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第三十九話





 小綺麗な客間に通された後、人の気配が遠のいた事を確認してから、白装束に包まれたままのキリノスが、思いきりライネリカを抱きしめた。


「きゃあっ!? ……あっ、兄上さま!」

「なんかライネリカ、すげぇ痩せてない? 飯食えてるか? ちゃんと眠れてるか? バレたらヤバいと思ったけど、着いてきてよかった……!」

「や、痩せましたけど、大丈夫ですわ! ご心配には及びませんわ!」


 矢継ぎの質問に慌てる彼女を尻目に、フィーガスは毛の立った絨毯の上に伏せる。部下たちが部屋を調べながら、甲斐甲斐しく世話をするのに、ただ身を任せていた。

 ライネリカはキリノスに抱きつかれたまま、フィーガスに振り返り、眉尻を下げた。


「弟王閣下、この度は不躾なお呼び出しの無礼、どうぞお許しくださいませ」

「気にしてない。君に何か意図があることは、文面から伝わっている」

「……その……、その方たちは……?」


 忙しなく動き回っていた白装束が、動きを止め壁際へ一列に並んだ。それらは袖を体の前で合わせると、緩やかに腰を折って礼をする。


「僕の部下だ。君は未来の王妃だから、危害を加えるような真似はしない」

「まぁ……、……人間、ではないんですわよね……?」

「そうだな。ローブの中は覗かない方がいい。人間には目に毒だから」


 ライネリカは少し珍妙な物を見る目をしていたものの、気を取り直してキリノスから離れた。名残惜しげに宙へ残された両手を辞退し、彼女は兄にソファーを勧めて、自身も一人掛けのソファーへ腰を下ろす。

 部屋の外で扉を叩く音がして、廊下に控えていたリンドウが僅かに扉を開けた。どうやらいつもの侍女長ではない侍女が、茶会の用意を運んできたらしい。キリノスがフードを被りなおすのを確認してから、ライネリカが入室の許可を出す。

 そして言葉少なに入ってきた侍女と共に、背後から足を踏み入れてきた男に、フィーガスは頤を上げた。


「……ラインギル第一王子」

「失礼します、閣下。同席を許可いただきたく」


 物腰の柔らかい声で、彼は胸に片手を当てて軽く頭を下げる。無表情ながら青い顔で給仕し、急ぎ足で退出する侍女と違い、彼はフィーガスの存在に早々に受け入れたらしい。貴族らしい佇まいに、特に否もなくキリノスの隣をすすめた。


「どうぞ」

「……へいへい、どうぞ、兄上」


 立ち上がってフードを外したキリノスが、片手の平を上にし、わざとらしい仕草でソファーを示す。ライネリカが眉を寄せたのは、彼の仕草がリュグザを模しているからだろう。

 顔を見せた弟王子に、彼も流石に予想外だったようで、面食らった様子で目を見開いた。


「ラバル、お前、シスボイリーを出てきて大丈夫だったのか?」

「大丈夫っスよ。リュグザ殿下は優秀っスからね。騎士団長様もいますし」


 へら、と笑う彼の口から、アスターの名が出たことが幸いしたのか、ラインギルは納得した様子で頷く。

 フィーガス自身、目にする機会がないので、あまり義姉の実力は知らない。しかしここまで信頼を置かれているのなら、ライネリカの『騎士』の中でも強さが上なのだろう。

 ソファーに腰を落ち着かせたラインギルを見てから、キリノスが両手を軽く合わせ、ゆっくりと広げる。両手の間には、幾重にも重なる銀の糸が伸び、軽く手を振った瞬間に部屋中へ飛散した。

 キリノスが、ライネリカの『騎士』として授かった武器だ。

 様々な強度に変わるその糸は、『騎士』達の中でもかなり特殊で、実態を持ったり消えたりを自在に操れるという。こうして室内に広げるときは、外部からの侵入を妨げる結界の役割を果たしていた。

 室内灯を反射し輝いた直後、銀糸は色を失い視界から消え失せる。その様子を見届け、フィーガスは改めてライネリカに向き直った。


「……それで、レディ? 僕に正式な訪問を依頼した本来の目的を聞こうか」


 問いかけに、彼女の表情が目に見えて強張った。あからさまな変化に驚き、慌てて別の言葉を言い添える。


「尋問しようという訳ではないが、理由を聞きたかったんだ」

「い、いえ、申し訳ございません、違うんですわ。……違うんですの」


 何度か深呼吸を繰り返したライネリカに、フィーガスは目を瞬かせる。

 彼女から届いた、エイロス国第二王女としての正式な書状。それには異国の王として、正門から正式に国へ来てほしい、という事しか書かれていなかった。

 フィーガスは人間世界の常識に自らを括るほど、人間の国へ興味がない。否と唱え、いつでも空から訪問することはできた。しかしライネリカの書状からは、大々的に行進し城門をくぐることでしか得られない、大切な要件があるように思えたのだ。

 ライネリカは片手を胸の前で握りしめ、ようやく顔を上げる。痩せて、何かに怯えて、それでも前に進まねばならない自らを鼓舞するような、強い光を宿す瞳だった。


「フィーガス弟王閣下に、正式に訪問して頂かなければ、安心してお連れできない場所に、ご案内いたします」

「…………それは?」

「我がエイロス国、……国母シガリア様の、ところですわ」


 思いもよらない衝撃的な申し出に、フィーガスは周囲に構わず立ち上がった。



 

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