夏祭りの約束
『第4回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品です。
キーワードは『夏祭り』。
ノリと勢いでギャグになりました。
どうぞお楽しみください。
『夏祭りの夜、一緒に花火を見ようね』
『おう!』
それが冒との約束。
でもその日は雨。
花火の中止を聞いて落ち込む私。
満開の花火を見ながら冒に告白しようと思っていたのに。
そうしたら冒は、
『俺に任せろ!』
と元気よく言うと、翌日から村を出て行った。
そして半年。
「ただいま!」
元気に帰って来た。
来たはいいけど、何その格好……?
あちこち焦げてる作業服。
一体何がどうなってるの?
「花火、見ようぜ!」
「え、でも今冬……」
「大丈夫! 俺花火職人になったから」
「はぁ!?」
何言ってんのこいつ!?
「あ、あんた夏祭りの時の約束のために花火職人になったの!?」
「おう!」
「馬鹿じゃないの!? 一年待てば良かったじゃない!」
「だって少しでも早く見せてやりたいじゃん」
……冒ってそういうとこあるよね……。
馬鹿だけど憎めない。
「最初は都会で何か一発当てて、花火屋さんを買おうかとも思ったんだけど、やっぱ手作りの方が嬉しいだろうと思って」
「人生舐めてるの!?」
やっぱりこいつただの馬鹿だ!
「大体神社の仕事ほっぽり出して何してるのよ! 秋祭りの時、おじさんも村の人も大変だったのよ!?」
「え? いや、むしろ父さんにも村のおじさん達にも、『祭りは任せとけ。千代ちゃんのために頑張れよ』って言われたんだ」
「この村お馬鹿さんしかいないのかな!?」
……あ、ちょっと待って……。
「じゃああんたが私のために花火職人になった事、村のみんなも知ってるって事……?」
「おう!」
「ちくしょう! 誰も教えてくれなかった! 正に村八分!」
「さっき花火の打ち上げ場所の許可取りに消防団のみんなに話したら、村中に知らせてくれるって」
「いやぁ! 公開処刑!」
もうやだ!
いっそ花火にくくりつけて空に散らせて!
「じゃあそろそろ行くぞ」
「どこに!? あの世ならすぐにでも!」
「いや、打ち上げるぞって事だよ。このスイッチを押したら」
押したね。
あ、甲高い音と共に花火が上がる。
大きな花火が開いて、少し遅れてドンという音が響く。
「やべ、押しちゃった」
……よくこれで無事に帰って来れたな。
「でもまぁいいや。どうだ俺の花火。綺麗だろ?」
「……そうね」
続けて打ち上がる花火。
冬に似合わない大輪の花。
夏祭りの決意が……、ってあれ?
「……何あれ」
「ハート。女ってハート好きだろ?」
村の全員がこれ見てるんだよね……?
……告白はもうちょっと考えよう……。
空に輝くハートを死んだ目で見つめながら、私はそう決意した。
読了ありがとうございます。
「この季節に夏祭りって言われても……」と思い、「じゃあその時の約束を冬に叶えさせよう」ここまでは良かったんです。
何がどうしてこうなったのか。
次回のキーワードは『チェックメイト』の予定です。
まーた厄介なのが……。
期待せずお待ちください。