すると、ギロチンを支えていた部分が取れて、私の首を目掛けて一直線に落ちてきた。
そして……一瞬だけ感じた、この世のものじゃないような強い衝撃と共に、ミシェル・スチュワートの人生は幕を下ろした――
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