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不測の事態

 だが、タイミングが悪かった。コロンコがオレンジ色のゴムボールを両手でつかんですぐに、本来の部屋の主が入ってきた。その子は「こやままや」という名前であることを、コロンコはこの家に来て早々に知った。クレヨンの1本1本や、幼稚園指定のカバン、それにコロンコが布団として使っているハンカチにも、その名前が書いてあったからだ。


「ここがわたしの部屋だよ」


 こやままやが自慢げに部屋の中央、おもちゃ箱の正面あたりに立ち止まる。コロンコは身を縮めた。あと2つ、知らない足音が続いている。


「へえ、なかなかいいんじゃない?」

 女の子だが、こやままやではない声が答える。

「ま、ふつうだな」

 もう1人は男の子だった。


「こら、トモキ! 女の子に向かってそんな言い方、失礼でしょ!」

「だってさ、オレ女の子の部屋なんてリンコ以外の見たことないから、よくわかんねーもん。あ、リンコは男っぽいからノーカンか」

「あんたね、ぶっとばすよ!」


 リンコという女の子がいきり立つのを、「まあまあ」とこやままやがなだめる。


「リンちゃん、いいよ気にしてないから。それに、トモくんが好きそうな車とかロボとか、あんまり持ってないのは本当だし」

「なんだ、つまんねー」


 バシッと軽い衝撃音。


「イッテー!」

「マーヤは優しすぎるんだよ。イヤなときはイヤって言っていいからね。そしたら、あたしが代わりにぶっとばしてあげる」

「いや、本当に気にしてないから……」

「はん、そういうのおせっかいって言うんだよ! 見ろ、マーヤ困ってるぞ」


「……ねえねえ、ふたりともコレ見て!」


 スケッチブックをめくる音がする。


「どうしたの?」

「……なに、コレ?」


 コロンコもつま先立ちになり、箱の隙間から外をのぞいた。

 こやままや、あだ名でマーヤとも呼ばれている少女が開いているページには、キャンディを両脇に抱えた黒っぽいネズミのようなモグラのような生き物が描かれていた。


 コロンコの全身の毛が逆立った。


 自分の姿が、見られている!!


「おとといの夜、わたしの部屋に出たの。かわいいでしょ?」

「なるほど、そいつが例の謎の小人か」

「小人っていうか、動物みたい。しっぽもあるんだ」

「そうなの。でも、絵本を読むのも好きみたい。昨日、机の上に広げておいたら一生懸命見てたから」


 ……完全にバレている!


 コロンコの心臓はバクバクと脈打った。少々油断しすぎてしまったらしい。こんな小さな子どもに、おびき出すための罠まで仕掛けられていたとは!

 コロンコのヤカクレとしてのプライドに傷がついた。


「本当かよ。夢でも見たんじゃねーの?」

「ただの夢だったら、あめ玉が減ったりしないもん」

「よーし、とにかくその小人が本当にいるかどうか、確かめればいいのね」


 リンコという少女がはりきって腕をまくった。


「うん。でも、びっくりさせたらかわいそうだから、そおっとね」

「それで、捕まえたらどうするの?」

「うーん、それは考えてなかった」とマーヤはしばし考えこんで、

「お友だちになる!」と答えた。

「へっ、バカバカしい。そんなのいるわけねーじゃん」

 トモキという少年は腕を組んで座りこんだ。

「こら! そんな言い方ないでしょ!」


 バシッと一発。


「ってーな!!」

「マーヤが嘘ついてるとは思えない。あたしは手伝うよ」

 リンコがにこりと笑いかけ、トモキの背中をたたく。

「わーったよ、オレも手伝う」

 トモキがしぶしぶいうと、マーヤの顔にぱーっと笑顔が咲いた。

「ありがとう!」

「べ、べつにいいよ……」


「さあて、担当決めようか。あたしはクローゼットのあたり探すよ」

「ありがと。わたしは机と本棚を見てみるね」

「じゃ、おれはおもちゃ箱で」

「あんた、遊びたいだけじゃないの?」

「ちげーよ、いちいちうるさい奴だな」


 こうして、にぎやかな小人捜索が始まった。


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