表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

不気味な少年

作者: ひぐち

よくある話。でも良くない話。


夜の公園で1人の男がベンチに座っていた。

髪は乱れ無精髭を生やし、着ている服は薄汚れている。

男が外に出たのは実に10年ぶりだった。彼は罪を犯していた。

男は遠くを見つめてふとあの日の出来事を思い出した。


その日、男は高速道路を走っていた。

日はとっくに沈んでおり、視界も悪かった。男は眠気と戦いながら運転していた。

一刻も早く家に帰りたかった彼はスピードをさらに上げた。

しかし疲れと眠気によって彼の集中力は切れていたため、前方で尾灯を点滅して駐車している車に気づかなかった。

男はそのままその車に衝突してしまったのだ。

男は一命を取りとめたが、衝突された車の後部座席に座っていた子供は即死、前部座席に座っていた夫婦は病院に搬送された後死亡が確認された。


男はこの事件で逮捕され、10年間を塀の中で過ごし、昨日ようやく刑期を終えた。

だが外に出ても男にはやることがなかった。

男には何も残っていなかった。

金も家も車もない。

やることといえば、こうして公園でぼーっと考え事をすること以外なかったのだ。


男は捨てられていた吸殻を見つけて口に咥えた。当然味はなく、男は舌打ちして地面に捨てた。吸殻を足ですり潰していると、突然声がした。

顔を挙げると制服を着た少年がしゃがみこんでこちらを見ていた。

少年の顔があまりに近くて、驚いた男は思わず後ろにのけぞった。

少年は「びっくりした?」と言って微笑む。

男は一瞬ムッとしたがすぐに冷静になり少年に尋ねる。


「なんだお前は」

「おじさん今タバコポイ捨てしたでしょ。俺ちゃんと見てたから」

「うるせぇ」

「拾いなよ。ポイ捨てはいけないって知らないの」


男はこの少年を殴ってやりたかった。

しかし再び警察の世話になりたくなかった。

男は渋々吸殻を拾いポケットに収めた。


少年は何も言わずに男の隣に座った。

男はちらりと目を横にやる。

黒髪で短髪。肌は不気味なほど白い。どこの学校かは知らないが制服を着ている。手には何も持っていなかった。


男はこの少年を煩わしく思った。


「…お前、まだ未成年だろ。夜出歩いていいのか。親御さん心配するぞ」

「いいんだ。ていうか帰りたくない」

「なんでだよ」

「親が嫌いなんだ」

「嫌い?」

「殺したいくらい嫌いだ」


男は驚いた。大人しそうな少年の口からそんな物騒な言葉が出てくるのは意外だったからだ。


「…殺してもいいことねぇぞ。塀の中の暮らしはつまらないからな」

「おじさんやっぱり捕まったんだ」

「やっぱりって何だ」

「雰囲気がそんな感じ」


失礼な奴だ。親の顔が見てみたい。

男はますます少年を煩わしく思った。


「おじさんはどうして捕まったの?」

「…人を殺した」

「どうやって?」

「駐車してた車に突っ込んだ」

「どうして突っ込んだの?」

「眠かったから」

「おじさん、罪悪感とかないの?」


男は少年を睨んだ。しかし少年は怯んだ様子を見せない。むしろ興味津々な様子だ。男は少年を不気味に思った。


「罪悪感はないな。車を止めてなきゃ死なずに済んだんだ。俺は悪くない。自業自得だ」

「そうだね。それで良いと思うよ」


同感する少年に男は少し恐怖を抱いた。

男が立ち去ろうと腰を上げると少年は男の裾を掴む。


「待って。おじさんを連れて行きたい場所がある」


少年はじっと男を見つめる。

躊躇ったが後で少年に何かあったら面倒くさいと考え、男は少年について行った。


少年は薄暗い路地を通っていく。

男はしばらく黙ってついて行ったが思ったよりも早く着かない。

痺れを切らした男は「いつになったら着くんだ」と尋ねたが少年は「もう少し」とだけ言って先へ進む。


30分程度歩いた後、少年が立ち止まった。

そこは古びた工場だった。門の柱には何か書かれていたが読み取ることはできない。

少年は男の手を引いて中に入る。


工場の奥に進むと何か大きな物体が見えて来た。

さらに近づくと男はそれが何か分かった。

男は恐怖で体を震わせた。恐る恐る少年に目を向ける。


「覚えてる?これ」


少年はそれに手を置いた。

男はやっとの思いで声を絞り出す。


「…お、…お前…何者だよ…」


少年は男にゆっくりと近づく。

顔に浮かべる柔らかな微笑みが男にとってはひどく恐ろしかった。


「あの日の子供だよ」


たちまち背筋が凍り、男は腰が抜け尻餅をついた。

近づいてくる少年から逃げようと必死に後退りする。


「なんなんだよ…」

「おじさん怖がらないでよ」

「俺に復讐するつもりか…?」

「違うよ。その逆」

「は?」


少年はおもむろに制服を脱ぐと上半身を男に見せた。

その恐ろしく白い体にはおびただしいほどの痣があった。

痣だけではなく、火傷の痛々しい痕も残っている。

これらは事故の際の外傷だろうか。だがその外傷は外からは見えない、服で隠される場所に浮き出ている。


男は意味が分からなかった。

震える男の手を握ると少年は言った。


「ありがとう」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ