メアの幸福な思い出(1/1)
メアたちは、片っ端からゲームをプレイしていきます。命令通り、ヒュウも全力で楽しんでいるようでした。メアが遠慮しないでいいと言ったからなのか、どの遊びにもまったく手を抜いていません。
でも、ちょっとやり過ぎのようでした。
「まあ! またヒュウの勝ちなの!?」
メアが自分の手元に一枚だけ残ったジョーカーを見ながら叫びました。
「おかしいわ! わたくし、もう10回連続で負けてるじゃない!」
「11回ですぞ、陛下!」
勝敗を書いた表を見ながら、アモンが訂正します。彼は疑わしそうな顔でヒュウを見ました。
「お前、どうしてこんなに強いんだ?」
「ズルなんかしてませんよ」
ヒュウは申し訳なさそうな顔をします。
「だって、メア様ってすぐ顔に出るんですから。どれがジョーカーか丸分かりですよ」
「でも、さっきやった神経衰弱とかいうゲームでも、お前の一人勝ちだったじゃない! アモンなんて、透視の魔法を使っても負けたのよ!」
「透視の魔法? そんなことしてたんですか? 僕はただ、どこに何のカードが伏せられてるのか覚えてただけですよ」
「七並べは?」
「自分が持っているカードと場に出ているカードから、他の人の手持ちを推測しました」
「しりとり!」
「あれは皆さんが弱かっただけだと……いえ、何でもありません」
ヒュウは苦笑いしました。
「でも、メア様が勝ったのもあるでしょう? 的当てゲームとか、かくれんぼとか……。まさか、屋根の上に登ってるなんて思いませんでした。落ちちゃうかもって心配しなかったんですか?」
「飛行の魔法くらいお手の物よ。それに、何かあったらムーマたちが助けてくれるわ。彼らの羽は飾りじゃないのよ」
ムーマたちはその通り! と言いたそうに頷きます。ヒュウは「羽かあ……」と呟きました。
「人間の世界には、空を飛ぶ乗り物があるんですって。眠りの世界にも、そういうのがあれば面白いかもしれませんね」
「ないならお前が作ればいいじゃない」
「え、僕が?」
ヒュウは意外に思ったようでしたが、メアは「何を驚いているのよ」と返しました。
「お前、手先が器用で頭もいいでしょう。できるわよ」
メアは軽い気持ちでそう言いましたが、ヒュウは「う、うーん……」とうなっています。困らせてしまったのでしょうか?
他の手下は、メアに褒められるとすぐに嬉しそうな顔になってやる気を出します。だから、こんな反応をするヒュウが何を考えているのか、メアにはいまいち分かりませんでした。
その時でした。機関室の方からピー! ピー! と甲高い音が鳴ります。メアは「何事?」と首を傾げました。
「異常を知らせる警報です!」
ヒュウが顔色を変えて機関室へと向かいました。メアも後に続きます。
「警告、警告。間もなくエネルギー切れ。至急、燃料を補充してください。繰り返します。間もなくエネルギー切れ。至急、燃料を補充してください」
「た、大変だ!」
ヒュウがまっ青になりました。
「エ、エネルギー切れ!? どうしよう! こういうとき、どうするんだっけ! ええと、ええと……!」
「ここにマニュアルが置いてあるぞ!」
「ありがとうございます!」
アモンから渡された分厚い本を、ヒュウは急いでめくり始めました。けれど、十ページも読まないうちに、ドリーム・エクスプレスは止まってしまいます。車内も明かりが消えて薄暗くなりました。
「ヒュウ! 列車が止まってしまったわ! 早く何とかなさい!」
「えっと、えっと……あ、そうだ! 皆で汽車を引っ張っていけば……!」
「何をバカなことを言っているの! そんなことをしたら、わたくしのムーマたちが腕を痛めてしまうわ! この列車、相当重いんでしょう?」
「引くのがダメなら……押す! 皆で汽車を押しましょう!」
どうやらヒュウは、ピンチになると頭の良さを発揮できなくなるようです。メアは、彼の代わりに自分が解決方法を考える方が早そうだと思いました。
「しっかりしなさい。いい? エネルギー切れで止まったんだから、普通に考えれば、新しい燃料を持ってきたらまた動くようになるはずよ。ほら、さっきから警告のアナウンスもこう言っているじゃない」
「至急、燃料を補充してください。至急、燃料を補充してください……」
「ああ、そうか!」
ヒュウはポンと両手を打ちました。
「やっぱり僕はダメだなあ……。こんなことにもすぐに気付かないなんて……」
「落ち込むのは後よ。それで、ドリーム・エクスプレスの燃料って何なの? この汽車は何で動いているわけ?」
「『幸福な思い出』ですぞ!」
ヒュウが放り出したマニュアルを読みながら、アモンが言いました。
「後ろの方にある、『おかしいなと思ったら』のページにはこうあります。『万が一走行中にエネルギー切れを起こした場合は、乗客の皆様に協力してもらい、幸福な思い出を集めてください』。乗客の皆様、つまり我々ですな!」
「よし、お前たちに命令よ。今すぐ幸せだったときのことを思い出しなさい。『幸福な思い出をかき集めて、汽車を動かそう作戦』開始! もちろん、ヒュウも協力するのよ」
「わ、分かりました。幸福な思い出、幸福な思い出……」
ヒュウは一生懸命頭をひねります。
「車掌の試験に受かったこと! ……でも、その後で『ヒュウが合格? カンニングでもしたんじゃないの?』って言われたっけ。これは幸福な思い出じゃないかも……。……じゃあ、汽車を自動操縦に改造できたこと! ……あ、そう言えば機械いじりをしてるときに、何度も爆発騒ぎを起こして、ひどく叱られたな……。ええと……他には……」
困り果てた表情でしばらく考え込んでいたヒュウでしたが、やがて肩を落とします。
「ダメだ……。何も思い付かない。……そうだよね。僕みたいな落ちこぼれが、幸せな記憶なんて持ってるわけないんだ……」
「そんなことないでしょ! 一つくらいあるはずよ!」
じれったくなったメアがヒュウを小突きます。
「いいわ。わたくしがお手本を見せてあげる。そうね……まずはヒュウと遊べたこと」
メアの体から、白く光る小さな球体が出てきました。その球体が、機関室の壁際にある装置に吸い寄せられていきます。
その途端、照明が復活しました。明るくなった機関室に、ムーマたちの歓声が響きます。
「さすがは女王様!」
「まだあるわよ。ヒュウとお話できたこと。ヒュウの役に立てたこと。そもそも、ヒュウと出会えたこともそうね」
メアの体から次々と出てくる球体の力により、汽車がガタンゴトンとゆっくり動き出します。
女王の活躍に続こうと、ムーマたちも張り切りました。
「俺もヒュウとゲームできてよかったぜ!」
「キヒヒ! 一回も勝てなかったけど、面白かったよな!」
「ヒュウはどうなんだよ?」
ムーマに促されたヒュウは、「え、ええと……」とためらいがちに呟きます。
「僕も……楽しかった。最初は怖かったけど、今じゃ、ムーマの皆……それに、メア様と知り合いになれて本当に嬉しいと思ってるよ」
ヒュウの体からも光る球体が出てきました。それが装置に吸収されるのを見たメアは、温かな気持ちになります。
自分がヒュウといられて楽しいと思っていたのと同じように、彼も自分たちを好いてくれている。そう思うだけで、笑顔にならずにはいられません。
そして、嬉しいことがもう一つ。前方に大きなゲートが見えてきたのです。
「夢の門だわ!」
窓から顔を出したメアの表情は、ますます輝いていきます。
眠りの世界と人間の世界を繋ぐ通路。ここを通れば、メアの願いは叶うのです。門の向こうにいるまだ見ぬ人間の友だちのことを考えて、メアはわくわくしてきました。




